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第2話~追手と金属糸

 喫茶店から少女を連れてから、数分後。


「もうそろそろ、いいかな……停止解除」

「――えっ!? あのこれはいったい――どうなっているの?」


 と、時間停止を解除すると、当然ながら救い出した少女が驚きながら、僕に向かって訪ねてきた。


「ああ、君が困っているように見えたし、それに助けを求められたから助けたんんだ」

「いえ、ありがとうございます。でも、どうやってここまで?」


 ああ、少女は時空停止したことには気が付いていないのか……。

 まあ、それもそのはずか。時空停止している間は僕以外は動けない――時間が停止している。

 だから、なぜ、いきなり移動したとかわからないか。


 たぶん、普段の僕なら、言わないんだろうな――だから今日の僕はどうにかしている。未来に来たから――いや、僕と同じ境遇の女の子をかわいそうに思ったからかな。

 なんだか、不思議な気分だ。


 いつもなら、助けようとはこれっぽっちも思わないのにな……あの時以来か。

 誰かを救おうとしたのは。


「僕も君と同じ……能力者なんだ、だから君を助けた」

「私と同じ……能力者……ですか?」


 戸惑っているのか、途切れ途切れだ。

 確かに、いきなり助けてもらえたと思ったら、自分と同じ能力者だと告白される。

 ――確かに、戸惑ってもなんらおかしくないな。


「僕は時空移動と時空停止が出来るんだ」

「え? ということは、もしかしていきなり、場所が変わったのは君が時を止めて、私をそこからここまで運んだからってことなの?」


 運んだって――僕は運送屋扱いか。

 まあ、確かにそうなのかな?


「……うん、そうだよ。それで君はどうする? その場の勢いで、ここまで逃げたけど行くあてはあるの?」

「それは……ないです……」

「そうか、僕と同じだね」


 うんうん。

 時空移動したあげく、なぜか力が使えなくなり元居た世界に戻れない境遇の僕と一緒だ。

 ――いや、なんだか、言葉だけ聞いていると僕の方が危険に思えてきた。暮らしたことも無い、千年後の未来で、何一つ情報もなく、家もなく、働き口もない。

 それこそ0からの再出発だ。


「はあ、なんだか僕のほうが危険なような気がしてきたよ……」

「どういうことですか?」

「それはね……僕は時空移動タイムトラベルしてこの世界に来たんだ……それも千年前の世界からね……」


 そう、千年も前の世界から僕は来たのだ。

 それこそ、僕の常識や知識が通用しないかもしれない遥か遠くの世界へと。

 しかも、後に残ったものは、ヤクザから追われるかもしれない日々。

 なんだか、僕ってよくある不幸体質なんだな。

 そんな僕をみかねたのか少女は立ち止まる。

 そして僕の方を見てニコッと笑いながら。

  


「それなら、迷宮攻略しませんか?……もしよろしければですけど……」

「迷宮攻略? それはどういうこと?」

「え? 迷宮を知らないの!? あんなに有名なのに!?」


 少女はなんでそんなことすら知らないのというような感じで、聞いてくる。

 だが、そんなこと言われても、この世界に来てからまだ一日も過ぎていないのだ。

 わからないのもしょうがないじゃないか。



「いや、さっきも言ったけど僕は君から見て過去から来ているから……」

「何言っているの? 迷宮は千年以上前からあるよ?」

「え! それはどういうこと!?」


 迷宮なんて今まで聞いたことが無いぞ!

 あるとすれば、ゲーム内くらいだ。だから、彼女が言っていることが何一つ理解できない。


「迷宮と言えば、この世界に多数存在する、人類未到達地のことですよ! 例えば、この近くだと、水延迷宮(ウォーター・プレス)とか!」

水延迷宮(ウォーター・プレス)?」

「うん。簡単に言えば、そこら中から圧縮された水が飛び出してくるの! で、ただの水ならいいのだけど、高圧力なせいか沸騰していて、とても危険なんだよ! それに怪物もたくさんいるし……」


 またもや、わからない言葉が出てきたな。

 怪物ってなんだ? 

 言葉の通り、狂暴な生物なのかな?


「迷宮ってなんだか危険に思えるんだけどさ、そこに行ったら何かいいことがあるのか? 君の話を聞いていると、害しかなさそうに思ったけど……」

「いいことですか? そうですねえ、迷宮には高値で売れるものがたくさんありますよ! だからそれを売れば、生活していくことが可能です!」

「ああ、それは確かにいいかも……でもさ、俺って何の攻撃力もないけど大丈夫かな?」


 昔から研究者から逃げるために走り続けてきたといえど、体力以外は並だ。とてもじゃないが、怪物とかに勝てる気がしない。


「それなら、拳銃とかはどうですか? これならだれでも使えますよ!」

「拳銃かぁああ……」


 そこで、研究者たちに追われていた時に、銃口を向けられて居たことを思いだし、今頃になって、恐怖心で鳥肌だ。


「拳銃は遠慮したいなあ――他には何かないのかな?」

「そうですねえ、あっ! これなんてどうですか?」


 そう言いながら少女は、手のひらから一本の糸を取り出した。

 糸は金色に光り、ミシン糸を巻き付けるボビンのようなものに巻かれていた。


「それは……糸なのかな?」

「ええ、そうですよ。いつもなら絶対に人にはあげないけど……あなたは私の命の恩人ですし、あげます!」


 ああ、そうか。

 これがヤクザの言っていた、錬金術師としての力によるものか。


「ありがとう。でもこの糸を武器には出来ないよ……」


 いくらなんでも、こんな糸で怪物とやらを殺せるとは思えない。

 もしかして、馬鹿にしているのか?

 でも、そんなことをして何か少女にメリットはあるのか?

 ――ないか。

 だったら、本当にこの糸で、戦えということ? 

 ――無茶苦茶すぎるよ。


「糸で戦うって……マンガじゃないんだからさ、無理だと思うんだけど……」

「普通ならそうだと私も思いますよ。でも君だったら、時空停止と組み合わせればかなり有効な使い方が出来るんじゃないですかね」


 少女は楽しそうに笑いながら、腕をばたつかせる。

 それは幼い子がする行為だと思うのだが。

 まあ、そんなことはいいか。

 ――それにしても、時空停止と組み合わせる?


「それって、つまりはそういうことか……」

「気が付きました?」

「ああ、でもこれを使えれば、かなりの攻撃力になるね」


 そうかそうか。

 なるほどな、そう言った手段があったか。

 でも、これを完璧にするにはかなり練習しないとダメだな。

 

「うん。これなら戦えるかも……それで迷宮にはどうやって行けばいいの?」

「それはですね……あっ……」


 少女はやってしまったという顔で、僕を見てくる。

 なんだろう?


「どうかした?」

「ええと、迷宮は町の外にあるのだけど、もしかしたら私たち、外に出られないかもしれない……」


 そう、俯きながら指さす方向を見てみると、そこには一枚の紙が貼られていた。

 手配書みたいだ。

 …………。


「これって俺たちのこと……だよね?」

「そうみたいです……どうやら、さっき私を捕えようとしていた奴らが、手配書を張ったみたいです」

「へーえ。手の早いことで。でもまあ、それならさっさと早くこの町から出たほうがいいね」

「そうですね……」


 あれ、どうしたのだろう?

 なんだが、これまでで一番落ち込んでいるように思える。


「あの、話していないからわからないと思うので、一応言っときますが、手配書されたら、この町から逃げることは出来ないです……」

「え!どうして?」

「この町から外に出る方法は、町唯一の正門からしかないです。でもそこは、厳重な警備態勢でして、とてもじゃありませんが、その眼を潜り抜けるのは不可能に近いです」

「つまりは、カゴの中の鳥状態ってわけか。でも、それなら、時空停止すれば通れないかな?」

「え?」

「いや、だからさ、いくら厳重な警備といっても、時間を止めれば、警備なんてないのと同じだと思ってさ」


 うん、そうだよ。

 なんだか、あまりに困り果てるから俺まで焦ったけど、時空停止を使えば何も問題ないよな?



「じゃあ、早くこの町から逃げよう――そう言えば自己紹介がまだだったね。俺は時宮颯太……それで君は?」

「……私は雨川(あめかわ)ナギと言います。これからよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく!」


 颯太とナギ、2人はその場から走り出し、町の正門へと向かっていく。

 途中、住民から怪しまれそうにはなったがその度、時空停止をしてやり過ごした。


「そういえば、俺の時空停止はさ、ずっと使えないんだよね!」

「え! そうなの?」

「うん。最大で3分まで、そして使った後は1分のインターバルが必要なんだ!」

「……私も錬金術師なんて巷では言われているけど、そこまで立派ではないの。だって、私が出来ることと言えば、颯太にあげた糸が限界なんだよ」

「そう?あれでも十分凄いと思ったけど?」


 あれだけでも、売るとなればかなりの額に届くはずだ。だから、何もそこまで落ち込まなくてもいいと思うけどな。


「それにさ、僕は君が錬金術師だからって、一緒に行動しているわけではないんだよ。どちらかと言えば、僕と同じ境遇に立っている美少女を救いたと思ったからだし……」

「ありがとう、颯太くん」


 別にお礼を言われるようなことを言ったつもりはないんだけどな、でもなんだか、とてもうれしそうだ。


「……それで正門はどこにあるの?」

「あの時計台のすぐ近くですよ!」


 ナギが指さすところには、巨大な時計が埋め込まれたビルが建っていた。

 だが、どこを見ても入り口は見当たらず、それどころか窓らしきものも何一つ見つからない。


「なにあれ? 入口も窓もないんだけど?」

「あれが、正門ですよ! 入り口は近づけば勝手に生成されるので、安心して!」


 またもや、未来の科学技術に驚かされた。

 千年で日本変わりすぎだろ!


「あと、もう少しだな」


 そう、ナギに話しかけた時にそれは起きた。

 目の前から、一人の中年男性が現れたかと思うと、腰に掛けていたホルスターから拳銃を取り出すと、トリガーを引いた。


「うわぁああああっ!」

「そ、颯太! 大丈夫!」


 なんだ、いきなり胸付近に激痛がした。

 痛みを探る様に右手で胸付近をまさぐると、なんだか暖かいものを感じる。


「まったく、これだから手配書狩りは止められない。いくら殺しても何の罪にもならないのは最高だ! それにその苦しそうに呻き苦しむ顔も最高だよ、少年」



 突如現れ、俺に銃を放った男はそう言い放ち、愉快そうに笑い続ける。

 男の右手には拳銃があったが、なんだか変わった銃に見える。時々、拳銃の色は赤と青に点滅する。


「颯太! 颯太! しっかりして!」

「っ……お前は誰だ!」


 激痛で今にも気を失いそうだが、ここで倒れれば俺たちは捕まってしまう。それだけは絶対に避けないと。


「誰かってか? そうだねえ、一言で言えば、君たちの敵といったところかな? それか君たちを殺したくて殺したくてたまらない、殺戮者とでも言ったほうがいいかな?」

「つまりは、俺の敵だということか……時空停止!」


 

 ひとまずは、時空停止をした。

 これで、どうするかを考えなければならない。

 この男は急に目の前から現れた。それこそ音もなく。千年後なのだから、その方面でも科学力が発展しているのか。

 それとも、これがこいつの能力なのか?

 わからない。

 でも、一つだけわかるのは、こいつは俺たちを本気で殺そうとしている。

 だから、逃げたほうがいいだろう。


「グッ!」


 くそ!

 痛みで思うように体が動かない。どうやら、奴の攻撃で、肺に穴が開いたようだ。それで思うように呼吸が出来ない。

 せめて、ナギだけでも逃がしたい。

 でも、どうすれば。


 俺はポケットに何かないか確認する。

 すると、そこには先ほど、ナギから貰った糸があった。


 練習なしか、でもやるしかない。

 一か八か、やってやる!



「――停止解除」


 時間が再び動き始める。

 それに伴い、先ほどよりも、さらに強く激痛が走る。


「おやおや、さっさと観念したらどうですかね? まあ、命は保障しませんがねえ……くっくっ」

「颯太? 大丈夫?」


 大丈夫って?

 そんなわけないだろ。この傷だぜ、これでぴんぴんしている方がおかしいよ。

 でもまあ。


「僕を舐めるな、殺人鬼!」

「それが遺言ですかね?」


 男は首を傾げながら、さらに馬鹿にしてくる。ほんとこいつ、人を馬鹿にするのに優れているよ。でもまあ、これで最後だ。


糸操弾切(ワイヤー・ロック)


 俺は両手に括り付けた、糸を思い切り、まるでオーケストラの指揮を執るかのごとく、振り続ける。


「何をしていr…うっああああっ!」

「殺戮がお前の趣味なら僕がそれを終わらしてやるよ! 殺人鬼!」


 僕が手を動かせば動かすほど、男が苦しそうに呻く。

 それと同時に、奴の首は絞めつけられ、そしてとうとう奴はその場に倒れ込んだ。



「颯太!今のは?」

「……ああ。糸操弾接(ワイヤー・ロック)。相手の首を絞めつける技だよ……本当は殺したくなかったけどさ、流石に殺そうとしてくる奴まで手加減は出来なかったよ」

「そんなの当たり前でしょ! 颯太が死ぬなんてダメに決まっているでしょ! ちょっと待って」


 何をするつもりなのだろう?

 ナギは両手を撃たれた箇所に当てると何かを呟き始めた。


「――高速回復術(ヒーリングスピード)


「あれ、傷が治っていく?」

「大丈夫?」

「うん、痛みも消えたし、傷も無くなったし元気になったよ――でも今のって?」


 なんだか、一瞬のうちに痛みが消えちゃったんだよなあ。

 それこそ、本当に撃たれたのかと疑問に思うくらいに。


「これが私の本来の力、回復術(ヒーリング)です」

「回復術?」

「ええ、そうです。とは言っても私の回復術は他の人とは違って、とても高速で回復できるんですけどね。だから今の傷も他の人だったら、一時間はかかりますから、私が居ないところで無茶はしないでね」


 普通の人なら、一時間かかるがナギなら数秒で出来るってなんだか常人離れしているな。それこそチートだ……まあ、俺も時空移動とか時空停止とか使えるからあまり人のこと言えないけどさ。


「あれ? ということはこの世界の人は皆超能力者なの?」

「まさか、違うよ。能力者は全体の一%程度かな……でも、人によって能力は様々だし、能力の効果もそれぞれだから、誰しもが凄いってわけではないよ!」

「そうか……」


 はあ、なんだかよかったような悪かったような。

 でも、これで追っても来ないかな?


「じゃあ、さっさと町から逃げよう!」

「うん!」




 俺とナギはその後、時空停止した空間から町から逃げだすことに成功して、森の中に居た。森とは言っても、木々はそこまで多くは無い。

 だけど、なんだか落ちついて、リラックスできて気持ちがいい。


「迷宮に行く前に装備が必要かな……」


 ナギは俺の全身を見ると、そう言った。

 確かに、防具は何も持っていないし、必要かな。でもこの世界には一万円しか持ってこられなかったんだよな。

 それも、千年前のお金だ。

 使えるかな……。


「あの……俺お金持ってないんだけど……」

「ああ、それなら大丈夫! 私が払うから!」

「え! そんなの悪いよ!」

「いいって! これからペア組んで迷宮に挑戦するんだし……それに私たちなら、少し攻略すれば元は取れるよ!」

「……ありがとう。いつか必ず返すよ」


 そうして、その日、ナギと出会ってから。やっと僕たちは打ち解けることが出来たような気がする。

 そして、俺たちは武器屋へと向かった。



 颯太が作中で使用した糸操弾切(ワイヤー・ロック)とは簡単に言えば、糸を相手の首に巻き付けて締め付ける技です。今回は時空停止している間に、追手の首に巻きつけました。

 なんだか、単純すぎてかっこ悪いと思うかもしれませんが、そのうちかっよくなります……きっとね


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