空は見えても足元は見えない、またその逆もありうる
ルークがいなくなった後、僕は一人で公園に取り残された。
今は心春とも顔を合わせたくなくて、そのまま家に帰る。
「ただいま……」
親はまだ帰ってなかったらしい。静まり返った家に、僕の声だけが響いて消える。
いつもなら、ルークが話しかけてきてくれたんだけどね。
寂しさなんてあるはずがない。だって、これはルークがやってくる前の僕の日常なんだから。
「とにかく、これで僕はもう魔法少女として戦うなんて、そんな変な生活から解放されたんだから。よかったじゃん。」
わざわざ口に出してそういったところで、僕は悲しいような、寂しいような、よくわからない気分に苛まされる。
「…………」
ああ、もう考えるのはやめだやめだ。また僕は明日から自由な暮らしができるんだ。こんなに素晴らしいことはほかにない。
僕は寝間着に着替えることなくベッドにダイブした。
ポケットに固い感触。どうやらジュエルフォンを持ちかえってきてしまったらしい。僕はもうこんなもの見たくないと、部屋のゴミ箱に向かって投げつけた。
直後、どっと疲れが押し寄せてきて、間もなく僕は眠りに落ちた。
次の朝、ずーんと沈んだ気分で目が覚める。
昨日の出来事、あの地獄絵図が、夢だったらいいのに。そうだったらよかったのに。ふとそんなことを思った。
けど、朝ごはんを食べながら見ていたニュースで、研究所の爆発が大きく報道されていて、さらにその番組のなかで近くのドライバーが撮った動画に僕と心春らしき姿が映っているのを見て、あの出来事は紛れもない現実だったことを思い知らされる。
あれから病院に運ばれたけど何人かはお医者さんの努力のかいなく死んでしまい、死者の数は三十人近くに上ったらしい。それ以外にも重傷者が五十人いるとニュースキャスターは言っていた。
『ここに映っているのは最近この辺りの地域でいくつか目撃情報などがある「魔法少女」だと思うのですが、これについて岩倉さんはどう思われるでしょうか』
『にわかには信じがたいことですが、もしも彼女たちが本当に魔法少女たる存在なのであれば、ヒーローもののお約束で言うなら「彼女たちがこの研究所に攻め入って、それによってひと悶着あった末に、研究所にあらかじめ仕掛けられた自爆装置が起動した」と考えるのが自然ですかね。まあそんなことあるわけないですが』
それがあるんだよなあ、と思いながら、やたら察しのいいコメンテーターが映っているテレビ画面のスイッチを切る。はぁとため息をついて、僕は少し早いけれどもう学校へと向かうことに決めた。
「おはよ! 優くん!」
マンションの出口に心春が立っていて、僕の姿を見て元気よくそう言ってきた。
僕としては一人で静かに登校したかったんだけどな。
「元気ないよ。優くん。普段から暗いけど、いつもにも増して暗すぎるよ」
歩きながらそう僕に失礼な言葉を吐きまくる心春。
「うるさいな。心春には関係ないでしょ」
「関係あるよ」
突然真剣な面持ちになって、僕の前に立つ心春。
「昨日のこと、やっぱり責任感じてるの? 優くんのせいじゃないよ」
「……けど、だとしても。僕はもうあんな想いはしたくない。心春は、心春は平気なの? 目の前で人が死んで、それでも血も涙もない『悪』と戦わなくちゃいけない。怪人やキングの間抜けさからすっかり忘れていたけど、あいつらは『悪』なんだよ。悪いことをするから『悪の組織』なんだよ。まともな人間は、そうはならない」
「わかるよ。わかってるよ。そこは私もつらい。だけど、私たちが戦わなくちゃ、もっと多くの人が苦しむことになっちゃう」
「もうたくさんなんだよ! 僕には心春のような責任感なんてない。なのに悪いやつらとの戦いに駆り出されて、それでいてもっとうまくやれば助けられたんじゃないかとか、そんなことに悩むのはまっぴらごめんだ! 僕はもう二度と魔法少女なんてやるつもりはない!」
その言葉に目を見開く心春。その後ろから「あのー」と言いながらビショップがひょっこり顔を出した。
「ルーク様の気配が感じられないのでちゅが、まさか……」
「そうだよ。僕とルークはもう契約を破棄した。今頃あいつがどこで何をしてるのかも知らない。だからもう僕には関わらないで!」
僕は心春とビショップにそう告げて走り出す。どうせあとで教室で会うことになってしまうんだけど、一秒でも早くこの心春との会話を切り上げたかった。




