第2話 はじめてスレを建ててみたよ!
俺が師匠と出会ったのは10年ほど前のこと。
屋敷を抜け出し、領内の森をひとりで探検していた俺は、凶悪な魔獣に襲われてしまったのだ。
高位の冒険者が隊を組まなければならないような魔獣を相手に、5歳のちびっ子が逃げ切れるはずもなく、あっさりと俺は捕まった。
そして食べられようとしたその瞬間、どこからともなくあらわれた師匠によって助けられたのだ。
魔法による一撃。
たったそれだけで、凶悪な魔獣は消し炭へと変わった。
王宮付きの宮廷魔導士でも、あんなすごい魔法は使えないに決まってる。
その凄まじい魔法に魅せられた俺は、助けてくれた師匠に弟子にしてくれと頼み込んだ。
幸い(?)にも師匠は金遣いが荒く、方々に借金をこさえていたため、それを肩代わりすることを条件に俺を弟子にしてくれた。
それ以降、俺は師匠から様々なことを学んだ。
魔法。武器の使いかた。ひととの戦い方や、魔物との戦い方。
とりわけ俺の興味をひいたのは、『異世界の言語』と『異世界で創られたマジックアイテム』の数々だ。
はじめ、師匠が自分のことを「異世界から来た」と言った時は、ヤバイ奴と知り合っちゃったなー、と不安に思ったけど、いろんな魔道具を見せられたあとでは、俺も納得するしかなかった。
師匠の弟子になって早10年。
いまでは異世界の言語も、魔道具の使いかたもほぼ完璧にマスターしている。
先月、15歳の誕生日に師匠からもらった贈物の『たぶれっと』は、いまのところ俺の一番の宝物だ。
師匠が魔法で常時異世界と繋げてくれているから、『たぶれっと』と通して異世界の知識や情報を好きなだけ知ることができる。
こんな素晴らしいマジックアイテムは、王様だって持っていないに違いない。
「誰か書き込んでくれたかな?」
師匠に教えてもらった『掲示板』というところには、いっつも誰かしら常駐していて、誰かが何か書き込むと、違う誰かに返事をもらえるのだ。
掲示板の存在を教えてくれたとき、師匠は「半年ロムれ」って言ってたけど、未だにその意味はわからない。
けど、きっと半年修行しろ、ってことなんだと思う。
だから俺は修行の意味も兼ねて、掲示板に『すれ』というものを建ててみたのだ。
はじめての経験に、さっきから心臓がバクバクいってる。
「くっ……。緊張するな」
『すれ』がもりあがって『まとめさいと』ってとこに取りあげられちゃったらどうしよう?
俺が異世界で人気者になっちゃうじゃん。
有名人になっちゃうじゃん。
俺は、はやる気持ちを抑えて自分でたてた『すれ』を覗く。
すると、そこには――
1:名無しのぼっちさん
ちょっと聞いてくれよ
父上がビッチを俺の許嫁にしちゃったんだ
どうやったら婚約破棄できるかな?
2:名無しのぼっちさん
>>1
死ね
とだけ書かれていた。