悪の組織に限らずロボは合体の瞬間が最大の弱点
そのキングの言葉とともに、キングロボたちの目に光が灯り、大きな機械音を挙げて動き始める。
「まずい。優。合体されれば奴のロボを止める手段はねえ。なんとしても合体を阻止するんだ」
「え。ソシャゲにかまけて学会追放されるような人が作ったロボットなんて、脅威になるのかな」
「お前これまで俺の話聞いてたのか。あいつは確かにバカで間抜けだが、科学者としての能力だけは本物だ。1号の設計図は少しだけ見たことがある。若干の誇張はあるかもしれないが、合体を成功させれば俺たちに勝ち目がないことは明白だ」
「合体を止めるといったって、どうやって」
「そんな方法があるわけなかろう! 一度合体モードに入れば、たとえわしの意思でも途中で止めることは不可能じゃ!」
「詳しい説明はあとだ。優、とにかく俺の指示にしたがって動け!」
「う、うん」
「ルーク様。あたちたちもいきまちゅ」
「そうだね。ルーク。私にも手伝わせて」
「お前らはここで待機して、隙を見せたときジジイに必殺技を叩き込んでくれ。タイミングはわかるはずだ。いくぞ、優!」
「おっけ!」
ルークからまだ説明を受けてないけど、代案もない僕はとりあえずルークの言う通り走り出した。おそらく言ってキングにばれたらオシャカになってしまう作戦なのだろう。
「わしを攻撃するつもりか? 無駄なことを。わしにはバリアがある上に、仮にわしを殺しても合体は止められんわい」
なんかぶつぶつと言っているキングの横を素通りし、僕とルークはキングロボたちに向かって駆け寄る。
キングロボ1号と2号が接近し、1号が飛び上がって2号の胸に飛び込む形となる。直後、プシューという音とともに隙間から蒸気を漏らしながら両方のロボの胸部が開き、いくつもの回転するギアが露出した。
「今だ! あれに攻撃しろ!」
「マジカルビーム!」
僕の放ったビームは、まっすぐにロボ同士が結合しようとしていた部分に直撃する。破壊するまでには至らなかったものの、いくつかの部品を吹き飛ばした。
「き、貴様ら! 合体中の部位を攻撃するなんて人間のすることではないぞ!」
「敵の前で弱点をさらけ出す方が悪いんだよバーカ!」
ルークはキングに向かって思いきり舌を出す。
ルークの作戦とは、合体するときに露出する内部機構を攻撃するというものなんだ。どんなにキングロボが強い装甲を持っていたとしても、向こうからそれを剥がして弱点を見せてくれるのだから、その瞬間にそこを攻撃できればこれほど楽なことはない。
2台のキングロボは胸の辺りのギアをうまく噛み合わせることができず、共に露出したギアを再び胸にしまいこんだ。
「ぐぬぬ……。中央機関部の接合に失敗したか。しかし問題ない。他の部分での合体に成功すれば、不完全ではあるがそれでも超強力なロボにはなれる!」
「へっ。そうはさせるかよ! 優、今度は右足だ!」
その後、僕は合体しようとして露出したジョイント部分を順番に壊していくことで、キングロボ同士の合体を阻止し続けた。多数の箇所が同時に接合を始めたら間に合わなかった可能性もあるけど、どうやらキングロボはそういうシステムにはなっていなかったらしい。
合体をことごとく阻止されたキングロボは、何やら誤作動を起こした様子で手足をがちゃがちゃと動かしてもがいていた。
「そ、そんな馬鹿な。わしの最高傑作が。世間をあっと言わせるはずの天才的発明が……」
キングはその光景を見て手をわなわなと震わせる。そして持っていた端末を床に叩き付けて、「うがああああああああああああああ!」と叫び声をあげ、頭を抱えうずくまった。
「こんなはずではなかった。この発明で、わしはこの世界の支配者になるはずじゃったのに……っ! どうして!」
「そりゃまあ、最初から合体した状態で作らなかったことと、一度に全体を結合させなかったからじゃないの」
「合体ロボは男のロマンじゃろ! 一か所ずつ合体していくのもまた然りじゃ! 女装趣味の変態坊主にはわからんかもしれんがの!」
なんてことを言い出すんだ! 僕は好きでこの格好をしてるわけじゃないのに!
僕はこれまでにないほどの怒りをキングに対して感じ、思わずキングに掴みかかりそうになったところをルークに止められる。
「まあまあ。言ったろ。その衣装はお前の潜在意識の願望から作られたんだ。女装趣味というのもあながち間違いじゃねえよ」
前々から君そういってるけど、僕はこの衣装が僕の願望から作られただなんて絶対に認めないからね!
あとその話を認めたうえで変態度合の話をするなら、あんなエロい露出狂みたいな恰好してる心春のほうがよっぽどだと思うんだけど。
うずくまって絶望を隠そうともしないキングに、早苗さんがゆっくりと歩み寄る。
「おじいちゃん、これを見て」
早苗さんはキングに向かって何やらカードを差し出した。キングは顔をあげてそれを見る。
「これは、わしの会員証……?」
「ちょうどおじいちゃんの家に今日届いたの」
「なぜじゃ。わしはすでに学会を追放されているはず」
早苗さんはそれを聞いて、あきれた様子ではぁと息を吐く。
「だから、ちゃんと延滞してた分をあたしが立て替えてあげたの。これでおじいちゃんはまた学会に戻れるから」




