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序
――さあ、名前を教えて
都会の中のある薄汚れた路地。その長い路地を真っ直ぐ進むと、小さくて少し古い、一軒の西洋造りの店が現れる。その店の古びた看板には、『気まぐれ帽子屋』と小さな文字が書かれていた。
その店は、知る人ぞ知る有名な店で、客も少なくはなく、繁盛しているらしい。
ただその店に入るには、決して破ってはならない決まりがあるとか。
「その店の店主に、本名を明かしてはならない。名を知られれば、その者は恐ろしい厄に遭うだろう」
その店を知る誰もがそう言う。だが真実を知る者は誰もいない。否、誰も存在していない。
…あなたは、この真実を信じますか?