知らないうちとんでもない晒し者になっていた件
「確かにそれは困りまちたねえ……」
「まあいいだろ。他人の空似で押し通せば。優のことまでバレちまったら無理が出てくるが」
妖精二匹がちっとも困っていない様子でそう口にする。
あんまり認めたくないんだけど、心春の正体がばれて僕の正体はばれなかったのは、見た目の性別が変わってるからというのも大きいだろうけど、おそらく一番の理由としては、梶原さんにとって僕は心春と違って恋愛対象じゃないからろくに顔を覚えてないってことなんだろうなあ。
「ところで、魔法少女の正体が一般人にばれてもペナルティとかはないの? 魔法少女の資格を剥奪されたり、魔女ガエルにされたり」
「は? あるわけねえだろ。そんなことしたってこちらには何の得もないからな。まああんまり知られると生活圏特定されて変身前を狙われやすくなるから気をつけな」
そういえば、最近怖くって全然ネットでの評判見れてないんだけど、どうなってるんだろう。
「え、優くん知らないの……?」
「なにが」
「最初に優くんがニュースになった日とは、そりゃあもう比べものにならないくらい話題になってるよ」
そういいながら心春はスマホを操作する。やめて。僕にその様を見せないで。
軽く聞いた話によると、かつてはネットの一部界隈で話題になっていただけど、今はもうそんな枠にとどまらない勢いで世界に噂が広まり、毎日僕に関するニュースは絶えず、まじかる☆ルーク捜索隊なるものまで現れているらしい。
全然知らなかった。あの日以来テレビやネットをすっぱり絶ってるので、せいぜいクラスメイトの会話を盗み聞きするくらいでしか情報が入ってこなかったし。
「そういえば、心春は僕よりも前から魔法少女として活動してるんだよね。どうして心春のときは話題にならなったの」
「心春ちゃんはあたちがちゃんと隠蔽してまちゅから」
「お前の魔法の才能はそこの女よりだいぶ劣るからな。こうやってある程度知名度を上げることでその応援の力で魔力を増幅していかないと、どうしようもねえんだ」
なにそれ。初耳なんだけど。じゃあルークももっとちゃんとした隠蔽ができるのにあえて放置してたってこと?
「一番魔力効率がいいのは直接心から応援する人間の声を届けることだ。だがそんなことしても数がたかが知れてるからな。しかもその場で応援する人間を確保できるかどうかも安定しねえ。そこの女の魔法は声を届ける魔法を使えるみてえだが、そこの女の力じゃとどけられるのはせいぜい数人程度。なら世界中の人間から応援してもらったほうが、一人当たりから得る力は少なくても人間から得られる総魔力は大きくなるんだ」
そのために僕の恥ずかしい姿が世界中に晒されてるってわけか。
「僕はいつまでこんなことを続けていればいいの……?」
「何度も言ってるが、フェアリールージングを滅ぼすまでだ」
「いつになったら滅びるの!? どうやったら滅びるの!?」
もうこれ以上僕の平穏を乱されたくない。それに万が一この先魔法少女として出会った人に正体を特定されたら大変なことになる。それは敵を滅ぼしても元の暮らしが戻らなくなることを意味するんだから。
「優くん。実は、今日学校に怪人が現れて大変だったから言えなかったんだけどね……。ビショップ。説明してあげて」
「はい。実はでちゅね」
そうビショップは切り出す。
「あたちの調査により、フェアリールージングのアジトを特定しまちた!」
「いよいよもって私たちで敵本拠地に攻め込もうと思うの!」
--フェーアリー・ルージングside--
「Dr.キング。指令通り、電気契約を変更いたしました。法人向けのかなり大きなアンペア数契約をしたことにより、巨大な自動車やIT用の工場並みの電気を使うことができます。『そんな大量の電気を何に使うのですか』と聞かれましたが、魔力も活用することでうまくごまかしておきました」
フェアリー・ルージングアジトにて。巨大な倉庫の中で全身タイツを着た男が、髭を生やした爺に報告をする。
「こちらも、ちゃんとバッテリーを巨大容量の充電式にすることにより、ちゃんと電気を賄えるようにしておいたのじゃ」
キングと呼ばれた老人は端末を手に取って、目の前にある巨大ロボットを起動する準備を始めた。
「クイーンはどうしておる」
「クイーン様は、どうやらルークの変身元の正体を完全に特定するに至ったようです」
「ほう……やるではないか。しかし、もうあまり意味はない。なぜなら、このロボットの力により裏切者の力を借りた小癪な魔法少女共など木端微塵にできるのだからな!」
老人は目の前にある巨大な鋼鉄の塊を仰ぐ。
老人の作り出した超巨大ロボットがそこに静かに鎮座していた。
「このロボの新しい名前を考えたわい。新しい世界の創始者にふさわしい名を。その名も、『イヴ』じゃ!」
「それもダメです! 理由は言えませんがその名前もかなりまずいです!」
「なに!? ならばこの世の太陽となるという意味を込めての『ラー』、この世にわれらの音を響かせるという意味の『フォン』、そして不明の象徴である『Xe』を組み合わせて、『ラーゼフォン』はどうじゃ!」
「いけません。理由は言えませんが、いけません」
「お前はいつもいつも文句ばかりじゃな。少しは自分の意見も出したらどうじゃ!」
「そ、そんな。いきなり何か名前の案を出せと言われても……」
「ふん。まあよい。見ておれ、今度こそこのわしの最高傑作の力を見せてやろうぞ。」
老人がなにやらスイッチを押すと、圧倒的な大質量を持つ巨大ロボットがゆっくりと立ち上がり始めた。
「どうじゃ! これがわしの作り出したロボの姿じゃ!」
「素晴らしい! さすがは天才学者Dr.キング! こんなものを作れるほどの天才科学者を学会から追放した愚か者共の目にものを見せてやりましょう!」
(※注釈)学会を強制的に除名される行動はただ一つ、年会費滞納です。
「Dr.キング。それで、このロボットをどうやってこの倉庫から出しましょうか」
「え…………?」
老人は、黒タイツ男の言葉を聞いてあっけにとられた様子を見せる。
「おぬし、今なんと」
「あ、いや。この倉庫のガレージはせいぜい大型トラックが通れる程度しかないので、このロボットを出す手段がないんじゃないかと……」
その言葉により、老人の頬に冷たい汗が流れる。
「Dr.キング。まさか、考えていなかったんじゃ……」
「そんなわけないじゃろう! ちゃんとやり方は考えておるわい! 下がれ! あとこの真上にあるわしの自室から荷物を搬出するから、人員を集めておけ!」
「はい! 了解です!」
黒タイツの男が下がった後、おそらく後に破壊することになる天井の修繕費用を見積もるために老人は電卓を叩き始めた。




