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この小さな町に、行方不明の事件が起こったのは、めっぽう暑い夏の盛りの時だった。
「神隠しでないかい?…」
と、町の人たちは、のべつ言いあっったが、まさに、この事件の特異性を一言で言い表しているかのようだった。
というのも、行方不明になったのは、年端もゆかない、高校生の女の子であった。学校帰りの彼女は、友達と別れて間もなく、その後、家に帰ることはなかった。
ここまでは、確かに、普通の行方不明の事件かもしれない。しかし、この事件の特異な所は、目撃者がいながら、行方不明になったというところである。
目撃者というのは、そう、彼女の行方が、目の前で、消えてなくなるのを、『目にした』目撃者のことである。
「智子が前を走って、先に曲がり角を曲がったと思ったら、急に、辺りがまぶしくなって…」
そして、いなくなってしまったということだ。
まぶしくて、目を閉じていたのは、5秒ぐらい。青白い、頭がくらっとする、強烈な光だったいう。
曲がってみれば、智子はいない。影も形も無い。
目撃者の女の子は、なんだか、ぞっとして、その日は、家に帰り、夜中に、智子の両親から、いまだ帰らない智子の話を聞いたということだ。
ここで思うのは、この目撃者たる女の子が、少し頭のおかしい子ではないかとうことかもしれない。実際、事件を担当する田辺刑事も、そう考えた人の一人である。
ところが、この現代にあって、人々が、一様に、「神隠し」という古めかしく、神話的な言葉をもってきたのも、「まぶしくなって、そして友達が消えた…」という不幸な目撃者が、この女の子一人ではなかったからである。
先月から今月にかけて、あわせて12人…智子は、13人目の犠牲者だ。
平穏で静かな港町の駅は、連日、ワイドショーだの捜査だのが入り乱れ、不穏で慌しい様子にかき乱されていた。
「ちょっとよろしいですか…?」
ねずみを追い詰める猫のように駆け寄ってくる美人アナウンサーを、冷ややかな目で見て歩き去る、倉木進も、この町の住人であった。




