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新ジャンル「男子トイレの窓から登場する魔法少女」

 へー。梶原さんあの魔法少女が好きなんだ。案外ああいうふりっふりなロリータ系が好みだったり? 


 梶原さんはクールなタイプだから、対極にいるようなまじかる☆ルークみたいなのに案外惹かれたりするのかな。けどほんとまじかる☆ルークが羨ましいよ。なんてったって梶原さんに好かれるなんて。って……。




 え……?



「ええええええええ!?」





 思わず大声を出してしまう僕。廊下にいる他の生徒たちが、一体何事かと僕らに視線を向ける。

 しかし声を出してしまったのは無理もないと思う。なにしろまじかる☆ルークの正体は僕なのである。これが驚かずにいられるものか。


「ちょ、ちょっと。大きな声出さないで頂戴」

「ご、ごめん。……それ、ほんとなの?」


 梶原さんは僕を人気のない階段へと連れていく。そして


「……本当よ。こんなバカな嘘つくわけないでしょう?」


 そして梶原さんは語る。昨日自分はまじかる☆ルークにスーパーで出会ってるのだということを、その時からすでに気になってたけど、昼休みに学校にいるのを見て自らの恋心を確信したのだということを。


「そ、そ、そ、そ、そ、そうなんだ。が、頑張ってね」

「どうしたの? ものすごく動揺してるけど」

「いやあ。き、き、気のせいだよ。おっと。僕はもう帰らなきゃいけないから、ごめんね。それじゃあ!」


 僕はそういい残して、逃げるように梶原さんの前から姿を消した。 





「ぶふっ。面白すぎるだろこの状況」


 息絶え絶えになりながら、校舎裏まで逃げてきた僕。ルークはそんな僕を見て笑い転げる。


「わ、笑うな!」

「これが笑わずにいられるかよ! けどよかったじゃねえか。あの子はお前のこと好きだってことだぜ。お前、あの子にフラれて悲しんでたんだろ? 望みが叶ってよかったな」


 いや、そうなんだけどさ。もちろん梶原さんに好きになってもらいたいとは思ってたけどさ。なんか僕の期待してた形と全然違うんですけど!


「僕が好かれたかったのはこの本来の僕であって、まじかる☆ルークじゃないよ!」

「まあ人間誰しも少しは他人に対して自らを偽って生きてるんだ。そんな自分を好かれたなら、それはもう自分を好かれたに等しいだろ?」

「なんかパッと見、深いこと言ってるように見えるけど、何一つ意味のあること言えてないからね!? そもそも他人に対して自分を偽ると言ったって、この状況は格が違いすぎるよ!」


 なにしろ性別すら偽っているのである。

 このままルークとあーだこーだ言い合ってても埒があかないので、僕はもうルークの妄言は無視して家に帰ることにした。


 下駄箱で靴を履き替えて校舎の外へ。校門を潜る寸前に、後ろから聞き覚えのある声で「優くん!」と呼び止められる。


 ああ、なんか嫌な予感しかしないよ。

 振り返ると、そこにはいつも僕を災厄に巻き込むにっこにこの笑顔を向ける心春がいた。その後ろには、転校生の樋口さんが立っている。


「今から引っ越して来たばかりの樋口さんに、学校近所の町を案内してあげようと思って。優くんも来るよね」


 おかしい。普通ここは「優くんも来る?」と疑問形で呼び掛ける場面じゃないだろうか。なぜ来るのは前提であるかのような言い方をするんだろうか。

 けど僕は知ってる。心春がこんな言い方をしている場合、僕はどうやっても到底心春から逃げ切ることはできないのだと。

 仕方ない。昨日慌ただしかったせいで買い忘れたものがたくさんある。その買い物のついでと思えばいいか。

 こうして、僕と心春と樋口さんで町に出掛けることが確定したのでした。僕こういうリア充じみた遊び苦手なんだけど。





 僕と心春と樋口さんは学校近くにある商店街に向かう。


「そう言えば樋口さんってどこに住んでるの?」

「昨日強盗が出た銀行ってわかりますか? そこからスーパーの方に行って……」


 心春の質問に答える樋口さん。へぇ。樋口さんの家ってもしかしたら僕の家から結構近いかもね。


「樋口さんってなんで敬語なの? 僕らクラスメイトなのに」

「ごめんなさい。自分でも変だと思うんだけど、辞められなくて。不快ですか?」


 いや、別に不快ってほどじゃないけどさ。わりと戸惑うよ。


「樋口さんってすごいんだよ。外国の高校から転校してきたの」

「別にすごいってほどじゃ……。勉強もみなさんより遅れてるから、授業に着いていくのが大変です」 


 その後僕らはアイスクリーム屋さんでアイスを食べたり、コロッケ屋さんでコロッケを食べたりして町を歩いた。なんか食べてばっかりだけど、この町にゲームセンター的なアミューズメント施設はないのだから仕方ない。まああったところで絶対心春が入らせてくれないだろうけど。


 しばらく歩き回ったのち、チェーンの喫茶店に入って、ようやく僕らは冷房の効いたやや騒々しい店内でゆっくりと腰を下ろす。


「そういえば、ずっと気になっていたんですが、お二人はどういうご関係なんですか? 恋人同士?」


 何を言い出すんだこの子は。僕はぶんぶんと首を振る。


「わ、私と優くんはそんなんじゃないから! ただ、委員長の幼馴染としてぼっちにかまってあげてるだけだから」


 なんてひどいものいいだ。


「この優君は全然友達いないの。よかったら樋口さん仲良くしてあげてね」


 なにかな。心春。君は僕の悪口を言うためにここに連れてきたのかな。

 僕が心春になんて言い返そうか考えていると僕の肩が小さな手でちょいちょいとたたかれる。


「おい、優。怪人が出たぞ」

「あのさ、心春。僕は別に君にかまってもらわなくたって……」

「おい、無視するな」


 ルークが少しばかり苛立った様子で言ってくる。わかってるよ。けど少しくらい現実逃避させて。


「早く来い。さもないと今ここでお前を変身させる」


 君は本当に体のいい脅し文句を見つけたね。いくらなんでもひどすぎる。こんな脅迫をしてくる魔法少女のマスコットキャラなんてルークくらいじゃないの。

 僕は仕方なしに立ち上がり、「お腹痛いからトイレ行ってくる」といって席を外した。

 そのままトイレに入り、僕はあることに気付いた。


「窓けっこう高いね……」


 男子トイレの窓は、はしごでも使わないと到底手が届きそうにない高い位置にあった。何か利用できそうな足場はない。

 かといって、トイレ以外から出る方法はあまりない。普通に出入り口から出ようとすると、席の関係上確実に樋口さんと心春に見られてしまう。窓が使えないとなると、無理やり従業員用の出入り口を強行突破するか……。


「大丈夫だ。変身すれば、身体能力があがる。あんな窓くらい簡単に届くさ。それに、ここで変身しておけば怪人のところについたときに変身という隙を見せる心配もなくなる」


 ルークがいう。ああもう。嫌だけど仕方ない。スタッフルームを強行突破する方法だと、トイレから出た瞬間を、トイレにやってきた心春や樋口さんにみられちゃう可能性もあるし。


 僕はジュエルフォンを構えて「変身!」と叫ぶ。僕の体は光に包まれ、紙が伸びて魔法少女の恰好になった。

 変身を終えた僕は、急いでジャンプして窓枠にぶら下がる。そのままカギを開け窓を開き、僕は外に身を乗り出した。


「うわあ! な、なんだ!?」


 背後から聞こえる男の人の驚く声。しまった。見つかっちゃったらしい。

 けど僕は後ろを振り返ることなく、そのまま這って窓から外に飛び出した。


 体がぐるんと回転して地面に尻もちをついてしまう。


 いたた……。これ変身してない状態だったら尾てい骨骨折してたんじゃないかな。

 それにしても、不格好にもほどがある。男子トイレの窓から出てくる魔法少女って何事だよ。


「怪人はこっちだ! 急げ!」


 僕は立ち上がりルークに促されるままに、次なる戦いの場に赴くため足を踏み出した。

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