悪の組織の情報収集力はかなりちぐはぐ
僕らは駐車場にある階段を上って、地下二階へ。目の前には真っ直ぐ廊下が伸びており、その両端にはたくさんの部屋が並んでいた。全身タイツを着た怪人たちが、慌ただしく通路を行き来しの中を走り回っている。
「て、敵襲だ!」
階段の近くにいた怪人が、僕らの姿を見て叫ぶ。いよいよ戦闘だ。僕と心春はステッキを構えた。
「あれ……?」
しかしどういうわけか他の怪人たちは一切反応しようとしない。その叫び声など聞こえなかったかのように、これまでと変わらない動きを続けている。
「いや、ほんとに敵襲なんですって! あれから電気の契約を見直しているし、地下に自家発電装置までつけているわけだから、ブレーカーが落ちるわけがないんですって! とにかくほんとに敵襲ですから、対応願います!」
そう叫んで怪人は通信機をしまう。
ああ、過去にブレーカーが落ちただけのところを敵襲だと勘違いして大騒ぎしたことがあるんだね、君たちは。
直後、頭上の赤いランプが光り始める。甲高いベルの音が鳴ったかと思ったら、大きなサイレンが廊下に響き渡った。
『地下二階に敵襲。総員、迎撃態勢に入れ。繰り返す、地下二階に敵襲。総員、迎撃態勢に入れ』
その放送でようやく怪人-たちは僕らに気づき、一斉に武器を構える。僕は早苗さんに下がってもらって、ステッキを構えた。念のため、ルークとビショップに早苗さんが怪しい行動をとっていないか確認させる。心春は僕の隣で以前にも見たバチバチと帯電する弓を構えていた。
「ルークフラッシュビーム!」
僕は通路に向けて必殺技を放つ。太いビームが廊下を直進し、大量の怪人たちを薙ぎ払った。
どうやらこの一撃でかなり数が減ったらしい。どうして同一線上にたくさんの怪人を配置するんだろう。一発の強力な攻撃で大半がやられちゃうのに。まあ建築上の都合なら仕方ないけど。
その後、僕らは残った怪人を次々と散らしていく。こいつらはせいぜいポーン程度の攻撃力と耐久力しか持っていないようで、二手に別れてもそんなに苦労はしなかった。
僕らは雑魚怪人たちを薙ぎ払い、通路の一番奥にある巨大な扉の前にたどり着く。
工場で使われているような鉄の扉だ。僕の力で開けられるのか怪しかったけど、心春が炎の弓の一撃で吹っ飛ばしてくれた。
扉の向こうはなにやら巨大な倉庫のようになっていた。通路と比べて天井もめちゃくちゃ高い。なるほど。このスペースがあるから地下一階と二階の間をエレベーターで移動するのに時間がかかったのか。
強い蛍光灯の明かりで照らされた倉庫内。奥にはなにやら巨大な垂れ幕がかかっていて、中央には一人のおじいさんが立っていた。
「まったく。不法侵入のうえ扉を破壊するとは、とんだ礼儀知らず共がいたもんじゃ」
そしてそのおじいさんはゆっくりとこちらに向き直る。その顔には、何やら見覚えがあった。
僕はすぐに先ほどフェアリールージングのサイトで見た顔であると気づく。
「Dr.キング……っ!」
こうして、僕らはフェアリールージングのマッドサイエンティスト、Dr.キングとついに相対した。
僕の言葉に、キングは「ほう……」と呟く。
「そこの坊主、わしの名を知っておるのか」
え。坊主? それって当然、僕に対して言ったんだよね?
ってことは、僕が男だって知ってるの? この人。
「驚くほどのことでもないぞ。高屋優、そして天野心春。お前たちは裏切り者の妖精の力を借りて、わしらに反逆してきたわけじゃ。当然、身元の調査はしておる。もっとも、正体をつかめたのはつい最近のことじゃがな」
キングの言葉に、僕は面食らう。
まずい。あれだけ魔法少女の個人情報が洩れるとまずいっていう話だったのに、あっさり正体を特定されてるじゃないか。
どこでばれた? 僕もそれなりに気を遣っていたはずなんだけど。魔法の力でカメラの映像にはノイズが混じるはずだし。
「安心せい。うちの卑怯な怪人どもとは違い、お主らの家をピンポイントで攻撃したりするようなことはせんわい。なぜなら……、もうそんなことをする必要はないのじゃからな!」
その瞬間、倉庫の明かりが弱まり、奥の垂れ幕に向かってスポットライトが当たる。キングがパチンと指を鳴らすと、はさりと垂れ幕が床に落ちた。
その向こうから現れたのは、身長数十メートルはありそうな巨大な人型ロボット。まるでおもちゃ屋で売ってそうな合金ロボをそのまま巨大化したような、赤と黒を基調にしたデザインだ。
「見るがよい! これがわしの偉大なる発明品。キングロボ2号じゃ!」
キングがロボの名前を叫んだ瞬間、ロボの近くにいる怪人がほっと胸をなでおろしていた。どうしたんだろう。なにか不安なことでもあったのかな。