悪の組織のマッドサイエンティストは廃課金兵だった
「へっ。ずいぶんと安直な名前つけるじゃねえか。ジジイ」
「ルークよ。そう言うでない。わしももっと凝った名前をいくつも考えていたのじゃが、ことごとく著作権がどうのこうの言われ、部下どもに却下されての」
詳しいことを聞くのはやめておこう。
「けど、なんで2号なの?」
「よくぞ聞いてくれた。実はこのキングロボは1号と合体することにより、究極完全体アルティメット・キングロボZになるのじゃ! 合体すれば核兵器すら耐える圧倒的な耐久力と、小さな島程度なら一撃で海に沈める非常識なほどの火力、そして音速をはるかに上回る飛行速度を得ることができるのじゃ!」
「あっ……」
僕は初めて魔法少女に変身した日、二番目に銀行で戦ったナイトと名乗る怪人のことを思い出して、思わず声を漏らす。これはもうオチが見えてるんじゃないか?
「いちおう言っておくが、衝撃波で自滅することなんて期待するでないぞ。わしが直々に発明したこのロボ。もちろん万全な対策はとっておるわい! 高スペックなパソコンを用いた度重なる数値計算でのシュミレーション、大学の研究室を間借りしてのテストにより、少なくともマッハ100まで耐えられることは検証済みじゃ! しかも超大容量電池を使うことにより、充電なしでも丸3日の活動が可能。納得のスペックになっておる!」
なにそのパソコンかスマホの宣伝みたいな語り口!?
しかしあきれている場合ではない。やはりキングは怪人たちとは格が違うらしい。一筋縄でいく敵ではなさそうだ。
「動くな!」
僕らがキングのロボが放つ迫力に圧倒されていると、後ろから叫び声が聞こえた。慌てて振り返ると、一体の怪人が早苗さんの首に腕を回し、鼻先にサバイバルナイフを突きつけていた。
「キング様のロボに気を取られて、お仲間を守ることを怠ったな。いいか。お前ら一歩もうごくんじゃないぞ。動いたら、こいつの命はねえ!」
しまった。この怪人の言う通り、キングロボに意識が向いていて、早苗さんを守ることを忘れてしまっていた。なんて失態だ。
「いいか! こいつを殺されたくなかったら、今すぐ変身を解除してジュエルフォンをこちらに渡せ!」
怪人は僕らにとんでもない要求を突きつけてきた。変身を解除してジュエルフォンも渡したら、僕らは丸腰。どうすることもできなくなる。ただ殺してくださいと頼むようなものだ。
けど、このままだと早苗さんが……。
「Dr.キング。いかがですか。オレ、活躍したでしょう。これでオレももっと上の役職に昇進させてもらえますよね」
なにやらキングに対して交渉を始める怪人。一方のキングはというと、それを見て何やら口をわなわなと言わせ、信じられないものを見たかのように目を見開いていた。
「ばっかもん! 今すぐそいつを離せ!」
「え!? どうしてですか。Dr.キング。この人質がいれば、容易にこいつらを屈服させることができるのではないですか!」
「どうせこやつらはキングロボでつぶすつもりなのじゃ! それより、そいつはわしの孫じゃぞ! なんてことをしてくれるのじゃ!」
キングの言葉を聞いて、怪人が「えっ……」と驚いた様子を見せる。
「ほ、本当にDr.キングのお孫さんなのか……?」
「柳田早苗って言います……。お生憎ですが、あの人の息子の娘です」
怪人は顔面蒼白になって早苗さんを解放する。
「す、すみませんでした!」
怪人はそのまま廊下に向けて走り出した。キングは「そいつを捕まえろ!」と叫び、直後怪人は他のたくさんの怪人にとり囲まれ、「いやだ! 禁門室だけは! 勘弁してくれ!」とわめきながら、ずるずると引きずられていった。
驚いた。この爺さん、てっきりすでに家族のことなんてどうでもよくなってると思ってたけど、孫がひどい目に遭ったら怒る程度には大事に考えてたんだね。
「おじいちゃん。あたしのことなんて、どうでもよかったんじゃないの……?」
早苗さんがキングに向かって呟く。
「そんなわけがなかろう。お前さんはわしの大事な孫じゃよ。ただ、今は目的があって、構ってやるだけの余裕がないだけじゃ」
キングは大層不機嫌そうにそう吐き捨てた。
この人、思ってたよりはまともな、話の通じる人なのかもしれない。なら、気になっていたことを確かめてみてもいいだろう。
僕は早苗さんにキングの学会追放理由を聞いてから、ずっと疑問に思っていたことを本人に直接尋ねることにした。
「Dr.キング。どうして年会費滞納なんてしでかしたんだよ。そんなことしたら、学会を追放されるってわかりきってたはずじゃないか」
「もちろんじゃ。しかし、わしにはどうしても学会に会費を納めることができなかったのじゃ」
「確か悪の組織を立ち上げる前は、大学の教授をやってたんでしょ? じゃあそれなりに稼ぎもあったはず」
「その時のわしには、どうしても他に金が必要じゃった。何にもおいて金をかけるべきことがあったのじゃ」
真剣な面持ちで語るDr.キング。
なにか、この男にも事情があったのだろうか。それで年会費を滞納して学会を追放されたら怒るに値するような、仕方のない事情が。
例えば、大切な人が病気になってその治療費が必要だったとか? いやまあそれなら早苗さんが、僕らに年会費滞納が学会追放事由だと語った時点で、その話をしない理由が見当たらないか。
わからない、Dr.キングがどういう事情で年会費滞納せざるを得ない状況に追い込まれたのか。考えても仕方がないから、ここはおとなしく彼の言葉を聞くことにしよう。
「わしが年会費を払えなかった理由、それは……」
僕らは固唾を飲んで、その次にDr.キングの語る言葉を待った。
静寂に包まれる倉庫の中で、中央に立つキングはゆっくりと口を開いた。
「ガチャ、じゃ」




