悪の組織のアジトに対してインフラ破壊を試みるスタイル
僕は心春とビショップの言葉を聞いて沈んでいた気分が一気に明るくなる。
「すごいよ君たち!妖精もたまには有能さを見せることもあるんだね!」
隣でルークが「おいお前今なんつった。『たまには』だと?」なんてぼやいてるけど気にしないことにする。
「早く教えてよ! そのアジトはどこにあるの!?」
僕の食い入るような言い方にビショップがドン引きする様子を見せる。けど仕方ないじゃないか。このへんてこな魔法少女生活を終わらせる糸口が見えてきたんだから。
「わ、わかりまちた。優くんのジュエルフォンにも住所を送りまちゅ」
直後、ジュエルフォンに着信が入ってビショップからのメッセージが表示される。なるほど。この町はずれにある山の中か。確かにあの辺は変な研究所のような巨大な建物がいくつか建設されてたけど、まさかあの中にフェアリールージングのアジトがあったとは。
「それにしても、ビショップはどうやって特定したの。心春から離れられないなら独自の調査なんかはできないよね」
「はい。そこはあえて心春ちゃんに弱い怪人を一人倒さずに逃がしてもらって、その怪人にあらかじめ発信機をセットしておくことでアジトの場所を突き止めまちた」
ああ、そんな科学的なやり口なんだ。魔法の力とかじゃないんだ。
「君たちってフェアリールージングのアジトから逃げてきたんだよね。その時に場所覚えてなかったの?」
「ジジイが俺たちを呼び出したのは大学の研究室だったからな。ジジイが教授を辞めて、新しいアジトを買うとかなんとか言い出した段階で俺もビショップも逃げ出したから、新しいアジトの所在はわかんねんだよ」
そういうことだったのか。そのジジイっていうのが、前にルークが言っていたフェアリールージングのブレインであるマッドサイエンティストDr.キングなんだよね。
彼の発明で怪人が自滅する場面を何度も見てきたけど、それはおそらく怪人が間抜けだっただけで、Dr.キング自体はおそろしい科学者であることは間違いないだろう。怪人たちのような隙を見せてくれるとは考えにくい。
「人間のDr.キングと妖精のクイーン、こいつらがフェアリールージングの頭だ。こいつらさえ潰せば、組織は壊滅する」
なるほど。ヘッドを叩けさえすればいいのなら、アジトに攻め入るためにやることは決まってる。
「じゃあ、とりあえずアジトを混乱させて、その隙に攻め込んでクイーンとキングだけを倒せばいいんだ」
「その通り。なにも全員潰す必要はねえ。騒ぎを起こして、その混乱に乗じて中枢に乗り込めばいいだけだ」
なるほど。そのための方法はいろいろと考えられる。
「とりあえず、デリヘルとピザを大量に送り付けるというのはどうだろう。特にデリヘルのほうはキングが呼んだことにすれば部下をドン引きさせることができるかもしれない」
「優くん。それはいろんな人に迷惑かかるよ。それより先にアジトの電気と水道止めちゃえばいいと思う」
それはいい案だ。周囲の電線を全部切断してしまえば、敵アジトへの電気供給が止まる。兵糧攻めは基本だね。
「買収とか、人質作戦とかもいいかもしれないね」
「あとは小火騒ぎを起こすこったな。よし。いっそてっとり早くガソリン撒いて放火するか!」
およそ魔法少女とは思えない作戦のオンパレードだけど、何度も言うように僕には魔法少女の自覚なんてあるわけないし、妖精たちも一般人に見つからない状況でならどんな手段を使ってでも勝つべきという考えだそうなので、それはもうゲスいアイデアがどんどん飛び出してきた。
そしてあーでもないこーでもないと話し合った結果、フェアリールージングのアジトに攻め込む計画の骨子が完成した。
夜。僕らはビショップが送ってくれた住所を頼りに、フェアリールージングのアジトのある近所の山へと向かった。
このあたりの地域は数年前に開発のために森林伐採されたものの、業績がふるわず放棄されたに近い土地だ。家やマンションなんかも空室が目立ち、中古じゃないのにかなり安く投げ売りされている。そりゃこんなモノレール乗り継がないとこれないような場所に人が集まるわけないよね。
確かに、こんな場所なら悪の組織のアジトを作る場所としてはなかなかいいかもしれない。目立たなそうだし、なにより地価が安い。
そしてフェアリー・ルージングのアジトは、思ってたよりずっと目立つ場所にあった。
切り開かれた巨大な斜面の中腹。そこには、かなり遠くからも視認できそうな、一般的な高校の校舎ほどのサイズを持つアジトがあった。建物自体はなんの変哲もない清潔感のある白いビルで、普通に窓があって外から中が覗けそうだ。
もっとこう、悪の組織の本拠地というともっとまがまがしい建物をイメージしてたんだけど、これじゃあ普通の会社にしか見えない。
なんというか、眺めよさそうだね。逆に敵襲に備えやすくていいのかもしれない。まあ僕等の接近にも気づいてないみたいだけど。
正門と思わしき場所には、立派な表札が飾られている。
『フェアリー・ルージング本部 Dr.キング研究所』
「…………」
「…………」
僕らはそれを見て何も言えずに押し黙る。
「………………ねえ、ビショップ」
「……なんでちゅか?」
ビショップもかなり気まずそうだ。
「君さ、確か発信機をつけてどうこうって言ってたよね」
「……言いまちた」
「そんなことしなくてもさ、ちょっと調べたら簡単に見つかったんじゃないの」
僕はスマホを取り出して「フェアリー・ルージング」と検索する。当たり前のように奴らのサイトが検索にヒットして、クリックしてサイトに入ると、トップにこのアジトの写真とDr.キングと名乗る普通のどこにでもいそうなおじいさんの写真、そしてアジトの住所までがはっきりと書かれていた。
 




