表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/48

初手で必殺技を使ったらマスコットに激怒された

 僕の言葉を聞いて、ルークは「ふー」と息を吐き出して。


「まあ、こうなってしまったものは仕方ない。お前に一番似合う恰好がそれだったって話だ。お前みたいなやつには似合ってるだろ」

「どういう意味なんだよ! どっからどう見たって、僕には似合ってないよ。今すぐもっとまともな恥ずかしくないような服にしてよ!」

「そのことなんだが。わりぃ。一度決まったらもう変更できねえんだ。ある程度は変わるだろうが、方向性は変えられねえ。もうその恰好でいくしかないんだ」

「そんな……。いや、それはいくらなんでもおかしいでしょ!?」

「あの子を助けたくねえのか? はっきり言って怪人にはそこらへんの警察なんかじゃ歯が立たねえぞ? 助けられるのは同種の力を持つ魔法少女であるお前だけだ」



「わかったよ。で、どうやってスーパーに戻ればいいの」

「どうって、普通に歩いていくしかねえだろ」

「え。ふつうこういうのってワープとかないの」

「ねえよ」

「えー……」


 とはいえないんだから仕方ない。僕の姿を見て、いろんな意味で驚嘆する人込みをかき分けて、僕は店の中へと足を進める。


「君! 危ないよ! 入るのはやめなさい!」


 警察の人に腕をつかまれて止められる。そりゃそうだよね。こんな変な格好した子が事件現場に入っていこうとしてるんだからそりゃ止めるよね。


「おい。何してんだ。さっさと振り払って突入しろ」

「やっぱりそうしなきゃだめ?」

「あったりめーだろ。他に方法はねえ!」


 だよね。

 僕は警官の腕を振りほどき、虎柄のテープの下を潜り抜けてスーパーの中に入る。

 ところでルークの姿や声はみんなには認識できていないんだろうか。普通こんな変な生き物がふわふわ浮かんでたらぎょっとすると思うんだけど。先ほどの僕と同じように。


「大丈夫だ。俺の姿はごく一部の人間にしか見えない。声も聞こえないから問題ねえよ」


 よくわかんないけど、信じておくしかない。


「あっちだ。あっちから怪人の気配がする」


 ルークが僕の小指ほどしかない小さな腕を向けた先は、精肉コーナーのほうだった。

 商品棚の影からのぞいてみると、何やら黒い全身タイツのようなものを纏った仮面をつけた男が、大きな刀をぶんぶんと振り回していた。

 棚を背に、周りをぐるっと警察に囲まれているけど、どうやら人質を取っているらしく、警察はそれ以上近づけないでいる。

 そして男の刀が向けられている先は……。


「梶原さん……っ!」


 『あの子』こと、僕のクラスメイト、そして……、僕の好きな人である梶原玲子さんだった。


「やっぱりお前の知り合いか? あの黒い男が怪人だ」


 梶原さんはどうやら怪人の後ろに座らされている様子だった。怪人は刀を時折梶原さんの首筋に向ける。俺「はいつでもこいつを殺せるんだ」と威嚇しているんだろうか。

 怪人は「キョイー! キョイー!」と謎の奇声を上げる。


「わかるか。お前があの怪人を倒せ」

「いや、無理だよ。あれ完全に頭おかしい人じゃん。僕には何の力もないんだし……」

「馬鹿。俺がやった魔法少女の力があるだろ。今から簡単に戦い方を説明するから、よーく聞けよ」

「う、うん。わかった。お願い」

「よし。まずそのステッキを構えて『マジカルビーム』と叫べば普通のビーム攻撃が出せる。同様にして『ルークフラッシュビーム』と叫べば全力の必殺魔法の発動だ」


 僕は物陰から飛び出して、怪人にステッキを向ける。


「ルークフラッシュビーム!」


 僕がそう叫ぶと、ステッキの先端に光の螺旋が渦巻いて、そのまま螺旋が怪人に向かって発射される。

 光の螺旋はそのまま怪人の胸を穿ち、そのまま精肉コーナーの棚を破壊した。

 怪人は「キョイー!」と苦しそうな声をあげながら、その場に崩れ落ち、体の端から光の粒子となって消えていく。


「ただし必殺魔法はあんまり使うんじゃないぞ。なにせ……、っておい!」


 ルークが何やら大層怒った様子で僕に向かって声を荒げる。


「大馬鹿野郎! いきなり必殺魔法を撃つ奴があるか!」

「えっ……。ダメなの?」

「駄目に決まってるだろうが! 特撮ヒーローが最初に必殺技を撃ったりするか!? お前がやったのはそういうことなんだよ!」


 よくわかんないけど、駄目だったらしい。


「まあ今回だけは許してやる。次からは絶対やるんじゃねえぞ」

 

 次? 一体なぜ次があるという前提でこの謎の小動物は話をしているんだろう。

 僕は今回梶原さんを助けるためにこんな恥ずかしいことをしてるつもりだったんだけど。 


「さっさと逃げるぞ!」

「え。でも梶原さんがまだ」

「さっきのビームもまったく当たってなかったし大丈夫だろ。それよりこれだけ人が多い状況で、お前の姿を見られるほうがまずい。魔法少女ってやつは、事件を解決したらすぐにその場を立ち去らないといけねえんだ」


 さっきここに入ってくるときに、警察官や店員さんやお客さん、いろんな人に姿を見られまくったし、もう手遅れだと思うんだけど……。

 けど僕は「裏口から逃げるぞ。急げ!」と叫ぶルークに従って、スタッフルームからそそくさとその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ