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悪の組織の構成員は避難訓練とかしてるんだろうか

「待て! クイーン! 俺たちと勝負しやがれ!」

「ルーク。そう焦るな。いずれお前たちとも決着をつけてやろう。その時まで、しばしの猶予だ。ありがたく思うがいい」


 そう言い残してクイーンはキングロボの陰に身を隠した。僕は慌てて追いかけたけど、もうそこにクイーンはいなかった。どうやら逃げられたらしい。


『自爆9分前。総員、直ちに避難せよ。繰り返す。総員。直ちに避難せよ』


 まずい。こうしている間にも、どんどん爆発の時刻が迫ってくる。

 今はクイーンのことを放置するしかない。とにかく逃げないと。


「キング! どこから逃げるのが一番早いの!?」


 僕がそう尋ねると、キングは倉庫の端にあるシャッターを指さした。


「あの向こうに何台かトラックが停まっておる。荷台に構成員たちを乗せて逃げるのが一番じゃろう。車用の地下通路には爆弾は仕掛けられてないしの。もっとも、爆発の影響が及ぶ可能性は否定できはせんから、なるべく早く逃げる必要はあるが」

「よし、地上階と地下一階の人はそのまま1階の出入り口から逃げてもらうとして、地下二階の人をここから逃がそう」


 地下二階の天井がかなり高いから、地上から逃げるのは厳しいだろう。エレベータは見たところ三つしかないし、どう考えても足りない。


「トラックが何台かあるのなら、ある程度の人数乗せたらすぐに発車していいね。万が一地下一階から降りてきちゃった人がいても、その人には別のトラックで逃げてもらえばいい」


 段取りを確認し、さあ行動に移ろうとしたところで、キングはシャッターとは逆方向に向けて歩き出す。


「キング! どこいくの!」

「資料室じゃ。あそこにはわしの命より大切な研究成果が置かれておる。せめて、一部だけでも持ち出さなければ」

「おじいちゃん。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 今は逃げないと」

「嫌じゃ! せめて、今書きかけの論文と付随資料だけでも……っ!」


 ああもう。これだから研究バカは困る。

 だけど、これまでの言動から言って、キングはもうこうなったらてこでも動かなさそうだ。早苗さんは「わかったわよ。ついて行ってあげるから、その代わり最低限のものだけにして」といった。



「じゃあ僕もついていくよ。心春はみんなの誘導をお願い」

「う、うん。わかった。優くんもなるべく早く逃げてね」


「わかってるよ」



 キングのために自分の身を危険に晒すなんて御免だけど、二人で行かせるのは早苗さんが危ないのではないかという不安があった。

 おかしいね。昔の僕なら絶対こんなこと考えなかったのに。僕にも魔法少女としての自覚ってやつが芽生えてきてしまったんだろうか。気に入らない話だ。


『自爆7分前。総員直ちに避難せよ』


 僕とキングと早苗さんの三人は、倉庫に駆け込んでくる怪人や職員たちの動きに逆行し、先ほどの通路を逆向きに走る。幸いにも僕らが地下三階に行ってから動いていないエレベーターを呼び出して、地下一階へ。


『自爆4分前。総員直ちに離脱せよ』


 地下一階は地下二階と同じように細長い通路が伸びていた。キングは手前にある部屋の扉を開き、中に入る。

 膨大な段ボールと書籍が積まれた部屋。その中からキングは的確に目的のものをピックアップしていく。どこになにがあるのかとか覚えてるのかな。さすが専門に関することに対してだけは頭が働くらしい。


「おじいちゃん! はやく!」

「もう少しじゃ! あとほんの……」



 そうしてキングは一枚の紙を拾い上げて、大量の本と紙を抱えながら「逃げるぞ!」と叫ぶ。僕たちが資料室を出た直後、『自爆60秒前、59、58、57……』とカウントダウンが始まった。

 この資料を抱えたキングが一分で脱出するのは不可能だろう。僕は「貸して!」と資料を奪い取り、二人はこのまま全力で逃げるように告げた。

 普段の僕ならこんなものをもって逃げるなんて不可能だけど、魔法少女になっている今は別だ。僕は早苗さんとキングにおくれを取らずに走り、階段を上って一階へ。そのまま自動ドアを抜けて外に出た。


『10、9、8、7……』


「少しでも遠くに逃げるのじゃ! ここにいては巻き込まれるぞ!」


 できれば心春たちの避難がうまくいってるのか確認したかったけど、到底そんな余裕はなさそうだ。

 僕は必死に坂を駆け下りる。「みんな伏せて!」という早苗さんの叫び声を聞いて、あわてて資料を投げ出し地面にうずくまった。


 直後、背後から聞こえる巨大な爆発音。その爆風は僕らのいるところにまで及んできて、僕らは抵抗むなしく弾き飛ばされる。

 僕の体はふわりと宙を舞った。その瞬間、僕はとっさに魔法で箒を呼び出して、飛行魔法を使うことで背後の岩に頭をぶつけずに済んだ。

 地面に降り立った僕は、すぐ近くに早苗さんの体が転がっているのに気づく。


「早苗さん! 大丈夫?」


「大丈夫。あたしは擦り傷だけ……。けど、おじいちゃんが」


 そう言いながら立ち上がった早苗さんの指さす先、そこではキングが岩に頭をぶつけて、頭から血を流して倒れていた。


「キング!」


 僕は慌ててキングに駆け寄る。どうやら意識を失ってしまっているらしい。かなりひどく頭をぶつけた

らしく、血がダラダラとあふれ続けている。


「今すぐ救急車を呼ぶから、君はアジトのほうで逃げ遅れた人を助けに行って」


 早苗さんに言われて、僕は先ほどまでアジトのあった場所を見る。

 ビルはただの瓦礫の山と化していて、煙が上がっていた。

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