あらゆる皆様に安心してお送りいただける話
~前置き~
この話は私が大学生時代の思い出話だ。実に、いや本当に面白い話なのでたっぷり勿体ぶってから話を始めたい。
ただ、この話をするにはチョットだけ……いや、とんでもなく問題がある。というのも健全なる青少年諸君には……ちと言いにくい話なのだ。私はこの話を”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”になるように真実を若干ボヤかしてお話しようと思います。皆様、ご安心して下さい。そしてホンのちょっとでいいので私の文章に目を通して貰えたら嬉しいです……ハイ。
タイトルはどうしましょうかねぇ……タイトルというのは読者の皆様が最初に見る文章となるのでとても重要です。話の内容を踏まえてタイトルにするのは当然ですが……シンプルなタイトルにしようか、それとも衝撃的なタイトルにしようか、はたまた超長いタイトル、逆に短いタイトル……
今から伝える内容を考えるとタイトルは……う~ん、ちゃんと考えないといけませんね。
この話を”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”にするにはタイトルも安心できるような文でないといけません。内容は安心できるのにタイトルが安心できないようでは”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”として失格だと私は考えています。
しかし、残念ながらこのお話は先程もお伝えしたように健全なる青少年諸君にはちと言いにくい話なのです。だからこの文章の内容を踏まえてタイトルにしたら絶対に問題のあるタイトルになってしまう可能性があります。僕が問題ないと判断しても周りから見れば問題があるという可能性もあります。
私はいつもお話の内容を踏まえて決めますが、今回はお話する内容以前に”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”にするという前提があります。内容よりもこっちが優先です。
しかし困りました。いつもと違うタイトルの決め方をするのでタイトルが中々決まりません。お話の内容自体は殆ど決まっていますが……やはりタイトルがないと固まりませんね。原稿に文字を書くどころかペンを持つことすらできません。
タイトルを思いつかないのは仕方ありません、ここはシンプルなタイトルにしましょう。
タイトルは「あらゆる皆様に安心してお送りいただける話」にしましょう。このお話は内容よりも安心してお伝えすることのほうが重要です。安心してお伝えすることがホントのホントで最重要です。だからタイトルはお話の内容をアピールするのではなく、安心して読めることをアピールすることにしました。
それではお話を始めましょう、”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”です。
~1枚目~
あれは確か私が大学生の時、それも卒業が近づいた頃の話だ。私は卒業論文というキャンパスライフ最大の仕事を後回しにして現実逃避していた……オヤ?
あっ……ゴメンナサイ、本当にゴメンナサイ、これは私の失言でした。大学生が卒業論文を放り出すなんてあってはならない事です。話の最初っからこんな不健全な話題になってしまうのはダメだ……うん、ボツだね。この原稿はクシャクシャに丸めてクズ箱に入れましょう……なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
~2枚目~
あれは……確か私が大学生の時、それも卒業が近づいた頃の話だ。私は卒業論文というキャンパスライフ最大の仕事を黙々と作業していた。しかし、ずっと書き続けているのは正直いって疲れる。疲れたまま書き続けるのは論文の内容にも支障が出ると思い、休憩を取ることにした。
休憩場所に選んだ場所は大学の食堂だ。この場所は本来、学生たちが昼食を取るスペースだが、学生達の憩いの場にもなっており、学生たちが宿題やら読書やらゲームやらスマホやらをして……アレ?
スンマセン、学生の本分は学業でしたね。宿題や読書はまだともかく、ゲームやスマホは学生の空き時間として果たしてどうなのか……考えものだ。
学生の空き時間は有意義に使うべきだ。学生らしく、健全に、健全に……なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
この原稿もボツです。原稿用紙をビリビリに破いてクズ箱へGOです。では、改って……
~3枚目~
休憩場所に選んだのは大学の自習室だ。ここは文字通り、学生たちが空き時間に自習をするためだけに存在しており、私が来た時にはもう8割程の席が埋まっていた。学生の本分は学業、コレ一択だ。
自習室に入る時、私は友人であるA君とすれ違った。A君は私とは逆に自習室から出てきたところだった。
「よお、美内じゃないかぁ、これから自習か?」
「あぁ、ちょっと休憩しようと思ってな」
アレ……休憩なのに自習室?ちょっと話がヘンな気がするが健全なる大学生に遊ぶという選択肢は無いのだからヘンじゃないよな?うん、じゃあ話を続けよう……なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
とにかく私は自習室に休憩……違う、違うな……自習室だから自習だ。私は自習室に自習しに来た。では、A君はどうして自習室を出たのだろうか?
「A君よ、君はどうした?」
「俺か?俺はちょっと気分転換にタバコだよ。喫煙所に行ってくる」
そう言って彼は二本指を立ててタバコを吸うフリをした。
「そうか、行ってら~」
…………
何が「行ってら~」だよ、えぇ!?今時タバコなんて一番っ表現規制が厳しいブツだからもうっ!いや別に、A君はその時すでに成人を迎えているし、タバコを吸う場所も喫煙所なのだから法律的にも大学内のルール的にも問題はないのだが……しかし物語として出すには問題がある。ニュースやらインターネットやらで度々、タバコの健康被害だとか……タバコをテレビや映画で移さないようにしよう、とか言われている。それなのに……この作品ときたら!
てか、そもそも自習室は私語を慎むべき場所だ。例えそれが入口だとしても、そこが自習室であることに変わりはない……喋るな、黙れ、口を鎖せ!自習室で音を出していいのはペンを走らせる音と参考書のページを捲る音だけだ!
ハイ、ハイ、ハイ、こんな文章はボツだしバツだよ!タバコなんて出しちゃダメだし、自習室で私語しかしない学生も有り得ない!こんな原稿は世の中に存在しては行けないな……シュレッダーに掛けましょう。そして出てきた紙クズも放ってはおけないなぁ……バケツにクズと水を入れて融解処理しましょう。
処理に結構な時間がかかりましたが、これでこの原稿はこの世から消え去りました。なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
~4枚目~
自習室で私語はいけないから……えっと、どうしようか……あぁ、じゃあこうしよう!
私は大学を卒業して数年は経っているから記憶が曖昧だ。うん、そうしよう!
何せ古い話だから詳細に覚えていないのだが、私はA君と当たり障りない挨拶程度の会話をした。そして私はA君と別れ、何かする部屋に入った。
何かする部屋には同じく友人であるB君が居た。B君は卒業論文を書く時期だというのに未だに就職先が決まらずの状態だった。彼も彼でそれを意識しており、卒論そっちのけで履歴書を書いていた……ってギャオ!
だから大学生は論文書けよ!内定が貰えなくて卒業後の生活が不安なのは分かる、分かるけどB君よ……君は未来ではなく今を生きているんだ!
B君が学業そっちのけで履歴書を書いているのは表現的に問題だ……ボツにしましょう。私は鼻炎持ちの人間で、ちょうど鼻水が垂れてきたのでチリ紙として使いました。クチュン!
鼻水付きのボツにします。問題ある表現をして読者の皆様を不快にさせたくない……なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
ちなみにB君はその後、無事に就職先が決まりました。ヨカッタネ!
~5枚目~
ありゃりゃ、コレで5枚目だ……この文章を書くのに私は4枚の原稿用紙を犠牲にしてしまいました。1枚はクシャクシャに、1枚はビリビリに、1枚は融解処分となり、1枚はチリ紙となりました。
私はこの文章を書き始めた時、原稿用紙のストックは5枚でした。つまり、原稿用紙の4枚が廃棄された今、残った原稿用紙は今まさに執筆しているこの原稿用紙だけなのです。この文章がボツになってしまったら私は原稿用紙を買いに行かなければなりません……
外はもう暗いです。私は引きこもりがちな性格なので人通りの少ない夜でも不必要に外に出たくはありません。
原稿用紙の為に無駄な出費、無駄な労力、無駄な時間が起きないように引き締めて行きましょう。何より紙自体が無駄になってしまいますからね……
……もしかして今、私はヤッちゃいましたか?
私はこのエコが騒がれる時代に原稿用紙を4枚も無駄にしたという文面を書いてしまいました。これは100人中100人が「エコじゃありません」と口を揃えて言う事案です。この文章も世には出せませんねぇ……ボツです。
さて、原稿用紙の処分方法ですが……クシャクシャも、ビリビリも、エコ的に考えてナンセンスです。融解処分なんてもってのほかです。チリ紙はまだ再利用していると言えますが……私は先程、鼻をかんだ後、実は鼻炎の薬を飲みました。ちょうど今、効き始めた頃合で鼻はスッキリです。チリ紙は不要です。
そうなると、この原稿用紙は……手のひらサイズに鋏で切ってメモ紙として再利用しましょう。ご安心してください、エコです。なにせ”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”ですからね。
しかし、原稿用紙が無くなってしまいました。買いに行かないと紙がありません……この時間だと文房具店やスーパーは閉店しています……残る選択肢はコンビニでしょうか?しょうがない、気は乗りませんが原稿用紙を買いに行きます。ヨッコイショ!
~6枚目~
私は皆様にお詫びをしなければなりません……5枚目の最後で私は原稿用紙を買いに行くと言いましたが……実はこの文章は原稿用紙とペンではなく、パソコンとキーボードで書いていました。事実ではない事を書いてしまって申し訳ないと思っています。
ただ私は、この話が実話であるとは一言も言っていませんよ?ぶっちゃけ作り話です。そして、こんなメタ発言ばっかり書いている時点でこの文面はボツです。メタ発言を連発して作品がボツでは格好が悪いので別の理由に仕立てあげましょう。そうですね……原稿用紙に書いている途中でコーヒーを零してしまった……という事にしましょう。
正直に言いますと、今までボツになった文面は全部、データとしてパソコンのハードディスクに残っています……というか、ここまで読んだ皆様は確実にボツになった原稿を読んでいるハズです。読者の皆様、どうか空気を読んで下さい……決して読み返したりしてボツ文章を読まないようにお願いします。”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”にご協力ください。
次が清書です。”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”です。
~清書~
これは私が大学生時代の話で少し記憶が曖昧なのだが……私は友人であるA君と当たり障りない挨拶程度の会話をした。そして私はA君と別れ、何かする部屋に入った。
何かする部屋には同じく友人であるB君が居た。B君は卒業論文を書く時期だというのに未だに就職先が決まらずの状態だった。彼は寝る間も惜しんで卒業論文を書き、そして履歴書を書いていたのだ。目の下にはクマがクッキリで彼の苦労が伺えた。
「B君よ、君が書いているのは履歴書ではないか……論文はどうした?」
「おぉ美内か……論文は朝、無事に提出したよ。後は内定を取るだけだ」
どうやら卒業論文は無事に提出できたようだ。これによって彼は大学生としての責務を全うしたことになる。就職活動に専念できる訳だ。
「えっと……名前に生年月日、住所に学歴っと」
B君は履歴書のマス目を大学生らしい綺麗な字で埋めていった。実に大学生らしい……
「次の項目は”希望する職種”か……」
なるほど、希望する ”触手” の項目ねぇ……
「俺、 ”触手” は大好きだよ。こう、ピンクっぽくて血管が浮き出ていて……白濁色のヌメヌメした分泌液が射る物を所望する」
以上、 ”職種” と ”触手” ……同音異義語が招いた勘違い話だった。
今でも私がB君に会うたびに、B君はこの”触手事件”を話のネタとして引っ張り出してくる。
~後書き~
果たしてこの「あらゆる皆様に安心してお送りいただける話」は如何だったでしょうか?短編ですがこの美内夕己、非常に難産な作品だったと思っています。清書は五百字程度のものにしかなりませんでしたが……それにたどり着くまでに何回も書き直しを行いました。
でも人は失敗から学ぶといいます。何回も書き直したことで”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”になったと思います。
もう完全、確実に大丈夫、誰が読んでも安心できるお話です。なのでこのお話を読んだ方は是非とも他の人に勧めていただけたらなと思います。”あらゆる皆様に安心してお送りいただける話”だよとね。