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第6話 もうこれ処刑するしかないよね?

 村長の禿げあがった頭頂部が、松明の明かりを反射する。


「村長……おたくの村人さんたち、なかなかにやんちゃじゃないですか」

「……申し訳ございません」

「いやね、俺もマーグスウェル家の男子として領民が攫われそうになってるの見ちゃったらさ、ふつー助けるじゃん? 貴族だから助けちゃうじゃん? 貴族だから」

「はい……おっしゃる通りでございます」

「それなのに……ねぇ? おたくの村娘の恩人である俺に対して――いや、貴族とか身分は別にしてだよ? 村の愉快な仲間であるヒルデを救い出してきたその恩人に対してって意味でだよ? その恩人である俺にさ、大人数で殴る蹴るの暴行を加えたうえ、罵詈雑言を浴びせるってどうなのかなぁ?」


 いま俺の目のまえには、村長を筆頭に村の不愉快な自警団の皆さま方が頭を垂れていた。

 それはもう、これ以上はないぐらいに頭を垂れていた。

 俺の処すリストでぶっちぎりの1位を勝ち取っているオットーなんか、ガタガタ震えながら地面に頭を擦りつけている。


 貴族の身分を明かした瞬間これである。

 こんな辺ぴな村じゃ、せいぜい税の取り立てに役人がやってくるぐらいだろうから、俺のような貴族を間近で見るのははじめてのことなんだろう。

 村長含め、俺に暴行を加えた皆さま方は、これからどんな罰を受けるのかと顔を不安に染めている。


「領主様のご子息であるデュオール様に無礼を働いてしまったことにつきましては、お詫びのことばもございません。ですが……ですがなにとぞご容赦を。……どうか、どうかお慈悲を……」


 村長が涙を流しながら懇願してきた。

 さーて、どうしたものか?


 ここで村人たちを赦すのは簡単だ。

 オットーだけは絶対に赦さないけど、元々は誤解が生んだ悲しいできごとだしね。


 しかーし、貴族として、なによりこの村を治めるマーグスウェル家の人間として、高貴な身分である俺に暴行を働いた皆さま方を赦していいものだろうか?

 貴族ってのは面子や世間体ってのにやたら拘る。

 もしも今回の出来事が広まり、どっかの貴族が開いたパーティで、


『ねー知ってる? マーグスウェル家の三男が領民に殴られたらしーよ』

『なにそれ? 貴族なのに殴られるとか、ダサくない?』

『領民に殴られていいのは小等院までだよねー』


 みたいな噂話がたってしまったら、マーグスウェル家の面子丸つぶれである。

 俺がよくても、父上や兄上たちがよく思わないだろう。

 それこそ、家の名誉を護るためにこの村ごと処しちゃうかもしんない。


 ヒルデを助けるためだったとはいえ、俺きかっけで村がひとつ滅ぶのは忍びない。

 その分だけ税収も落ちちゃうしね。


 となると、ここは妥協案として自警団の代表者オットーあたりを打ち首にするぐらいがちょうどいいのかも知れないな。

 実は怒ると怖い父上に任せたら村ごとなくなっちゃうかも知れないから、俺が代表者を処してきたと言えば、父上もそれ以上はなにもしないはず(と思いたい)。


 おっし。ならここは村の平和と俺の心の安寧を保つため、オットーには名誉と価値と、あとなんかてきとーにいろいろな意味を込めて犠牲になってもらいますか。


「村長よ」

「はい」

「今回の件、行き違いがあったとはいえさ、処罰なしで済む問題でもないじゃん?」

「……はい」

「いや、俺だって領民を罰したくないよ? でもねぇ……? わかるでしょ?」

「…………はい」


 重々しく頷く村長。

 問題は、どーやってオットーを処すかだよねー。

 異世界の流儀にのっとって、『せっぷく』なる自決法で処されてもらおうかな?


 とか考えてる時だった。


「待ってください! 悪いのはぜんぶあたしです!!」


 重苦しい空気を引き裂くように、ひとりの少女が大きな声を出した。


「君は……」

「貴族さまっ。あたしがいけないんです! 罰するならあたしだけにしてください!」


 ハーフエルフの少女、ヒルデがまっすぐに俺を見つめる。

 その瞳には、強い意思の光が宿っていた。


「あたしが悲鳴をあげたからっ、オットーさんも貴族さまを悪い人だと勘違いしちゃったんです! だから悪いのはあたしなんです!」


 ちょっと待って。

 この展開は予想してなかったよ。

 不意な出来事に動揺していたら――


「ヒルデ!!」

「お母さん!!」


 向こうから可愛いエルフが駆けよってきて、ヒルデと抱き合っちゃった。

 え? いま「お母さん」言ってた?


「ヒルデ……わたしも一緒に罰を受けるわ」

「お母さん……でもっ」

「いいのよ。あなたはわたしの大切な娘なんですから」


 ヒルデの涙を拭ったヒルデの母君は、俺に顔を向ける。

 人間基準でいうと17歳ぐらいかな? めっちゃ可愛い。

 母君ったら、エルフ大好きっ子な俺の心を一瞬で鷲掴みだ。


「さあ、貴族さま」


 ヒルデがそう言い、


「罰するならわたしたち親子にお願いします」


 母君が引き継ぐ。


「…………」


 言葉を失った俺は――


「ちょ、ちょっと待ってろ! え~っと、『むらびとをしょけいしようとしたら、えるふがでてきたけん』っと」


 タブレットを取りだし、異世界の掲示板に『すれ』を建てるのだった。

次回、掲示板回

【村人を処刑しようとしたらエルフがでてきた件】


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