第4話~怪物を攻略
迷宮内部は、まるで地下水路のように薄暗くジメッとしていた。
所どころ、ランタンによって照らされているため、足元は確認できる。だけど、ランタンは数10mごとに置かれているし、通路は曲りばかりだから、遠くを確認はできない。
「なんだか、想像よりも迷宮みたいだね。練習施設っていうから、もっとこう、近代的なのかと思ったよ」
「まあ、そう思いますよ。私も最初この迷宮に挑戦したときはあまりに迷宮みたいで驚きましたからね」
「――それにしても、いつまで、この道は続くのだろう……」
迷宮迷路に入ってから、早一時間が過ぎようとしていた。
先ほどから、様々な道を通り過ぎるが、そのほとんどが途中で行き止まりになっている為、その度、僕たちは分岐点まで戻り、違う道へと進んでいた。
だけど、道を曲がる度に、分岐点があるのは疲れる。もう、百以上の道を通ったような気がする。
それにしても、未だにトラップや、怪物には遭遇はしていないな。これは運がいいのか、悪いのか。
剣の練習が出来ないって点では最悪だな。でも、こうして楽に進めるっていうのは良いものだな。
「それにしても、後どれくらいで着くかな?」
「そうですねえ、確か前にクリアした時には二時間程度は掛かったので、半分は攻略したと思いますよ? それに、怪物に出くわさないし、予想以上に早くクリアできそうです」
「そうか、それなら、明日には迷宮に行けるかな?」
「その前に、そこらへんにいる害獣で訓練は必要だと思いますよ。この近くには、ヌルヌルした丸い生き物が居ますし」
丸いヌルヌルした生物。なんだか、某ゲームの雑魚キャラをイメージしてしまったが、まあ、確かにここをクリアしたくらいでいい気になったらダメか。
それに、どんな敵でも侮った時点で敗北する可能性が一段と上がる。だから、注意深く進むかと、気合を入れなおしたところで、僕たちはそいつと遭遇した。
大きさは、そこまでない。全身は白くて、丸い。そして、ポンポンとボールが撥ねるみたいに飛んでくる。
顔はあるが、なんだかニコニコしている表情をしている。
そして、そいつは僕たちの側を凄い速さで通りすぎていった。
「あれ? なんか逃げちゃった?」
またもや、某ゲームの、○○メタルを思いだしてしまった。僕ってゲームでしか例えられないのかよ。それにしてもだ、なんだか、一瞬だから、よくはわからないけど泣いているようにも見えた。
「逃げるみたいに消えちゃったね……」
ナギもいきなり、現れ逃げた無限増殖に驚いたようだ。それに僕と同じように思えたみたいだ――ということは、これは想定外ということなのか。
それに、なんだか、僕らを見て逃げたというよりは何か別のものから必死に逃げているように見えた。
「ここにさ、他の冒険者っているのかな?」
「他ですか? そうだなあ……ここって入り口が複数あることからわかる様に色々と進む道があるんだよな。だから、誰か別の人によって驚いた、もしくは殺されそうになったからって逃げたとは考えづらいかな」
なるほど。だからさっきから僕たち以外の人とは遭遇しないのか。でもだったら、無限増殖は何に驚いて逃げたのだろう?
もしかして、僕たちと無限増殖以外に、何かいるのか?
「どうしたらいいと思う? 僕の予想では何か別の生物がこの先に居て、そいつに驚いた……もしくは殺されそうになったから、必死に逃げているように思えるけど」
「やっぱり、そう思いましたか。私も同意見です。あんな必死に何かから逃げるとこなんて初めて見ました」
うん、やはりここには何か居る。
それによって、無限増殖は逃げてきた。
だから、僕たちも一緒に逃げたほうがいいか。
「じゃあ、残念だけど、もと来た道を引き返そうよ」
「うん、仕方ないか。今回ばかりはあきらめ――」
と、僕たちも無限増殖と同じ方向に逃げようとしたとき。
遠くの方。無限増殖が来た方から、何かの叫び声――いや、唸り声に近いものが聞こえてきた。そして唸り声は密閉された迷宮内を響き渡り、そして消えた。
「今聞こえたのはいったいなんだ? 何かの唸り声?」
「――もしかして……」
ナギを見ると。
そこにはしゃがみこみ震えるナギの姿があった。何も聞こえないようにする為か、両手で耳を塞ぎこみ。何かを呟いている。
「ど、どうしたの?」
「・・・・・・」
あまりに小さい声で何を言っているのかわからない。でも、何かにおびえているようだ。謎の唸り声が聞こえてから、ナギは震えた。そんなにあの唸り声は危険なのか?
「ナギ! しっかりして! 大丈夫だよ、僕もいるし!」
と、必死にナギをなだめる僕。
すると、いくらかは恐怖から解放されたのか、ようやく耳から手をはずして、僕の方を見た。そして弱弱しくナギは言う。
「終わった……あまりにも不幸だよ……」
ナギは、世界が滅びると知ったときのような表情で言う。そして、しばらくすると、いつも通りのナギに戻った。だが、目元は濡れ、今にも死にそうな顔をしていた。
「何がやばいの? あの唸り声は何なの? 教えてよ!」
「喰 鰐。それがあいつの名前……」
「喰鰐? 名前からして、狂暴なワニってはわかるけど。そんなに危険なの?」
「うん。喰鰐はね、普通はこんな場所にいるはずがないのだよ。それこそ、迷宮、それもB級迷宮に住み着いている怪物……私たちがこの後行こうと思っていた迷宮でもE級迷宮と言えばわかるかな……」
「――それは……」
なんだか想像していたよりもとても危険な状況みたいだ。僕たちがこの後、行こうと思っていた迷宮でさえ、E級。
それなのに、B級迷宮に居るような怪物が、こんな場所に居る。明らかに在りえない事態だ。それは、まあ無限増殖が必死に逃げていくのもわかる。
でも。それなら、僕たちも早く逃げないと。
「早く逃げよう! そんなにやばいなら早くしないと!」
「……」
そんなことを言うとナギは、悲しそうな目で見てきた。そして。
「喰鰐がなんで、あんなに大きい音で唸るか、わかる?」
「……わからない」
「あいつらは、捕食対象を見つけるとね。唸るの。こいつらは俺のエサだって周りの喰鰐にアピールするためにね……だからね、私たち、もうマークされたの……」
だから、とナギは泣きながら言う。
これが最後とばかりに泣きながら。
「私たちはもう、終わりだよ……助からない……」
そして、どうすればいいのかわからなくて呆然とする僕の前に喰鰐は現れた。
大きさは普通の鰐の二倍はある。口元は赤く濡れ。手足は鋭い爪があり、歯は鋭く尖り。そして、僕たちを見て、口を大きく開けた。
そして、僕たちの方にゆっくりと近づいてくる。
その姿はまるで、怪物だった。
「時空停止」
と、僕は時を止めた。
とはいえ、僕は三分間しか止められない。だから、急ぎ行動する。まずは、喰鰐の口を糸で縛り付け、開かないようにする。後、足とかにも糸で固定する。そして、短剣で突き刺そうとするが、皮膚が固く貫けない。
仕方ないか。僕は隣で動かないナギを抱えると、怪物とは逆方向に向かい全速力で駆け抜ける。途中、先ほど逃げていた無限増殖を発見したが、その場を通り抜け、出口へと駆け抜ける。
「そろそろ、限界か。でも、このまま走る!」
僕は時空停止を解除しなかった。
それにより、体中の細胞がとてつもない痛みによって悲鳴を上げている。そして、当然ながら、僕に対しても物凄い痛みがきた。
「クソッ! 動け! 動け!」
根性論で体に鞭を振るい。全力で怪物から遠ざかる。
だが。それも長くは続かない。長い時間、時空停止をすることで、全身が許容できる痛みの限界を突破してしまったようだ。
――僕はその場で倒れ込んだ。
「がはぁっ!」
「え? これって、また?」
そして、とうとう時空停止が解除される。
それにより、時間は再び動き始める。
本日二回目となる、いつの間にか場所が変わるということを体験し、驚くナギだが、すぐ側で颯太が苦しそうに倒れ込んでいるのを見つけると。
「高速回復」
どうして、苦しそうに倒れていたのかナギは知らない。でも、痛みがあるというのなら、回復させればいい。
ナギは颯太に対して、通常以上に回復させた。
「颯太! 大丈夫?」
「ああ、おかげでなんとか」
痛みで苦しかったはずだが、気が付くと、痛みは引いていた。どうやら、ナギが回付してくれたみたいだ。本当に助かる。
でも。
「時空停止!」
僕はまたもや、時を止めた。怪物は僕たちをマーキングしている。それなら、いつまでも、こんな場所にいるわけにはいかない。
だから、再び僕らは移動する。
「はあ、はあ」
「大丈夫?」
インターンバルを開けずに、時空停止をした為か、これ以上は使えない。もし、使ったとしても、すぐに解除されてしまう。
だけど、だいぶ怪物とは距離が離れたはずだ。
「これだけ、離れれば、大丈夫だよな?」
と、息を整えつつ、僕は隣に居るナギに訪ねた。だが、ナギは絶望した顔で颯太に告げる。
「無理かもしれない。だって、あれ」
「あれ?」
ナギが指さした方向には、先ほど遭遇した怪物が居た。全身は先ほどよりも血でまみれていた。そうか。無限増殖は殺されてしまったか。
「こんなに早いのか」
想定外。
その文字が僕の脳裏によぎった。まさか、ここまで移動が速いとは思いもしなかった。確か、通常の鰐は水中ではそれなりに、動けるが地上ではそこまで早くなかったはずだ。ということは、やはりそこは怪物だということか。
「こいつに弱点はないかな?」
「無いと思う。今まで。上級迷宮攻略者の話は聞いたことがあるけど、こいつの殺し方は無かった。それこそ、私たちみたいな初心者に倒せるような怪物では無く、もっと強い人が相手にするようなレベルだよ」
だから、とナギは言う。それは本当に心の底から。
「私たちごときでさ、殺せるはずがないんだよ……」
「……そうかもしれない。でもさ――」
僕は、襲いかかってくる喰鰐を金属糸で足止めをしながら、ナギの方を向き言う。
「僕は諦めないよ。例え、勝てる要素が0だとしてもね」
「――なんで? 何がそこまでさせるの?」
ナギは本当に不思議そうに尋ねてきた。なんで、戦おうという気になれるのかという表情をしながら。
確かに僕も同意見だ。こいつは強い。それこそ、僕らみたいな初心者が勝てるような相手ではない。
「でも、僕は諦めないよ」
「なん……で?」
なんでか。
僕ですら良くわかっていない。ほんと、なんでこんなに格好つけているのかな。女の子の前だからか? それとも、僕自身が強いと己惚れているからか。
――そのどちらでもないな。
「君が僕に似ていた。それが理由かな。なんだか、馬鹿かと思うかもしれないけどね」
「え?」
「君は僕の境遇と似ているんだ。知らない人から、能力目当てで近づかれて、そして利用されそうになる。それに同感したんだ――僕もそうだったから」
だから、君を助けるために、怪物と戦う。
――と、言おうとしたところで。
「ッグラアアッ」
怪物に取り付けていた、糸が外されたのか、怪物が大きく口を開け。怒り狂っていた。
あの金属糸を食いちぎるなんて、とんでもない力だ。
「やっぱり、無理だよ!」
「それはどうかな」
僕は諦めない。それこそ、手足が食い千切られても、命がある限り、立ち向かう。それが僕の志だから。
「ワイヤー・ロック」
僕は周囲に散らばせた金属糸を操る。それはとても難しいことだが、僕なら出来るはずだ。糸は意識を持つ。糸は生きている。だから、僕は糸の力を引きずり出す。
それが、僕の新しい能力。
曲弦師。
この力がどんな力を秘めているのかはわからない。でも、追ってから逃げるときに使ったとき。怪物を足止めするとき。
糸は、僕の思うままに作用した。それが、僕の新能力だというのなら。今この瞬間。怪物を締め殺すことも不可能では無いはずだ。
「ワイヤ・クロック」
そして、僕の周りに散らばる糸たちは、各部分が意識を持ち、強調しながら動き始める。それはまるで生物のごとく。
「グラァウンン」
なんだ、その叫び声は。
思わず、おかしくて笑ってしまう。先ほどまで僕たちを殺そうとしたくせに、死にそうだと悟った途端に恐れたか。
喰鰐は急ぎ、僕から逃げていこうとする。だけど、それはさせない。
こいつは僕の敵だ。ナギに危害を加えるモノだ。だから逃がさない。
「……そこは、もう僕の領域だよ……ワイヤー・カット」
そして、逃げる怪物は切れ切れとなる。
細かい破片へと変質していく。
「な、なんなの、それ? 糸を使ったの? でもそれにしては、在りえない動きをしていたよ?」
「ああ、どうやら、これが僕の新能力みたいだ。糸を操る能力。簡単に言えばそんなかんじかな」
「糸を操る? それは意のままに操れるってこと?」
「うん。糸がまるで生き物のように動き、相手を拘束、絞殺する……そんな力かな。正直な所、こんなことが出来るなんて自分が一番驚いているよ」
「――ということは、これで三つ目の能力ってことだね」
ああ、言われてみればそうだな。
時空移動、時空停止、曲弦師。
でも、時空移動は今の所使えないし、時空停止も時間制限があるから。使えるとしたら、曲弦師くらいか。
「そういえば、僕みたいに能力を複数持つ人はいるの?」
「そうですねえ、いますけど、かなり珍しいですよ。現在の最多能力者は、S級迷宮攻略者のコクトの十が最大ですね」
「十? それって多すぎだろ! と、いうことはかなりの実力者ということなのか?」
「ええ、実力では破壊神にも負けず劣らず。頭の回転も国一だと言われていますし。現時点では、迷宮攻略者の中では、一番実力がある人ですね」
そんなにすごい人が居るとは世界は広いな。
あれ? でもそうなら、なんで未だに迷宮は淘汰されないのだろうか? そんなに強い人が居るのなら、既にこの世界の迷宮は無くてもおかしくはないと思うけど。
「そんなにすごい人が居ても世界から、迷宮は消えないの?」
「ええ、残念ながら。確かに強い攻略者はいますけど、怪物も同じくいるのですよ……それこそ、一夜にして国を亡ぼす怪物とか」
一夜で滅ぼす力を持つ怪物か。
なんだか、想像もつかない。
「それってどんな怪物なんだ?」
「私も詳しくは知らないのですけどね、なんでも世界一の危険な地。『SS迷宮』に住んでいるそうです」
「SS迷宮? 僕たちが向かうところがEだから、相当レベルの高いところなのかな?」
「ええ。この世界一の実力者ですら、攻略できない不可侵地帯。それがSS迷宮です。まあ、私たちが挑むことはほぼ在りえないけどね」
はあ、なんだか自分たちが弱く思えてきた。いや、確かに弱いけど。まさか、ここまで上には上が居るとは。
「そうだ、そろそろ、ここから出る? でも、こいつはどうすればいいんだ?」
僕たちの目の前には、僕が殺した喰鰐の死体が転がっている。手足は千切れ、もはや、面影が無く、言われないと何の生物なのかわからない。
「まあ、ここから出た後に、迷宮管理の人に言えば、それで大丈夫だよ」
「そうか、じゃあ、色々とあったけど、早くここを攻略するか」
その後。
僕たちは、無限増殖を相手にしつつ、迷宮内部を攻略していく。途中、罠に引っ掛かりそうになりつつも、少しずつ前進していく。
そして迷宮に入ってから二時間半が過ぎたころ。
僕たちは迷宮を攻略した。
「はあ、なんだか思ったよりも疲れましたね」
ナギも流石に疲れたのか、近くにある椅子に倒れ込む。まあ。それもそのはずか。練習だと思っていたのに、実戦経験を積むこととなるとは思いもしないからな。
僕もナギと同じように、近くにある椅子に腰かけた。
「そうだ。喰鰐について、言わないとダメか……どこに受付はあるの?」
「ああ、あそこですよ?」
ナギが指すところには、電話機が一台置かれていた。
これで、伝わるのかなと不安に思いつつも、僕は受話器を取り、耳に当てた。
そして、番号を押すのかと本体を見てみるが、そこには何もついていない。
「あれ? これって――」
「ああ、そのまま待てばいいんだよ。しばらくしたら。係りの人が来るし」
なるほど、なんだか電話で用件を伝えるのかと思ったが、この場所に係りの人が直接来てくれるのか。
しばらく椅子に座って寛いでいると。入り口から一人の女性が入ってきた。二十代位だろうか。髪は短い。どことなく、ナギに雰囲気が似ているような気がする。
「お待たせしました……って、ナギじゃないの!? 久しぶりね」
「久しぶり。半年くらいかな」
「そうかもね」
と、ナギと女性は楽しそうに。それこそ、友達のように話し始めた。
「えーと、ナギ? その人は?」
「ああ、この人はね、私のお姉ちゃん」
「お姉ちゃん? ……初めまして。ナギとタッグを組んだ、時宮颯太です」
「初めまして、颯太君。 ナギとタッグを組むなんて、もしかして、錬金術の力目当てかしら?」
「は?」
え?
なんだか、よくわからないが。どうやら、僕のことを金目当てで近づいた屑人間だと思っているのか?
「違うよ、お姉ちゃん! 颯太はね、命がけで私を守ってくれたのよ。だから、決して、あいつらみたいな奴らではないよ!」
「あら、そうなの? じゃあ、颯太君はナギが好きだから、一緒にいるのかしら?」
「――……」
なんでそうなる!
――いや、常識的に考えると、年頃の女の子を助けて、挙句の果てに迷宮攻略者として、一緒に行動する。
確かにナギのお姉さんが言う通りかもしれない。ということは、僕はナギのことを好きだったのか? 確かに嫌いでは無い。でも、それは友達として、好きだということだ。だから、恋愛対象として好きではない。
うん、そうだ。
と、僕は結論を導き出す。
ナギとは友達だ。
「だから、もう、お姉ちゃんは黙ってよ」
「いやねえ、こんな楽しそうな話を黙るなんて無理よ」
と、しばらく考え込んでいたはずだが、未だに話は続いているようだ。ナギの顔は赤くなり、恥ずかしそうにしている。
と、まあ。
早く迷宮内の出来事を伝えたほうがいいか。
「その辺で。 それよりも、この迷宮に――」
――――――。
「この、迷宮内に喰鰐が居たとはねえ。確かに先月くらいに、この近くに喰鰐が逃げ込んできたから、討伐したけど。まさか、その生き残りがここに逃げ込んでいたとはねえ」
「そうなの。私も死ぬと思ったんだけどね、その時に、颯太が助けてくれたの。こう、ズバーンって感じで」
「うーん。そうだとするのなら、颯太君の実力はD、いやC級くらいか。思ったよりも力があるね、君!」
「いや、そんなことないですよ。あいつを殺せたのは偶然ですよ」
確かに、喰鰐は強かった。買った短剣が突き刺さらなかったのには驚いた。だから、あいつを殺せたのは運が良かっただけだ。
「そうかしら? 君はさ、もう少し自分の実力を褒めてもいいと思うわよ」
「うんうん。颯太は才能があるんだよ」
なんだか、誰かに褒められたのはずいぶんと久しぶりだ。――自分の力に自信を持つか……そんなこと言われてもな。
「――それで、これから、二人はどうするの?」
「ひとまずは、ここら周辺にある、E級迷宮に挑戦していこうと思っています」
「そう――まあ、妥当なところかもね」
「そうだ、お姉ちゃん! 討伐報酬はないの?」
「討伐報酬?」
「ああ、もちろんあるわよ。あなた方が望むものを一つだけ、贈呈するけど、なにが欲しいのかしら?」
「じゃあ、王都で開かれる、迷宮攻略者限定のトーナメントの参加権をちょうだい」
「挑戦権?」
攻略者限定のトーナメント? それはつまり、僕たちで他の人と戦闘をするってことなのかな。でも、僕はまだまだ初心者だし、どう考えても勝てないと思うのだが。
「無理! いくら私でも、そんなものは無理に決まっているでしょ!」
「えー、A級迷宮攻略者のお姉ちゃんなら、それくらい用意できないの? それに、今回は運営にも関わっているんでしょ?」
「はあ。どこから、それを……でも、いくら言っても無理ね。だって二人とも、まだまだ気弱な、初心者でしょ? あの大会は最低でもB以上じゃないと無理だから」
「ええー」
「ナギ! 頼むからその辺で勘弁してください。流石にそんなに強い人たちが出場する大会なんて出ても勝てる気がしないし! それに、今は、迷宮攻略に時間を注ぎたいんだ……」
「ええー。まあ、いいよ! わかったよ」
と、ナギは思っていたよりも素直に引いてくれた。なんだか、拍子抜けだ。もう少し、言ってきて食い下がらないと思っていたけどな。
それにしても、さっきから、ナギのお姉さんは、僕たちを見てにやけている。それに、時々『若いっていいわねえ』と笑いながら呟いているし。聞こえているから。
「――じゃあ、そろそろ本部に戻るわ。やらなくちゃいけない作業も残っているし」
「うん。バイバイ!」
「あ、そうだ。颯太君」
「はい?」
「くれぐれも、ナギのことは末永くよろしくね。ナギったら時々、ツンデレになるから」
「もぉうー、お姉ちゃんは早く帰ってよ!」
「はいはい。じゃあ、二人とも、くれぐれも、迷宮に挑戦するときは気負付けなさいよ!」
「はい」
そして、ナギのお姉さんは本部に戻って行った。
なんだか、嵐のような人だったな。
「それじゃあ、僕たちも迷宮に行こうか」
「――……」
「ナギ?」
「えっ? な、なに?」
「いや、迷宮に行こうって言ったんだけどさ」
「ああ、はい。じゃあ、さっさと行きましょうか」
何か考え事でもしていたのかな?
まあ、いいや。
僕たちは、訓練施設を後にして、迷宮へと向かっていく。
颯太について書きます。
颯太が今回使用した能力は、糸を自由自在に操る力です。
颯太が思う通りに、糸は動き、そして攻撃します。追ってから逃げるときや、怪物の足止めのときはまだ、無意識であり、自覚していませんでした。だから、今回でようやく、解放できました。
そして、ナギのお姉さん登場しました。
ランクA。
この世界の迷宮攻略者の頂点に君臨する人たちの一人です。ただ、今は前線に赴いてはおらず、事務的な仕事をしています。
迷宮攻略者ランクについては次話で書きます。




