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第7話 罪と罰と

「むしっては捨て、むしっては捨て」


 ――しくしくしくしくしくしくしくしく……――


「むしっては捨て、むしっては投げ捨て」


 ――しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく……――


「ひとつむしってはハゲのため、ふたつむしってもハゲのため」


 ――しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく……――


 俺はいま、オットーへのカッパの刑を執行真っ最中であった。


 一列に並んだ自警団の皆さま方が、順番にオットーの髪の毛をむしり取っていく。

 自警団の皆様方が「すまん……」と言い、申し訳なさそうに髪の毛をむしり取っていくなか、オットーはただただ静かに涙を流していた。


 俺が言うのもなんだけど、オットーを見ているだけで胸にこみあげてくるものがある。

 気を抜くと、命じた俺自身ががもらい泣きしてしまいそうな勢いだ。


「デュオール様、これで……これで村への罰をお目こぼししていただけるのでしょうか?」

「……うむ。オットーのあんな姿を見ては、さすがにな。……グス……これ、これ以上罰を与えることなんかでき、できないに……きまってるだろ!」


 確認してくる村長に、俺は涙を見られないよう顔を逸らして言う。


「ありがとうございます。デュオール様の温情には、村を代表して感謝いたします」

「ああ。わかっている。それより野盗は?」

「はい。自警団のなかからオットーの髪をむしった者たちを集め、ヒルデを攫おうとした野盗たちを縛りあげてあります」

「よし。では俺の言ったとおりにするのだぞ。この村の存続にもかかわることだからな」

「重々承知しております。しかし……よろしかったのですか? 野盗を捕縛した手柄をわたしどもにも分け与えて?」

「俺にも事情がある。それ以上は聞くな」

「は、はい。申し訳ありません!」


 俺がひとりでやっつけた野盗たちは、村の自警団と協力して捕まえたことにした。

 そうした方が、父上に報告しやすかったからだ。


 俺の指示のもと自警団の皆さま方が動き、野盗一味を捕まえる。

 父上には俺が強いことを知られなくてすむし、捕まえる過程で自警団が俺に間違ってパンチしてしまったことにすれば(しかもそれを笑顔で赦した)、万が一貴族の俺が村人に殴られたことが広まっても美談としてごまかせる。

 我ながらよくできた脚本シナリオだと思う。


 これで残された問題は――


「き、貴族さまっ。『オヤコドン』ができましたっ」

「う、うむ」

「お、おおお、お口に合うかわかりませんがっ、お召し上がりくださいっ」


 エルフ親子に作らせた『親子丼』だけだった。

 真剣な顔をして「どうつくるんですか?」、と聞いてくるヒルデとその母エルフに、


「ニワトリとタマゴを同時に使った料理だ。ああ、あとタマネギも入っているそうだ」


 と説明したところ、それはそれはグロデスクな物体が皿にのって登場してきたから、さあ大変。

 なんかバラバラになったニワトリ(頭とか足とかそのままある)に、焼いたタマゴとタマネギがゴロゴロはいっているぞ。


「お母さん、あれでよかったのかな?」

「もちろんよヒルデ」

「でも……おいしくなさそうだよ?」

「きっと大丈夫ですって。貴族さまのおっしゃる通りに作ったんですから。それに……そもそもわたしは料理をしたことがないからわからないわ」

「お母さん……あたしもつくったのはじめてだよ?」

「ええ、知っているわ。ヒルデの『はじめて』は貴族さまに捧げたのね」

「う、うん」


 なんか親子で超異次元な会話してるし。

 罰を与えたつもりが俺が罰受けてるじゃん。

 しかも、俺が言った通り作ったとか……。

 責任丸投げされちゃったよ。


「…………ゴクリ」


 されとて、罰を命じてその通り動いた以上、俺も食べないわけにはいかない。


「えーいっ! ままよっ!!」


 ニワトリの足を掴んで喰らいつく。


「…………ブフォーーーーッッッ!!!!!」


 思った通り、『オヤコドン』はすげーまずかった。


 しばらくしたのち、俺は哀しそうな顔をしているオットーを筆頭とした自警団の皆さま方と、縛られた野盗一味を引き連れ家路へとつくのだった。

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