炎を吐くキャラってなんでその炎で自分が火傷しないんだろう
ルークに従って、僕は近所の公園へと向かう。
そこには、馬の被り物をしたような頭を持つ、紅いスーツの男がいた。こないだ銀行に現れたナイトの色違いといえば分かりやすいだろう。
「今度はお前か。ナイトライダー!」
そのルークの声で、ナイトライダーと呼ばれた男は、こちらに気づき振り返る。
「おやおや。誰かと思えばルークじゃありませんか」
口調もおんなじだ。やっぱりただのナイトの色違いなんじゃないかな。
「やい。お前今ここでなにしてた!」
「何もしていませんよ。ただ、ここにいてルークやビショップが来たら応戦しろと命じられただけです」
そしてナイトライダーは空手のような戦闘ポーズをとる。あ、君はナイトみたいに変なポーズとらないんだね。
「我が名はナイトライダー。ナイトと同じようにいくと思わないでいただきたい。私はナイトと比べても別格の力を持っています。私の魔力指数は、五十三万です! 絶望するがいい! しかも私はあなた方と本気で戦います!」
何やらナイト(色違い)がどや顔で語るけど、僕は出てきた語彙の意味が分からずに、ルークに尋ねることにした。
「……ねえルーク。魔力指数ってなに」
「さあ。俺も知らねえ」
「き、貴様ら、この私を侮辱するおつもりですか」
だって侮辱もなにも。言ってる意味がわかんないんだもん。しょうがないじゃん。
馬面男(色違い)は僕らの態度に大層怒ったようで、「もういい!」と叫ぶ。
「私はアマゾンやナイトほど甘くありません。最初からDr.キングからいただいた、この究極の力を使いましょう! 聞いて驚け! 私はDr.キングによって、三千度を超える炎を吐き出すことができるようになったのだ!」
「…………」
「…………」
僕とルークは何も言えずに黙って馬男2Pを見つめる。
「な、なんだその顔は。そんな呆れたような目で見られる筋合いはないぞ!」
だって……。もうオチ読めちゃってるし。
さすがに同じパターンを繰り返して三回目ともなると、さすがに僕だって展開読めちゃうよ。
「俺がいうのも変な話だが。ナイトライダー。悪いことは言わん。その力を使うのはやめとけ」
ルークが心底呆れかえった声音で告げる。君優しいね。わざわざ忠告してあげるなんて。僕なんか言ってあげる気すら失せたよ。
「ええい! この炎を喰らって、体を焼かれながら後悔するがいい。このナイトライダーを侮ったことを! Dr.キングの科学力を貶めたことをなあ!」
馬男は大きく息を吸い込む。僕はそのタイミングに合わせて、念のため「ルークシールド」と呟いて守りを固めておいた。
うましかさんは口から勢いよく炎を吐き出す。しかし炎の勢いは空気によって減衰し、わずかなこちらまで届いた炎もルークシールドによって打ち消された。
「ほげぇ! ふぼおおおおお!」
何やら苦しそうにのたうち回る馬面男。どうやら放射熱でスーツと顔の毛が燃えてしまったらしい。
地面を這いずり回るも当然消火することなど叶わず、そのままナイトライダーの体は光の粒子となって風に吹かれて消えていった。
「……………………」
「……………………優。なんというか、すまんな」
わずかに地面に残った燃えカスを見つめて、何も言えずにいる僕に、ルークがよくわからない詫びを入れてくる。
「……いいよ。ルークが謝ることじゃない」
「帰るか」
「うん」
かなり微妙な空気になってしまった僕ら。僕は物陰に隠れて変身を解いて、心春と樋口さんが待つ喫茶店に戻ることにした。
「遅い! 優くんなにやってたの!?」
今度は窓から侵入するときに人に見られるなんてことはなく、僕は無事心春と樋口さんの松席に戻った。
そしたらなんか心春が不機嫌そうに僕に当たり散らしてきた。
「だから言ったじゃん。僕昨日からおなかの調子が悪いんだって」
「そうとしても長いよ。私ずっとサンドウィッチ食べずに待ってたんだよ? トーストさめちゃったじゃん」
そんなの僕の知ったことじゃないよ。文句言うくらいなら勝手に食べときゃよかったのに。
ちなみに僕の目の前に運ばれてきたハンバーガーもだいぶ冷めてしまっていた。ソフトクリームを注文した樋口さんは、先に食べてしまうことで難を逃れたらしい。心春も食べちゃえばよかったのに。
「優くんのために待ってたの!」
押し売りも甚だしい。
その後、僕は延々と心春の説教を受けたのち、ようやく解放されて帰路につくことができた。
説教長すぎるよ。樋口さんドン引きしてたよ?
「間違いねえな」
夕日に照らされる帰り道、ルークは何かに確信した様子でつぶやく。
「間違いないって、なにが?」
「あの心春っていう女、お前のことが好きなんだ」
「ふーん。……………………え?」
思わず僕はルークと目線を合わせたまま固まってしまう。
「えええええ!? ちょっちょっと待ってよルーク。何言ってるの」
「今日一日あいつの姿を見てて確信した。あいつ、お前のことが好きなんだ」
「いや、そりゃ僕と心春は小学生のころからの幼馴染だし、好かれているのは間違いないだろうけど……」
「そういう意味じゃねえよ。恋愛的な意味で、男としてあいつはお前を好いてるんだ」
そんな馬鹿な。もし本当だとしたら、なかなか困った話だ。
「バレバレだよ。みんな知ってると思うし、気づいてないのはお前とあの女だけだ。外側から見るからこそ、気づくものっていうのはあるもんだぜ。いいじゃねえか。面倒見よさそうだし、人間にしてはかわいい部類にはいるだろ」
確かに心春はかわいい。美少女といって差し支えないだろう。スタイルもいいし、頼りがいもあると思う。
けど僕は一度も心春をそんな目で見たことはなかった。それに、なにより僕が好きなのは梶原さんなのだ。
「その梶原って女は男に興味ないんだろ? あきらめろよ。…………まああの女が今惚れてるのはお前だけどな」
うん。女装した魔法少女としての僕ね。
「まあ、そういうことだから、お前もあいつをちゃんと女としてみてやりな」
いや、そうはいうけどね。もし万が一心春は僕のことが好きっていうのが間違ってたら、僕大恥かいちゃうんだけど。




