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梶原さんからのお誘い

 僕は飛び散った下水を踏まないように細心の注意を払って階段を下り、保健室へと向かった。

 そこではリーパーは苦しそうにのたうち回っており、樋口さんと養護教員は自力でリーパーの包帯から逃れていた。


「俺の策は成功した! リーパー、これで終わりだぜ!」

「ルーク、貴様ああああああ!」


 リーパーはこれまでにない憎悪の声をルークに向かって上げる。

 いまだに一人縛られ続けて顔を真っ赤にしつつ羞恥と快感の入り混じった表情で喘ぐ心春を放置して、僕はリーパーにステッキを向ける。

 

「必殺技だ!」

「うん!」


 飛び散った糞尿をよけるのに手間取って、ここまでくるのに時間がかかったので、必殺技を再度撃てるだけえの魔力はすでに再填されている。


「ルークフラッシュビーム!」


 ステッキから光のビームが発射される。リーパーは断末魔の叫び声をあげて消えていった。今回はうまく出力を調整できたので、保健室の壁を壊さずに済んだ。

 それと同時にリーパーの包帯もすべて消滅し、僕はほっと一息ついた。

 いまだに息を荒くして体をくねらせている心春を放置して、僕は擁護教諭と樋口さんに「大丈夫だった?」と問う。


「え、えぇ……。ありがとうございました」


 そして養護教諭は僕の顔をまじまじと見て。


「どこかで……、お会いしましたっけ?」


 うっ。よく体調を崩して保健室で寝ることが多い僕は、保健室の先生たちに顔も名前もしっかり覚えられている。ろくに顔も隠していないんだ。こうやって普通に相対すれば感づかれてしまう可能性は当然高いだろう。


「ルーク。正体ばれかけちゃってるよ。なんか便利な認識阻害能力とかないの?」


 僕は小声でルークに苦言を呈す。


「あるわけねえだろそんなの。せいぜい監視カメラに映りにくくできる程度だ」


 監視カメラの映像をぼかすのと、目の前の知り合いに認識されにくくするのとどっちが難しいのかは、魔法のことなんてろくに知らない僕には理解できないけど、とにかくそういうことらしい。


「どうかされましたか?」

「い、いえ。じゃあ僕はこれで」


 僕は逃げるように保健室を飛び出して、扉を閉じる。廊下の壁にもたれて、ふうとため息をついた。

 あんまりのんびりとしていられない。早く人に見つからずに変身を解ける場所を見つけないと。

 校舎から出て体育倉庫の裏あたりで変身を解くべく走り出そうとした直後、目の前に現れたその人の姿に僕は狼狽する。


「君はさっきの……」


 梶原さんが、そこにいた。

 しかもまた顔を真っ赤にして、目線を合わせるのも恥ずかしそうにしながら。


「どうしたの? 包帯の怪物ならもう倒したから大丈夫だけど」


 梶原さんは、突然「ルークさんっ……」と叫びながら思い切り頭を下げてきた。


「今日、私の家に遊びに来てください!」

「ええっ!?」






「お前すげーじゃん。惚れた女の家に呼ばれるなんてよ」

「全然すごくない」


 放課後、僕は校舎の屋上で、ルークと言葉を交わす。

 あれから、僕と梶原さんは今日の夕方五時に街はずれの公園で会う約束をした。ちょっと遅めになってるのは、先生から大目玉くらうことを見越してのことらしい。


 あのあと梶原さんは生徒指導室に連行され、めちゃくちゃ怒鳴られる声が外にまで聞こえてきていた。まあもともと梶原さんは品行方正で、これまで先生に怒られるところとか見たことないから、そこまでひどく絞られたりはしないんじゃないかな。


 なにはともあれ、僕は結局梶原さんの家に行くことに決めた。


 だっていかないわけにはいかないでしょ。好きな女の子が僕を家に呼んでくれてるんだよ!?


 まあわかってる。梶原さんが好きなのはあくまで「魔法少女まじかる☆ルーク」であって僕じゃない。


 だけど、僕は梶原さんの家に行ってみたいんだ! ただでさえ魔法少女として毎日苦労させられてるのだから、そのくらいの役得があっていい。

 不安なのは、正体が僕だとばれることだけど……。


「そこは大丈夫だろ。あそこまで間近で会話してばれないんだからな。もしもすでにばれてて知らないふりをしているのなら、それはもうお前にとって願ったり叶ったりの状況だ」


 確かに、ルークの言う通りだ。正体が僕だとすでに気づいた上でアタックしてるなら、僕としてはそれほどうれしいことはない。甘んじて騙されたふりをしていよう。





 午後五時。僕は徒歩で約束の公園に向かい、茂みの中で変身した。

 そしてベンチに座る梶原さんの前に、姿を現す。

 

「おまたせ」


 梶原さんはぴんと背筋を伸ばして、「い、いえ。私も今来たところですし……っ!」と緊張した様子を見せる。これが本来の僕に対する態度であってくれたらどんなによかったか。


「えっと。君のことは何て呼べばいいかな」


「梶原玲子です! 梶原でも玲子でもかまいません!」


 こう聞いておけば、梶原さんの名前を間違って読んでしまったことで正体がばれる心配がなくなる。


 早速向かった梶原さんの家は、公園から徒歩数分の高級住宅街にある一軒家だった。

 周りの家と比べてもひときわ大きな洋風の家。車は軒先に3台停まっている。


 どうやら梶原家はかなりお金持ちらしい。


「すごいね。梶原さん。こんな立派な家に住んでるなんて」

「すごいのは私の親であって私じゃありませんから」


 うん。そういう返答も梶原さんらしい。

 僕は梶原さんの後について家に入る。ほのかに木のいい匂いがした。

 

「親御さんは?」

「仕事です」


 じゃ、じゃあ、今この家に僕と梶原さんは二人きり……?

 何もないとわかっていても、これはさすがに緊張してしまう。

 二階の部屋に通されて、「お茶とケーキ持ってきますね」と言って梶原さんが降りて行ったことにより、僕は一人部屋に残される。

 梶原さんのクールなイメージに反して、ぬいぐるみなどがおかれているファンシー寄りな部屋だ。小物もかわいらしい。本棚に二次元美少女系の作品が大量に詰め込まれているので、案外僕と話しが合うかもしれない。


「お待たせしました」


 梶原さんがお盆に乗せた紅茶とケーキをもって部屋に戻ってきた。中央のテーブルに「どうぞ」と言いながら並べていく。


「ありがと。って、えっ……!?」


 その直後、梶原さんは制服のシャツを脱ぎ始めていた。

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