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なんで男なのに魔法少女なんてやらなくちゃいけないの!?

 そこにいたのは、低い男前な声からイメージされるような大男ではなく、アニメに出てくるネズミのようなとても耳に、ぱっちりとした目、顔と同じ大きさほどの胴体をした、僕の手のひらより少し大きい程度のサイズしかない、とてもかわいい小動物的な容姿をした謎の水色の生き物だった。

 たった今、スーパーの自転車置き場で、買い物を終え自転車に乗ろうとしていた僕の頭に衝突したせいか、痛そうに額をこすりながらふわふわと浮かんでいる。


「おい、そこのお前。……いや、お前だよ。後ろを向くな」

「な、なんなの…………?」

「お前、名前は?」

「優。高屋たかやゆう……」


 僕は言われるままに名乗る。


「よし。俺はルークだ。優。今すぐ俺と変身しろ!」

「ええっ!?」


 一体何言いだしてるのこの謎生物!?

 僕が言葉を返せずにいると、ルークと名乗る変な生き物は、イラついた様子で。


「『ええっ!?』じゃねえよ。お前が変身ヒーローになるんだよ!」


 そしてルークは僕に向かって何やら水色の物体を放り投げてくる。今君はどうやってそれを取り出したのかな。明らかに君の体の八割くらいの大きさがあるんだけど。

 僕はそれを地面に落ちる前になんとかキャッチする。ルークが投げてきた物体は、なにやら裏面に蒼い大きな宝石があしらわれている以外は、普通のスマートフォンのように見えた。


「それは『ジュエルフォン』だ。変身するには必須のアイテム、これを使って変身しろ!」

「いや、わけわかんないよ。なんで僕がそんなこと……!」

「そこのスーパーマーケットにいる怪人をお前が倒すんだ! もうお前しかいないんだよ!」


 わけわかんないこと言わないで。怪人とか、変身とか。よしんばそれを信じたとしても、どうして僕がそんなことしなくちゃいけないの。


「客や従業員の避難は終わったか?」


 向こうで店員さんらしき人が騒ぐ声が聞こえる。


「いえ。まだ中に高校生くらいの女の子が! 不審者はその子を人質にとり立てこもっています」


 高校生くらいの女の子って、まさか……?

 いや、それが『あの子』である可能性は低い。僕が見なかっただけで、他にも女子高生の客がいたかもしれないし。これだけの情報で梶原さんと断定するのは早計だ。

 けど、ひょっとしたら。そんな思考が僕の脳裏にこべりついて消えない。


「まさか……、その子、知り合いか?」

「わ、わかんない。たぶん違うと思う」

「お前が変身すれば、その子を救うことができる」


 ルークにそういわれ、僕は手の中にある『ジュエルフォン』とやらをじっと見つめる。

 よくわかんないけど、このまま『あの子』かもしれない状況で、見殺しにはできない。

 助けられるかもしれないというなら、やるしかない。


「どうやれば、変身できるの?」

「おっと、急に乗り気になったな。いいことだ。そこの宝石を押しながら、掲げて『変身』と叫べ。そうすれば俺が変身する力を貸してやる」

「うん。わかった」


 僕はジュエルフォンという謎物体の背面に取り付けられた宝石を押し込みながら腕を高く上げる。そして小さな声で「変身」と言った。


「……………………」


 しばらく待っても、何も起こらない。


「変身できないよ……?」

「馬鹿野郎。そんな小声で変身できるわけねえだろ。もっと大声で叫べ!」

「へ、へっ、変身」

「小さい! もっと全力で!」

「変身っ!」

「腹から声出せ!」

「変身っっ!」


 僕は声を枯らさんとばかりに、力いっぱい大声で叫ぶ。

 いくらなんでもこれは恥ずかしすぎるよ。こんなの知り合いに見られたら自殺もんだよ。


 直後、僕の周りを眩い光が包み始める。光の中で僕の着ていた衣服は消えてなくなり、代わりに手足と胴体に光がまとわりつき、その光がぱちんと弾ける。


 それと共に、僕の体の周りにはさっきまでとは別の衣服が現れる。


 手にはフリルのついた手袋。服は短いワンピースのようになっており、ウェストのあたりがきゅっとしまっていた。裾のところにフリルがついていて、さらにその下にはふわっふわのスカート。

 靴は安物のスニーカーではなく、水色のブーツに、白いハイソックスが太ももまで伸びている。

 そして僕の手の中には、水色のステッキ。


 最後に頭に光が集まり、すらりと僕の髪の毛が伸びた。

 僕の周囲を包んでいた光が収まる。


 そして。


「よし、変身完了だ!」

「よし! じゃないよ! なにこのロリータというかフェミニンというかガーリッシュな恰好!?」


 しかも肩が出ていたり、背中が開いていたり、スカートが短かったりで微妙にいやらしい。


「決まってるだろ。見たらわかるじゃないか。魔法少女だ」

「聞いてないよ。魔法少女になるなんて! 僕男だよ!?」

「は……?」


 ルークは僕の言葉に、あんぐりと口を開ける。


「いや、お前、この真面目なときに冗談はよせよ。お前、女だろ?」

「男だよ! 確かに顔も声も体格もアレだけど……。僕は紛れもなく男なんだって!」


 なんで男子高校生の僕が魔法少女になっちゃったわけ!? まったく意味がわかんないんだけど!? 

 本作は、2~3年ほど前に連載していた「なぜ変身ヒーローは最初から必殺技を使わないのか~男の娘魔法少女の奮闘録~」の改稿作となります。そこそこ大きく改稿したので、前読んでくださった方もまた読んでくれると嬉しいです。



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