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第16話 はじめての分担作業



「さて、今日はちょっと別行動しましょう」


その日もいつものようにセルフィエルはアリーシャと連れ立って山の奥深くまで来ていた。祭り前ということで、ここ数日は薬草よりも動物を狩る方が主になっている。

町にある飲食店の数々が、こぞって祭り当日のために仕込みを始めているためだ。数日をかけてスープや燻製を作り置きし、当日に備えるのである。

本日の消化分は、ケナガ鳥20羽、シカイノシシ2頭、タマゴタケ30本とクレソンを一籠分だ。クレソンはすでに採り終わり、タマゴダケは半分採り終わった。残り半分は時間に余裕があったら片づけることにして、先にケナガ鳥とシカイノシシ狩りに移ることにした。

半月経ち、アリーシャもだんだんとセルフィエルを頼るようになってきていた。

祭りの前でいつもより依頼が多いということもあったが、それ以上にセルフィエルの腕を信用したのだろう。護身術程度だと言っていた彼の剣の腕前は、アリーシャの予想を遥かに上回るものだった。

今は木の下の日陰で昼休憩中である。セルフィエルはすっかり慣れたアリーシャ手作りのパンを頬張りながら尋ねた。


「それは良いけど、なんで?」


今までにアリーシャが別々に仕事をしようと言い出したことはなく、セルフィエルは些か驚いた。アリーシャもパンを咀嚼し、飲み込んでから答える。


「単純に効率の問題です。今日は少し山菜採りに時間を取られましたからね……このまま2人一緒にシカイノシシとケナガ鳥を狩りにいくより、手分けをした方が早く終わります」


至極当然の提案に思えた。だがそれ以上にセルフィエルは意外な気持ちだった。アリーシャがセルフィエルに完全に仕事の一部を任せるのは初めてだったからだ。


(……だんだんと、信頼されてきているのかな)


演技とはいえ、自分の力が認められるのは純粋に心地よいものだ。


「……そう。で、どういう分担にするの?」


アリーシャはしばし考えてから答える。


「そうですね……セインさま、シカイノシシをお願いできますか?その間にわたしはケナガ鳥を狩りますから。今ちょうど正午を回ったあたりですから……セインさまがお持ちになっている懐中時計で、短針がちょうど2を指した頃に、ここに集合でどうでしょう」


確かにセルフィエルの武器を考えると、それが妥当だった。剣は接近戦専門だ。シカイノシシを狩ることは難しくはないが、空を予測不可能は動きと速さで飛びまわるケナガ鳥を30羽射落とすのは不可能だろう。


「でも、その時間は厳しくないか?俺は……たぶん間に合うと思うけど」


シカイノシシ狩りの時間配分は、その9割が見つけることに費やされる。倒すのは残りの1割だ。初日は要領が掴めずに下手を打ったが、コツがわかれば単純な動きしかしないシカイノシシを狩るのは別段難しいことではなかった。

問題はアリーシャのケナガ鳥狩りである。ここ半月彼女の仕事を見ていたが、アリーシャもまたセルフィエルと同じく接近戦を得意としているように見えた。

力はセルフィエルに劣るが、彼女にはそれを充分に補う瞬発力と跳躍力がある。

一度近づいたらそのまま微妙に力の向きや角度を変えながら戦い続けるセルフィエルとは対照的に、アリーシャの戦い方は相手の隙を見て一足飛びに近づき、一撃を与えまた跳んで後退し、それを繰り返して徐々に致命傷を与えていくというやり方だった。

もっとも大抵の場合は、一撃で仕留めることに成功していたが。


「そうですね……」


アリーシャが空を見上げ、思案する顔を見せた。

地上での接近戦に引き換え、弓矢を使う遠隔戦での能力は自分の方がやや上だと、セルフィエルは分析していた。

何度か2人で一緒に鳥を射落としたことがあったが、命中率はセルフィエルの方がわずかに上だ。もちろん半分以上を故意に外しているので正確なところはわからないが、本気で競ったらセルフィエルが8割、アリーシャが6割といったところか。もっともこの数字は大空を縦横無尽に飛び回る標的を相手にした時の話で、おそらく純粋に動かない的を使い勝負をしたら、お互い外さずに決着がつかないに違いない。

その経験から、たった2時間で30羽を仕留めるのは難しいのではないかと思っての発言だった。

しばらく考える素振りを見せたあと、アリーシャはにっこりと微笑んでセルフィエルを見た。


「じゃあこうしましょう。セインさまの時計の短針が1を指す頃に、一度ここに戻ってきていただけますか?その頃わたしがまだ半分も落とせていなかったら、手伝ってください。シカイノシシの方は……そうですね、正直なところ、セインさまなら1時間もあれば2頭狩ることも可能かもしれません。会ったときの成果によってその後の行動を決めましょう」


1時間もいらない、とセルフィエルは思った。おそらく本気を出せば、30分で済む。

まあ早く終われば適当に時間を潰したあと、アリーシャを探して合流すればいい。


「ん、了解。心配だけど、俺はお手伝いだしね、大人しく従うけど。気をつけてね」


心配そうな眼差しを向けてみる。

アリーシャは嬉しそうな笑みを返した。


「だいじょうぶですよ、セインさまがいなかったときは全部一人でやっていたんですから。気遣って下さってありがとうございます」


「うん……あ、アリーシャは時計持ってないけど時間わかるの?」


「太陽の位置でわかりますから、心配しないでください。じゃあ、1時間後にここで」


そう言うと、アリーシャはケナガ鳥の群集が現れる場所に向かって森の中に消えていった。




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