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大地の歌を奏でる者たち  作者: 日高明人
第一楽章 召喚
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第六話 奏者の旅立ち

曇天模様につつまれた空からは、時折雲間から陽光が射し込んできている。

時間は朝早く、神殿の周囲には人の気配は少なく、鳥の鳴き声が遠く空から聞こえてもいた。


黒髪の青年は灰色の旅装束と長衣に身を包んで鳴き声の方を見上げ、

隣には長衣の下に鎧を着込んだ若草色の男と、白い装束の上に長衣を着込んだ橙の少女。

エオリアとセリアは互いの荷物の確認に余念がない。


「セリア、地図と通行証は忘れていないな?」

「エオリアこそ狩り道具とか置いてきたりしていないよね?」

「念のためもう一度ここで確認するか、アルトおまえも見ておいてくれ」

「え? あ、ああ」

「も〜う、なにをぼーっとしてるのかな〜」


遠くの鳥へと意識を飛ばしていたため、名を呼ばれた青年は鈍い反応を返して振り向く。

エオリアの方へと向いたアルトの顔には日焼けと幾つかの擦り傷などがあり、

地面に置かれた革袋を手に取ろうとした腕にも擦り傷が刻まれていた。


「筆記用具と記録帳、それに通貨も入ってる。あとは……うん、大丈夫」


革袋を開き、中に入っている物をひとつひとつ手にとり確認して青年は応えた。

同じように男と少女も自分達の革袋に入っている物を確認し終えた。

そこへ、うんうん、と頷いているのは白い神官装束を着た、柔和な皺をきざんだ老人。


「三人とも荷物の忘れはないようですね」

「はい、大神官様。すぐにでも出発できます」


ブッファの言葉にエオリアは力強く頷いて答え、セリアとアルトも同様の仕草をする。

もう一度ブッファは頷き、そしてゆっくりと口を開く。


「アルト君」

「はい」


名を呼ばれた青年からははっきりとした通る声での返事。

男と少女は青年を見る。

老人は右手に持った杖で、ひとつ地面を打って音を出す。


「今日、たったいまより『賛美歌の旅』が始まります。

 奏者であるアルト君が歌を集める旅が、です」


静かに緊張した面持ちで青年は聞く。

左手首にはめられた銀の腕輪は鈍い輝きをうつし、雲間からの陽光が背中から降り注いでくる。


「君にとって異界であるこの世界、その旅はどのようなものか。

 それは楽しい出来事や嬉しい思いだけでなく、つらい思いも厳しい出来事も得るでしょう。

 ですが、これらひっくるめて貴方にとって良い旅となることを私は願っています」

「はい。俺も、俺達にとって良い旅にしたいと思っています」


青年の隣にいる男と少女も頷く。

大地に射し込んでいる陽光は白い石造りの神殿を輝かせる。


「ええ、そしてそれ以上にこの世界を楽しんでください」

「はい。たくさん楽しんできます!」


腕輪のある左腕を持ち上げ応える。

その様子に老人は一層皺を深くした笑みを抱く。


「エオリア、セリア」

「はい。大神官様」

「はい。お父さん」

「アルト君を頼みましたよ。貴方達にも良い旅になるよう願っています」

「ありがとうございます。騎士エオリア・バール、護衛の任確かに承りました」

「ありがとうお父さん。巫女セリア・オペラ、案内の任確かに承りました」

「巫女と騎士、奏者の旅路に精霊の守りがあらんことを」


丁寧な言葉を持って言葉を返す騎士と巫女、二人を満足げな表情で見て大神官は言葉を送った。

そして、青年達はそれぞれの革袋を背負い、街道へと歩き出す。

三人が向かう街道には神官装束に身を包んだ人々やこどもたち。


「アルにいちゃんたちいってらっしゃーい!」

「セリア嬢ちゃんもきぃつけてなあ!」

「エオリアしっかりやんなさいよー!」


三人に数限りない声が掛けられ、それぞれが手を振って応える。

青年は歩きながら軽く俯いたが、目の端を少し濡らした顔で前を向く。

立ち止まり、大きく口を開く。


「いってきます!」

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