第5話~迷宮攻略者
千年後の未来では、僕みたいな能力者が多くいて、珍しくもない存在だった。
過去では、僕以外には誰一人居なかったのにどうしてこんなに増えたのだろうか。
それに、迷宮なんてものは無かった。
それこそ、千年で、世界は変わった。
それも僕の想像とは異なる方向へとだ。
考えられるのは二つ。
世界が能力者という存在を生み出す世界へと変貌を遂げてしまったこと。
だが、それはあまりにありえないことだと思う。
たかが、数千年でここまで変わるわけがない。
それこそ、こんなに変わるのには一億年程度は必要だと思う。
だとしたら、もう一つの可能性。
僕は別の世界に来たのかもしれない。
俗に言うパラレル・ワールドかもしれない。
僕たちが普段何気なく行動していることが、結果的に未来を変えてしまう。
それにより、選択肢を選ぶほど、無限に別世界が増え続けるという。
だから、この世界は能力者や迷宮が昔からある世界。
そう考えれば、不思議な点も納得できる。
……それこそ、欠けたパズルのピースが嵌っていく感じだ。
「――というわけで、僕はこの世界の住人ではないのかもしれないよ……」
と、僕は右隣を歩く少女に対して言う。
それに対して、少女は、手に持っていた、綿あめにかぶりつつ、僕の方を向き。
「そうかもしれないけど、でも、颯太はこの世界が嫌なの?」
「違うよ。ただ、こういう可能性もありかなって思っただけだよ」
よくよく、考えてみれば、僕は前居た世界のことを好きではなかった。
僕以外に能力者はおらず、動物園の人気者のごとく人間に興味深く観察される。
そして誰一人、僕を普通の人間としては見てくれない。
だから、この世界に来られて良かった。
僕みたいな異常な人間でも、この世界では違う、普通の人間に近い。
だからと、僕はナギに言う。
「ここは、とても良いところだよ。僕を研究材料として見てくるような人なんて誰一人いないしね……それに、ナギと仲良くなることができたし。実は今まで友達なんて、いたことが無かったのさ」
「そうなの? ほんとのほんと?」
……なんだか、ショックだよ。
そこまで、疑わなくてもいいじゃないか。
僕に友達が居ないのは事実であり、それは誤魔化しようが無いことだが。
ここまで、はっきりと言わられると、それはそれで凹むよ。
「ほんとのほんとだよ。僕の人生初の友達は君だよ。
だからありがとね、こんな僕なんかと一緒に迷宮攻略してくれてさ」
「――それは私も同じだよ! ――あの日。颯太が助けてくれてくれなかったら、おそらく今頃、金のなる木としてしか見られていなかったと思う……だから、ありがとう! 私を救ってくれて!」
――と、互いを褒めあいながら、僕たちは目的地に向かって歩いていた。
これは、所謂、傷のなめあい、なのかな?
いや、違うか。
これは、自己紹介だ。
僕とナギ。
二人の、心境暴露大会であり、友情を深め合うためには避けては通れない道だ。
……おそらく。まあ、それは置いといて。
僕らは、道なき道を歩いていた。
というのも、かつては道路だったはずの道が、千年という長い期間で、自然に覆われてしまい、道が消えていた。
まあ、これも、僕が来たこの世界と、千年前の世界が同一直線状にあるという仮説が正しい場合に、初めてその通りとだと言えることだが。
―――。
時々、ナギのお姉さんから貰った地図を確認して、進んでいく。
だが、見えるものと言えば、広大な自然風景くらいで、人は見かけない。
「そういえば、迷宮攻略者ってどれくらいなの?」
「そうですねえ、迷宮攻略者自体は五百人くらいで、迷宮攻略見習い――つまりは私たちみたいにまだ、攻略していないけど、いつか攻略する人たちとされているのは五千人から、1万人の間くらいかな」
「なんだか、ずいぶんと、迷宮攻略見習いは、ばらつきがあるね?」
「うん、このデータはね、一年以上迷宮に挑戦している人たちの人数であって、駆け出しの攻略者見習いとかは人数に含まれてはいないから、実際はもっといるかもしれないからってことね。それに、既に怪物に殺されている人もいるかもしれないから」
ああ、なるほど。
確かに喰鰐みたいな怪物が迷宮に住み着いているのなら、攻略者の何割か殺されているのかもしれない。
その数を含めれば、かなりの人数が迷宮に日々挑戦して殺されているということになるのか。
だとしたら、一流迷宮攻略者。
すなわち、A級になれるのは、かなり難しいことなのか。
……それなら、
「ナギのお姉さんはさ、A級迷宮攻略者だよね? それってどれくらいすごいことなの?」
「攻略者のうち、全体の5%がA級、15%がB級って感じだから、Aと言えば、迷宮攻略者のなかのトップクラスの人たちの集まりかな」
「ってことは、とっても凄いね」
「うん! 私の自慢よ」
「そういえば、ナギは今何ランクなの?」
「わ、私? そうだなあ、確かDとかだったと思う……というのも、迷宮に攻略者として挑戦していたけど、ほとんど、回復としてしか行ってなかったから、私自身の迷宮攻略者のランクは上がってないの――」
「ああ。つまりは戦闘補助員のランクは上がりづらいってこと?」
「うん。だから、ランクはそこまで高くはない……だけど、これでも色々な人たちのパーティで数々の迷宮に挑んできたから、実戦経験はあるとおもうけどね」
「それは心強いよ。僕は駆け出しだから、Fランクだし……」
「でも、実力はCランクはあるってお姉ちゃんが言っていたし、自分に自信をもってもいいと思うよ? それくらい強いのだから、ランクなんて気にしちゃだめだよ!」
ナギなりに、励ましてくれているのかな。
……確かに、僕はこの世界の最低ランクの迷宮攻略者ランクFだ。
だけど、実力はそれ以上にあるみたいだし、いいか。
でも、それって結局のところ。
時空停止。
曲弦師。
この二つの能力があるからという訳であって僕に、特別な剣術が備わっているということはでないから。
やはり、危機感は持って行動したほうがいいのか。
時空移動みたいに、いつ使えなくなるか、予想できないし。
何の能力に頼らずに、己の力だけで、怪物を殺す。
それが出来てこそ、一流の迷宮攻略者というものだろう。
だからこそ、もっと剣の威力を上げないとダメだ。
「剣術最強の人はいるのかな?」
「剣術最強? それはつまり、剣だけを扱う冒険者ということですか? 能力を何一つ持たない」
「うん。この世界には能力者では無い人の方が多いのだろ? だったら、能力を持たないけど、高ランクの攻略者がいるのかなと思ってさ」
たしか、能力者の割合は全人口の数%だったはずだ。
それに、能力者の全員が迷宮に挑戦しているというわけでもないだろう。
ということは、才能を持たずに、努力だけで最強になった人も少なからずいるのかもしれない。
そう思い、聞いてみる。
「能力者は確かに強いです。大半がB以上には上がっていますし、Sランクに関しては全員能力者です……でも、だからと言って、全てが能力者ということでもありませんよ?」
「え、そうなの?」
「はい。現に私のお姉ちゃんは、無能力者です。でも、剣術が神級だったから、Aまで上り詰めました。だから、能力者は有利だけど、武器を上手く使いこなす人たちや、頭が切れる人はたくさんいますよ。それこそ、攻略者の半分以上は無能力者ですし」
「ってことは、無能力者だからと言って甘く見てはダメってことか。だったら、盗賊とかには気を付けないとダメだね」
「そうですね、この近くだと、犯罪クラブと呼ばれる、危険な組織がいくつかありますし、深夜のお出かけは控えたほうが良いかもしれませんね」
何となしに盗賊って比喩を使ったのだが、本当に居るとは。
それに、深夜、外を出歩けないほどの危険地帯って、本当にここは日本なのか。
それか、千年という長いスパンで変わったのか?
それとも、やはり、ここは別世界なのか。
まあ、どちらだとしても、元の世界に戻れないし関係ないか。
今は少しでも実力をつけるしかないか。
「あれ、どうかした? いきなり黙って、具合悪いの?」
「ああ、大丈夫だよ。少し考え事をしていた……そういえば、迷宮にはまだ着かないの?」
「えっ、えーとまだみたい」
「はあっ。そうか、なんだか、そろそろ体力の限界もしれない。この近くに村は無いのかな?」
「村ですか? そうですねえ、あっ、ありました。ここから、すぐ近くにありますよ!」
「じゃあ、今日はそこに行って休もうか」
「はい、そうしましょう」
長いこと歩いたが、未だ迷宮にはつかないし、体力も限界が近づいてきた。
だから、休んだほうが良いと思う。
僕たちは、近くの村へと向かった。
☆~☆~☆~
村は村だった。
いや、なんだか、自分で言っていておかしいとは思うがまさに村だとしか、表現できない。
まるで、ゲームに登場するかのような、家が数軒と攻略者用の宿谷、そして安定の武器屋に食堂。
そして、依頼所。
ナギによると、武器屋はどこの村にもあるそうだ。
もちろん、中には経営不振で副業として働く武器職人もいて、そう言う人の武器はランクが低いとのこと。
ただ、まれに職人と呼ばれる、人を嫌い、人里離れた村に住み、高ランクの武器を作る人もいるから、田舎だから武器の品質が低いとは一概には言えないそうだ。
「それじゃあ、また明日」
「え? 何を言っているの? 私たちは同じ部屋だよ?」
「はい?」
なんだ、これ?
村に着いて、早速宿を取ったから寝ようと思ったのだが、なぜか俺の部屋にナギが居た。
それも、枕持参だ。
しかも、あろうことか、俺の寝るはずのベッドに寝ている。
「ああ、そういうことか。じゃあ、俺がナギの部屋で寝ればいいのね」
「違いますよ? というか、私自分の部屋を取っていませんし、それ以前に一部屋しか開いていませんでしたし」
「ということはあれ? 僕はナギと一緒の部屋で一晩を過ごさないといけないと? いやいや、それはダメでしょ」
「なんで?」
「いや、だってさ、僕は男だよ?」
「なんで?」
「好きでも無い人と一緒の部屋とか嫌でしょ?」
「なんで?」
「……」
なんだこの現状は?
あれか、俺は誘われているのか。
……って、いかんいかん。違うだろ。
はあ、どうしてこんなことになったかというと。
先ほどの食事中にナギが誤って、ワインを一口飲んでしまったからだ。
ただ、ナギが飲んだのは、わずかに一口。
それが原因でここまで、酔うのだから、なんともまあ、アルコールに弱いというか。
それこそ、ナギにお酒は危険だということがわかった。
これって、ナギの記憶はどうなるのだろう。
明日の朝覚えているのかな。それとも、全て忘れているのかな。
忘れているのなら、僕は女子の部屋に忍び込んだ、変態と思われるかもしれない。
それだけはなんとしても避けなければならない。
だとすると、記憶があるほうがいいのか?
いや違うな。それこそ、もっと後味が悪い。
恥ずかしがって、僕と一緒に迷宮攻略をしてくれないかもしれない。
……究極の2択だ。
どちらを選んでも、悲惨な運命が僕を待っている。
それなら、より被害が少ないほうがいいとは思うのだが、どちらも最低でも、パーティ解消してしまうかもしれない。
「どうしても、逃がしてはくれませんか、ナギ」
「ダメダヨー。颯太は私と一緒に居ないとダメなんですー」
「……わかった。その代り、これにサインをしてください」
「さいん? わかったぁあっ」
サイン方式。
これを考え付くのに、少し時間がかかったな。
すなわちは、一緒の部屋で寝ることに対する、同意書のサインだ。
もう、ここからは逃げられない、だというのなら。
ナギがいいって許可したんだよってことにすればいいよね!
―――――――――。
次の日。
起き上がると、ナギは消えていた。
そして。
その日は、口をきいてもらえず。
次の日。
ナギは、あのことなど、全て忘れてと言い。
次の日。
僕とナギはようやく普通の関係に戻った。
ただ、アルコール事件は無かったことにしてだが。
☆~☆~☆~
部屋に入ると、そこにはナギがいるがどこかおかしい。
ナギは部屋の窓から外を見入る様に眺めている。
「ナギ、どうかした? 窓なんか凝視してさ」
「いえ、なんだか、遠くの方で光ったような気がしたのですよ」
「光? 何かの明かりとか?」
「いや、なんだか違うと思う。もっとなんだか、別物のような、不思議な光?」
「へー、なんだろうね」
「うーん、もしかしたら、気のせいかもしれないかも」
というとナギは僕の方を向く。
だが、まだ、恥ずかしさからか、僕の顔を見ようとはしない。
「それで、何か用があったのでは?」
「うん? えーと、ああ、そうだ。さっきさ、依頼所を見てきたらさ、いい依頼があったんだよ」
「依頼ですか」
「うん。依頼ランクF、内容は、山の上流部から水が流れてこないから、それについての調査。でっ、もしも、解決まですれば、報奨金は上乗せするって。どうする?」
「いいと思いますよ。それなら、早速、山に行きましょうか」
「ああ」
僕とナギは、依頼を受けて、山へと向かった。




