第4話 なんだか誤解されちゃってるよ!
なんか勝手に解散されちゃった。
異世界とはいえ、庶民ばかりが集まるという掲示板で貴族であるこことを明かしたのはまずかったか。
うーん。掲示板って難しい。
でも『どこの貴族さまだよ?』って聞かれたんだからしかたないよね。
まー、今回の『すれ』は前回のすれより書き込みが増えたからよしとしようか。
やっぱ人生前向きに考えてかなきゃね。
「さて……っと」
俺は気を失っているハーフエルフの子の肩を抱き、揺らす。
「おーい。おきろ―」
「う、うーん……」
ぐらぐら揺らしたらうっすらと目を開けた。
でも、その焦点は定まっていない。
やっぱ薬でも盛られてるみたいだな。
「しゃーない。いったん移動するか」
俺は土魔法で掘った穴に野盗のみな様を埋めて(首だけ出しといた)から、女の子を背負って森を出た。
目指すは森から一番近い村だ。
「よいしょっと」
村についた俺は、個人的に借りてる一軒家に背負っていた女の子を運びこみ、ベッドへ寝かせた。
女の子は目を開けてはいるけど、
「あ、あ、う……」
意識は混濁しているみたいだ。
口をパクパクさせては言葉にならないうめき声を漏らしている。
「そんじゃ……キュア!」
俺は女の子に手をかざし、解毒の魔法を唱える。
師匠からはいろんな種類の魔法を教えてもらっていて、これもその内のひとつだ。
「あ……? しゃ、しゃべれ……る?」
キュアの効果はバッチリだった。
意識もハッキリし、しゃべれるようになったみたいだ。
「君、大丈夫?」
「あ……きゃーーーーっ!!」
心配して顔を覗きこんだ俺に、いきなりビンタが飛んできた。
ぱっちーんと小気味よい音が響き、頬に痛みが走る。
「たす、たすけてー! 誰かっ! 売られちゃうよー!!」
これはあれだね。
俺もこの子をさらってた野盗の一味だと思われてるね。
「おち――落ちついて! 俺は君を――」
「やめてっ、こっちこないで! 誰か助けてーーー!! おかーさーん!!!」
「違う! 俺は君を助けて――」
「いやーーー!! 誰かーーー!!」
女の子が手近にあるものをポイポイ投げつけてくる。
それも絶好調に悲鳴をあげながら。
俺は領主の息子――つまり貴族の身分を隠してこの村に一軒家を借りている。
たまにぷらりとやってくる謎の若人。
それがこの村での俺の立ち位置だ。
一軒家を借りる手続きや、その他もろもろはぜんぶ爺やにやってもらっていて、俺が村人と接する機会はほとんどない。
というか、会っても庶民となにを話していいかわからず、声をかけられても無視していたのだ。
身分の差というものもあるし、なによりこの家を借りてることを父上に知られたくなかったからだ。
それなのに――
「嫌っ! いやぁっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
女の子がこの世の終わりとばかりに悲鳴をあげるもんだから、さあ大変。
「いったい何事だっ!!」
村の自警団の方々が扉を蹴破って突入してきたぞ。
「お前――ヒルデになにをしてるっ!!」
扉を蹴破ったいかついお兄さんが女の子を見て、俺を見る。
なぜかその目には怒りの炎が燃え盛っていた。
「ヒルデ無事かっ!?」
「助けてオットーさん!」
「いま助けてやる! お前……ただで住むとは思うなよっ! 手足をバラして獣のエサにしてやるっ!」
さすがは村人。
発言が品性を疑っちゃうぜ。
獣のエサって。
手足をバラすって。
これ王都のお坊ちゃん貴族だったら、気を失っててもおかしくない発言だぞ。
「ま、待て村人よ。これには深い事情があってだな――」
「なーにが『村人』だっ。舐めやがって……。前からお前のこと怪しいと思ってたんだ。ついに本性をあらわしやがったな……」
「怪しくない! 俺はぜんぜん怪しくないぞ! よ、よし! わかった。ではまず村長を呼べ。ここは話し合いを――」
「うるせぇっ!! おいみんなっ、こいつを足腰立たなくしてやれ!」
「「「おおっ!!」」」
拳ポキポキ鳴らしたり、ひのきの棒を構えた自警団の皆様方が俺にじりじりと近づいてくる。
「てめぇ……ヒルデちゃんになにするつもりだったんだ」
「覚悟しろよ……ぶっ殺してやる」
「ヒルデちゃんの味わった恐怖、お前にも味あわせてやるよぉ」
みんな殺気立ってる。
どうやらこのヒルデってハーフエルフは、この村の男たちの人気者みたいだ。
まあ、可愛いからね。
それよりもどうしよう?
父上は領民に人気がある。
作物が不作の時は税を軽くしてあげたり、モンスターや盗賊団が出たときはすぐに騎士団を向かわせるからだ。
ここで俺がこの村人たちを打ち据えたとしよう。
その場合、父上の評判に傷がついてしまうかもしれない。
もともとは誤解がこの状況を生んだんだ。
いかに教養の低い村人とはいえ、話せばきっとわかってくれるはず。
となればしかたがない。
ここは身分を明かしてことを収めるとしますか。
「……わかったよ村人たち。俺はいっさいの抵抗をしない」
俺は腰にさしていた剣を鞘ごと床に放り投げる。
そして両手をひろげて自警団の――とくのリーダー格のオットーとかいう男に向かって語り掛けはじめた。
「そこの者。オットーとかいったな。俺はマーグスウェ――」
「うるせぇっ!!」
聖人のように優しく語り掛ける俺の顔面に、村人の拳がとんできた。