悪の組織の高齢マッドサイエンティストがロリの二次元キャラをママと呼んだ
ガチャ。
それを聞いたとき、僕はキングの言葉の意味が理解できなかった。
えっと、ガチャってくじ引き的なあれだよね。最近だとソシャゲでランダムにカードが出てくるシステムのことをそう呼ぶこともある。
そのソシャゲにおいては、ガチャは無料で引くことができるけど、お金を払えばもっと多く引くことができるようになっているものがほとんどだ。なかには欲しいレアカードのために、生活費を大量につぎ込んでしまう人もいるのだという。
そして僕は気づく。そのあまりにおそろしい可能性に。
そんなはずはない。そんなわけがないんだ。僕は否定したいところだけど、これまでのキングの言動を考えると、ありえない話ではないと思えてしまうところがおそろしい。
ま、まさか、Dr.キングは……。
「キング。まさか君は、ガチャに課金するだなんて、そんなことために、学会費を滞納する選択をしたというの?」
「そんなこととはなんじゃ! わしはなんとしてもあの日実装された小雪ちゃんのURを二枚引かなければならなかったのじゃ! それは学会に会費を納めることよりも重要なことに決まっておる!」
「はぁ!? あんた頭おかしいんじゃないの!?」
僕は思わず叫んでしまった。
でもしょうがないじゃん!! 教授になれる程度にはその道で実績出してる学者が、学会にいることよりもソシャゲのガチャ引くことを優先するなんて、どうかしてるとしか表現しようがない。
しかもそれが原因で学会追放されて、学会への復讐に燃えてるなんて、ただの逆恨み以外の何物でもないじゃないか!
「小雪たんは天使じゃ! むしろママなのじゃ! 研究に行き詰ったときも、いつも小雪たそだけはその明るい笑顔でわしを癒してくれた! その母性と可憐さに、わしは心を奪われたのじゃ! 婆さんが浮気と言おうが関係ない! わしは死ぬまで小雪たそを推し続けるのじゃ!!」
キングはそう叫ぶとともに、近くの壁についているディスプレイを指差した。構成員がその様子を見てなにやらリモコンのようなものを操作すると、ディスプレイのスイッチが入り、そこにはロリ系の美少女キャラクターが映し出される。
なんかこのキャラ、真夜中にアニメの合間にやってるソシャゲのCMで見たことがあるような気がするね。
「小雪たそはその圧倒的なバブみでわしを支えてくれた。新URが実装されたときは、わしの持つあらゆる小遣いをつぎ込んでガチャを回したわい。しかし、小雪たそは一枚しかわしの前に姿を現してくれなかった。このままでは小雪たそを覚醒させることができん。すなわち、真の姿を拝むことはできないのじゃ。かといって家の金をガチャにつぎ込んだりしたら、婆さんに怒られる。下手すれば熟年離婚の危機じゃ。思い悩むわしの手の中にあったのは、学会に収めるための年会費じゃった。わしは学会と小雪ママを秤にかけ、そしてプリペイドカードを購入することに決めたのじゃ。最後のiTuneカードを使ったとき、ついに二枚目の彼女は姿を現した」
そしてディスプレイの映像が切り替わる。先ほどのキャラのよりゴージャスな絵だ。これが覚醒後の姿とやらなのかな。
「しかし問題はそのあとじゃ。わしは延納願を学会に提出したが、受理されなかった。さらにわしはもうそれなりに学会に長く貢献してきたうえ、それなりに成果を出し続けてきたのだから、名誉会員として年会費を免除されるべきと主張した。しかし、学会のバカどもはわしの言葉を聞き入れようとはしなかった。そしてわしは理解力のないバカどもによって除籍されたのじゃ!」
「バカはどっちだよ! 学会の人たちなんにも悪いことしてないよ!」
僕の叫びはキングの耳には入らない。キングはさらに熱がこもった様子で語り続ける。
「ゆえに、わしは復讐する! わしを追放した愚かな学会の連中に! わしを除け者にした、学術界にな! がっかいちほーにおいてであろうと、たとえ獣はいても、除け者はいてはいかんのじゃあああ!!!!!」
除け者にしたっていうか、自分からのけ者にされたも同然だと思うんだけど。
「さあ、もうおしゃべりは終わりじゃ! わしの最高傑作、キングロボで、貴様らを踏みつぶしてくれよう!」
キングは懐からなにやら端末を取り出して操作する。その直後、倉庫の端にある巨大なシャッターが開き、ガシャンガシャンと音を立てながら、小さなロボットが入ってきた。
小さいといっても、あくまでそれはここにもともとあったキングロボと比べた場合の話。小さいほうのロボも20メートルくらいのサイズはあるんじゃないだろうか。十分巨大ロボといえる大きさだ。
「キングロボ1号! そして2号! 合体変身をし、今こそ究極完全体アルティメット・キングロボZとなるのじゃ!」




