第8話~D迷宮と隕石~
☆
D迷宮。
迷宮の中でも珍しい外敵が出現しない安全地帯だ。
喰鰐や無限増殖、竜も住めない、全生物を拒絶する地でもある。
常に強風が吹き荒れ、地面は震え、空からは隕石が多数落ちてくる。
まさに、生物が居住するにしては、あまりにも向いていない場所だ。
だが、迷宮なのだから当然といえばそうなのかもしれない。
そして、そんな地には隕石に含まれる魔石―魔力を補充することが出来る天然石―が多数転がっていることもあり、迷宮攻略者たちからは、それなりに人気がある。
ただ、一度訪れたものは二度と舞い戻らないとも言われている。
「……と、そんな、感じでいいんだよな?」
「うん! そうそう」
まさに地獄としか言いようがない地だ。
そんな迷宮に僕とナギは向かっていた。
先日、竜の眼を回収したにも関わらず赤字となってしまったこともあり、一刻も早く収入を得たいとは考えてはいたのだが、流石にこれは割に合わない。
現に一度訪れた者が二度と訪れないというのは、どれだけ大変だということかをわからせる。
「他には迷宮はないのかな、確かにこれは荒稼ぎには良いけど、命の危険があると思うんだけどな」
「まあ、他の人たちにとってはそうかもね、でも、颯太の時間停止を使えば隕石からだって逃げられるでしょ!? だから、命の危険はないと思うよ」
ああ、確かにそうか。
僕の時間停止を使えば、隕石の存在に気が付けさえすれば、逃げることも簡単か。
それに、小さな隕石なら曲弦師の力でもなんとかなるかもしれない。
「で、魔石ってどれらいで売れるんだ? そもそも、この世界に魔力なんてあったのか?」
「うーん……魔力というよりは、能力かな。 例えば颯太の時間停止だって魔力を使うことで発動しているんだよ、だから魔石があれば、魔石の効力が続く限り、永遠と使えるんだ」
「ふーん、なるほどね、つまりは、能力持ちの攻略者にとっては必須アイテムだということか。 だったら高く売れそうだな」
「うん! 過去最高の魔石は重さ5トンって馬鹿でかいんだけどね、その時は一千億とも一兆円とも言われていたなあ。 だから、こんな小さな石でもそれなりには売れるんだ」
5トンってでかすぎだろ。
まず、そんだけデカい魔石を見つけたのが凄いな、それに落札価格が一兆とか漫画の世界の話かよ、国家予算にも匹敵するんじゃねえの。
「まあ、とりあえず、取れるだけとればいいってことだよね?」
「うん、まあ、敵も出ませんし気楽に行きましょう、ねっ!」
まあ、あれだ。
隕石、地震、強風。
世界を脅かすのが全てあるのはやばいが、だが怪物が出現しないのなら案外楽かもしれない。命の危険も時間停止を使えばなんとかなるみたいだし。
そしてしばらく歩くと、ようやく迷宮の入り口が見えてきた。
馬鹿でかい山々に一か所だけ穴、トンネルみたいなものがあり、奥を見てみると空間が揺らいでいる? ように感じた。
「ナギ、これが本物の迷宮なんだな……」
「ええ、訓練施設とは比べ物にならないでしょ! これは正真正銘、この世界の強者が日夜挑む、世界の未開拓地です。 もしかして怖気ましたか?」
「いや? そういう訳では無いさ。 ただ、初めて迷宮の入り口を見たから驚いちゃっただけどよ……じゃあ、行こう」
「はい」
その日、僕とナギはD迷宮へと挑戦した。
☆-☆
迷宮内には光は入っておらず、薄暗い。
だが、時折、カメラのフラッシュのように、少しの間だけ昼間のように明るくなり、遠く離れた地も薄らとだが見える。
そして、僕とナギはそんな不思議な地を歩いてた。
地面は砂や岩が散らばり、歩きにくい。そして、薄緑に輝く魔石が小さいながらも落ちており、それを拾ってはナギが持つ袋に入れていく。
思えば、こんなに小さな魔石でも数が集まればそれなりに売れるというところが、貝拾いに似ている気がする。
そして、空を見上げるとそこには真っ暗な空間が広がっていた。
南に微妙に輝く星は証明の役割を担っており、また位置もずれないため、方向判断にも活用できるとのことだ。
しばらく歩くと、ナギが上を見上げていた。
何かと思い、僕も見てみると。
暗く光る空空。
そこから、赤い一点の光が近づいてくる。
そして、徐々に大きくなり。
「うわああああああああああああっ」
「そ、颯太、は、はは、早く!」
「ああ! ワイヤー・ロック!」
ナギから貰った金属糸を操り、僕は幾重にも重ねることでネットを作りだし、それを隕石に引っかけ、僅かにだが軌道をずらすことに成功し、隕石はすぐ脇を掠めていった。
直後、膨大な質量が地面に衝突し、とてつもない地響きがし、爆風と一緒に岩沙が吹き荒れる。
それも、曲弦師の力を使い、盾にすることでなんとか防ぐ。
「だ、大丈夫か、ナギ?」
「ええ、なんとかですが……」
まさか、これほどの威力とは……。
正直、隕石の力を甘く見ていた。
時間停止の力を使えばよけることなど造作もない、だが魔力消費量は多い、その代り曲弦師は糸を操るだけであり、世界全体に干渉はしないため、魔力は少なくて済む。
だから、僕たちは曲弦師に頼って迷宮を攻略しようという計画だったのだが。
その結果がこれだ。
「ナギ、計画を変更したほうがいいかもしれない。 曲弦師の力じゃあ隕石を止めるのは無理だよ、それこそ軌道をわずかにずらすのが限界だ」
「うん、わかっています。颯太の負担が増えちゃって申し訳ありませんけど、巨大な隕石の時は時空停止をつかってください……」
ナギは申し訳なさそうに言っていくる。
確かに、ここは怪物が現れないし、傷も回避すればそこまで負わない。だから、回復系の力を持つナギの力を借りずに進んでいた。
そのことにナギはかなり罪悪感を感じているのかもしれない。
「いや、ここは僕に任せてよ。 だからそんなに落ち込まなくてもいいよ。 それに、僕がこうして迷宮攻略者としてすぐに活動できているのもナギのお陰だよ」
「すみま……、ありがとう、そうた」
まあ、今回は僕の能力がかなり有効だ。
だから、僕の出番だ。
それに、曲弦師の力の使い方や身のこなしのいい練習になる。
「まあ、魔石をたくさん取ろう!」
「はい!」
そして迷宮に入りずいぶんと魔石が集まり、背中の袋がだいぶ重たくなってきた。
だいたい、5キロ程だろう。
ナギの話の5トンには程遠いが、個人の量としては結構なほうだし、魔力の量も少なくなってきたのか糸を上手く扱えなくなってきている。
ここは、いったん迷宮の外に出て休憩したほうがいいだろう。
「ナギ、そろそろ帰ろう」
「う、うん……」
なんだが、ナギの表情がおかしい。
これは、喰鰐のときに見せたのと同じだ。
なんだか、絶望顔というか、失敗しちゃったみたいな。
「どうかした?」
「いや、えーと、ここはどこ、かな……」
「えっ……」
ここはどこ?
ここは、迷宮内だ、だが、そんな答えを求めてはいないだろう。
ということはあれか。
僕とナギ。
二人は迷子になった。




