第十二話 地からの帰還
夜が更けて来た頃、神殿より地の方角にある街、パストラは賑わっていた。
賑わいの中心は酒場ガイオ。
焦げ茶色の坊主頭が黒塗りのカウンター内で酒を振る舞う横、
演奏がおこなえる空間では、帽子を目深にかぶったひとりの男性が詩を謡っていた。
男性の背後には木目をみせる大型の鍵盤楽器を弾く、髪を結い上げた女性。
帽子をかぶった男性が口にしている詩は、奏者の旅をもとにした内容。
感情を込めて謡う男性の声を消してしまわないよう、鍵盤楽器を弾く音はささやかな音量。
謡われている奏者は過去の人物。
何代前かは分からない、実在したかもわからない奏者の旅を男性は謡い上げる。
酒場の人々は日々の疲れを労いあいつつ、詩に興じて杯を交わし合う。
黒塗りのカウンターには、金髪の女性と口髭を携えた中年の男性。
カウンター内にいる坊主頭は、ふたりの杯へと酒を注いでいく。
「何度聞いても良いものですな。"奏者の旅"は」
「はっはっは、会長さん。あんたぁそれ言うの何回目だよ!」
「何回でも言ってしまいますからな」
そう言うと口髭の中年は、坊主頭とともに笑い声をあげた。
中年の隣で杯を傾けていた女性が口を開く。
「ところでトロッポさん、あんたんところにも手紙が来たって?」
「おお、そうなのです。ワシにも無事試練を突破したと手紙が」
中年は懐から一通の封筒を取り出す。
すでに封を開けたため封印は破れており、内部から三枚の紙を手に取る。
封筒の送り主はアルヒト・ヤマハ。
「で、フラン。あんたのところにも来たんだって?」
「おうよ! いっちょまえに手紙を送るなんざ、うざいガキだ!」
坊主頭は笑顔で言葉を放つ。
相変わらず素直じゃないねえ、と言って手紙を読む中年を見やる女性。
「あたしにも届いたけれど、リラが読んだ方がいいだろうと思って読んでないんだ。
というかリラ宛てでもあったからねえ」
「本当にあのガキは抜け目なくて可愛げがねえなぁ!」
「フラン、そりゃどういう意味で言ってるんだい」
「そりゃそのままの意味さ!」
半目になった女性の視線を笑ってごまかす坊主頭の手前、
手紙を熱心に読んでいる中年。
カウンター横からは第二幕を謡い出す帽子をかぶった男性。
「おっ第二幕の始まりかい。あたしは第一幕よりこっちが好きなんだよね」
「ああ、おれもこっちが好きだな。なんといっても奏者の戦い! これが燃える!」
「未知の場所へと旅して、未知の獣と戦う。いいねえ、昔を思い出すねえ」
「昔か……エラも昔は大地を旅していたんだっけっか?」
「そうだよ……まあ、いまじゃ旅することもないだろうさ」
「だろうな。店も……リラちゃんもいるもんなあ」
坊主頭の言葉に、金髪の女性は杯を傾けて答える。
隣、口髭の中年は、小声で「おおっ!」「なんとっ!」「驚きっ!」とつぶやいている。
女性は傾けた杯を、肘を預けているカウンターへと置く。
「ときどき、旅に出たくもなるけど……長いことリラをほっとけないからねえ」
女性の声色は小さく影を感じさせたが、言う表情に暗さはない。
空いた杯を、水を絞った布で拭う坊主頭。
「……なあ、エラ。おまえさえ良けりゃ……」
「よしなよフラン。"おまえさえ良けりゃ"なんてあんたらしくもない」
「お、ま、え、は人の気持ちも知らんと言いやがって!」
「ははっ。……知ってても言うよ、いまのあたしは」
「……馬鹿やろうが。おまえはひとりで背負いすぎだ」
「あたしはさ……いまのままで、いいと思ってるんだよ」
「それでいいと思わねえから、おれは口出ししてんだ」
ありがと、と口にして杯をあおる女性。
隣の中年は手紙に向かって「うんうん」「頑張ったなあ」と声に出している。
女性と中年の背後を給仕姿の人物が通り過ぎていく。
「リラちゃんには……いつか話すのか?」
「……なあ、フラン。全部話す必要ってあると思うかい?」
「そんなもんおれが知るか。おまえが話したいかどうかだろ」
「そうさね……あたしは、どうしたいんだろうねえ」
「……リラちゃんは、あのガキが来てからか。なんつうか明るくなった気がするな」
女性は何も答えず、杯を傾けた。
「前はよぉ。店に顔出しにいってもおまえの後ろに引っ込んでるか、
二階の部屋にいたりしてろくに顔とか見せてくれなかったからよ」
「そりゃあんたが恐いからさ」
「あほか! こんなおれのどこが恐いんだよぉ!」
「すぐ大声張り上げるとこに決まってるじゃないか」
ぐっ、といきを詰まらせた声を出す坊主頭。
「そ、それでもよ。ここのところは、いないおまえの代わりに店番やったり、
顔出しにいっても話してくれるようになっちまってさ。
知ってるか? この酒場でもリラちゃんがちょっと評判になってんの」
「……へえ、初耳だね」
「花屋で、眼の見えない包帯巻いてる女の子が頑張ってるってな」
「……眼の、見えない、ねえ……」
そういや、そういうことにしてたねえ、と内心に思う女性。
「あのガキのせいかどうかは知らねえけどよぉ」
カウンター下から封の開いていない、中身の詰まった硝子瓶を取り出す坊主頭。
「リラちゃんもよぉ、変わろうと頑張ってるってことじゃねえのか?
親をやってるおまえが、それを知らないわけでもないだろ」
「あの子はねえ、いまだけじゃない。……ずっと頑張ってきたのさ」
そうなのか? と声にしつつ、坊主頭は手紙を読んで感涙している中年の杯へ、
封を開けたばかりの硝子瓶の中身を注ぐ。
「だからさ。あたしはあの子がやりたいと何か言うなら、それを止めるつもりはないさ」
金髪の女性は、自分の杯にも新しい液体を注がせながら、もういちど杯をあおった。
カウンター横からは"奏者の旅"の第三幕が謡われ始めていた。
● ● ●
朝日が昇り出したころ、白い石作りの輝きをもって陽光を反射する神殿。
神殿上部に設置された天窓から降り注ぐ陽光は、神殿内を反射し明るく照らす。
陽光のもと、大地の間ではひとりの人物が片膝をついて眼をとじ、たたずんでいた。
白く縦に長い帽子は人物の横に置かれており、両手を組んだ手を前に深いしわきざんだ老人。
天窓付近からは羽根を休める鳥たちのさえずり。
「……」
老人はひとり、無言でたたずみ、陽光が照らすなか静かにいた。
胸中を過ぎていくのは祈り。
(……我らが精霊よ。我らが世界よ。我らが大地よ。娘を、息子を、彼を守りたまえ……)
ただ、ただ祈りを、捧げる。
老人の閉じられた眼前には、閉じられた扉がひとつ。
陽光に照らされながらも光を反射せず、黒い扉は大地の間、中央にある。
大地の間を照らす陽光が角度を変えていく時間、老人は姿勢を崩さず祈り続けた。
「……」
無言の姿勢。
時間だけが過ぎていく。
手の組みは堅く、顔の皺は深く、祈りは一心に。
「……」
祈りつつも老人は奏者の言い伝えを思い浮かべる。
旅路でどのような危険を被ったとしても、奏者だけは必ず無事であったこと。
だが、無事なのは奏者だけであり、従者たちがどうなったかは伝えられてはいない。
奏者だけは何かしらの力で守られている、そう老人は考えていた。
奏者をこの世界へと喚ぶ何者かの意思、それが力の源ではないかと。
「……ここまでにしましょう」
祈りとは別の思惑を浮かべたことで、老人は祈りを終え帽子をかぶる。
地面に着いていた片膝を持ち上げて後ろへと振り向く。
黒い扉の正面には、大地の間への出入口がひとつ。
老人の振り向いた視線の先、立っている人物。
「おや、おはようございます。ヒルダさん」
老人が会釈すると、出入口に立つ年配の女性が頭を下げる。
女性は頭を上げると老人の隣へと歩いていく。
そして、先ほどの老人と同じ姿勢をとる。
姿勢をとる年配の女性に、ひとつ頷いて言う。
「日々のお祈り、お疲れさまですヒルダさん。
お祈りが済んだあとで結構ですので、のちほど朝食の用意、お願いいたします」
言い終えた老人は、眼を細めながら光差す天井を見上げた。
(三千年もの間、途切れることなく行われて来た奏者召喚の儀……)
直射日光をさえぎるように片手で顔を覆う老人。
(いつか、いつか終わることがあるのでしょうか……)
さえぎった手の平から、太陽をみつめる老人。
(終わるとしたら、それはいつなのでしょう……)
答えなき自問を繰り返す老人は、小さなため息をひとつ吐いた。
● ● ●
昼下がり。
パストラの街を東西につらぬく大通りを行き交う人々。
行き交う人々のなか、立ち止まって話に興じる集まりが数カ所ある。
集まりから聞こえてくる声。
「聞いたか? こないだの夜に聞こえたやつ」
「ああ、聞こえた聞こえた。なんか音楽が聞こえるなーって思ったら」
「いきなりはっきり聞こえだして、でも」
「数分するとまた小さくなっていって」
「またもはっきり聞こえるのが繰り返し」
「奏者が喚ばれたんだし、もしかして」
「間違いないだろうな。こないだのが"森の調べ"ってやつだろ」
「まさに言い伝え通りだな。いやあ聞けて幸運だなあ」
「ほんとほんと」
人だかりのひとつは花屋の近くにあり、立ち話の声は店内まで聞こえていた。
店内では草花の鉢植えに、如雨露で水をやっている目元に包帯を巻いた少女がひとり。
鉄色した如雨露を両手でかかえ、鉢植えに水をやる少女は、意識だけを話に傾けた。
(……アルトさんのこと、みんな話してる。すごいなアルトさん……)
ひとつ、またひとつと如雨露で水をやっていく少女。
しばらくすると人だかりは散って、話声も聞こえなくなった。
鉢植えに水をやりおえた少女は、壁際にあるおおきな樹木の苗を見る。
「こっちはお母さんが手入れしてるから、私は触らなくてもいいのだけど……」
小さい頃は触らせてもくれなかった草花の鉢植え。
そのことに寂しさを覚えてもいた記憶もあったが、
植物の手入れの仕方を知らない娘に対する母なりのしつけだったのだろうと少女は思う。
「一緒にお花の世話をしていてもお母さんと私では、咲き方が違う……どうしてだろう」
十となった頃、世話することを許され、同時に世話の方法も教えてくれたが、結果が母とは異なった。
苗とは違う方向に振り向き、しゃがみこむ。
しゃがみこんだ視線の先には桃色の蕾をつけた植物の鉢植えがふたつ。
並んでおかれた鉢植え。
少女の眼前、右にある鉢植えの蕾は大きく色も良い。
反対に左にある鉢植えの蕾は、右より劣る大きさ、色もつやも勝っていない。
少女は左の鉢植えを手に取り、視線の先へと持ち上げる。
「どうしたら、貴方を綺麗に咲かせてあげられるのかな……」
十を越えて母の手伝いをするようになって知ったことがふたつ。
母、エラール・カマックは大地で名の知れた、花を育てることに長けた人間だと。
訪れる人々から聞いた話では、パストラに店をかまえる以前は旅に出ていたと。
「お母さん……どんな旅をしてたんだろう」
これまで幾度も思った疑問。
だが、母の旅を知る人物はこの街にはおらず、母もまた教えてはくれない。
ただひとつ「あんたがあたしの腕にかなうようになったら教えてやるよ」と言うだけ。
その言葉を胸にしまって七年。
いまだに母の腕を越えられそうにない。
(小さい頃は外や人が怖くて、ただお花の世話をしていただけだったけれど……)
いまは違う、少女は強く、思いを得る。
思いとともに胸の内に描かれるのは黒髪の青年。
初めて会ったときに言われた言葉を思い出して、吐息する少女。
(いまよりも、もっと綺麗なお花を咲かせたい)
手に抱えた鉢植えを身体で抱いて、少女はさらに強い意思を得る。
(そしてアルトさんに、綺麗に咲いたお花を見て欲しい)
数瞬、抱きしめた鉢植えを元の位置へと戻した少女は、立ち上がり建物の奥へ。
建物奥に置かれたテーブルの上には、一通の封筒と数枚の手紙。
書かれた宛名はエラール・カマックとリラヴェル・カマック。
昨日届けられたものであり、届け主の名は、アルヒト・ヤマハ。
包帯の少女はテーブルに置かれた手紙を手に取る。
手紙には以前送られた絵よりも精密な絵が付随していた。
色鮮やかに描かれた精密な絵には三人の人と、小人が三人。
「木霊族の小人さん、可愛いなあ……私も会ってみたい」
湖の絵と同様、笑顔で描かれている三人の人物。
中央にたつ黒髪の青年の肩には琥珀色した蝶が留まっている。
以前見たときよりも日焼けした青年の顔は、引き締まっているように少女は感じた。
「アルトさん……頑張ってる。不安もあるだろうけど、前向いて頑張ってますよね」
手紙へ話しかけるように少女は声を出す。
店先の硝子戸を軽く叩く音が聞こえる。
「! はい!」
音の聞こえた方へと返事をよこして、包帯の少女は歩き出す。
自分も頑張ろう、との思いを抱いて。
● ● ●
数週間後、曇り空が濃く流れる神殿。
日光が差し込まない神殿内部は薄暗く、通路の各所ではロウソクの灯りがあった。
その神殿の出入口、縦に長い白帽子と白い衣装を身につけた老人。
曇天を見上げていた視線は、馬の蹄音が聞こえるとともに地面へと下げられていく。
老人の視線の先には、多くの草花を積んだ馬車。
煉瓦道を走る馬車は神殿そばまでくると速度をゆるめ、止まる。
馬車からは金髪の女性と、灰色の布を被った少女が降りる。
老人はふたりの姿を認めると、馬車へと歩み寄っていく。
荷台から草花を地面へとおろしているふたりに近づいたところで、老人は声をかける。
「エラールさん、リラさん、お久しぶりです」
「はい。お久しぶりです、大神官様」
「やあ、大神官様。神殿来るのも久々だからねえ」
老人はふたりの返事に笑顔で頷き返す。
「アルト君が喚ばれたときから数えて、もう三ヶ月くらいですね」
「そんなに立っちまってたかい。これは神殿内の花は全部かえないといけないねえ」
大人ひとりぶんの大きさがあるカゴを、両手で持ち上げる金髪の女性。
灰色の布を被った少女は、小さなカゴをふたつ、片手に持つ。
老人は振り返り、ふたりを連れて神殿へと歩き出した。
● ● ●
白い石作りの長机と椅子が並ぶ、同じく白い石造りの部屋。
通路の出入口とは反対に位置するところには、厨房への出入口。
年配の女性が厨房の水場に立って、洗いものをしている。
腰よりも高い位置にある台には重ねられた食器。
流し台では蛇口から水滴が一粒、一粒と垂れ落ちていく。
厨房へと近づく軽い足音。
年配の女性は出入口へと顔を向ける。
出入口には花の入ったカゴを持った包帯の少女。
「ヒルダさん、お久しぶりです」
ヒルダはひとつ頷いて、水気を切った両手を動かして見せる。
両手の動きに合わせて少女は「はい」「ええ」と答える。
「私のところにも手紙が来ていて、アルトさん無事に試練突破できたようですね」
ヒルダは笑顔で頷きを繰り返し、再度両手を様々な形に動かす。
その動きを見て少女は小さく笑みを得る。
「ふふ。セリアさんが無茶してないかの方が心配って、私も思います」
少女とともにヒルダも笑みをほころばせる。
「そういえばヒルダさん。お花の交換に来たのですけれど」
ひとつ大きく頷いた女性は、厨房の奥を指差す。
指の先には台の上に乗せられた水色の花瓶。
花瓶には黄色と赤色の花が生けられてはいたが、何本かはしおれ、枯れてもいた。
花を見た少女は悲しそうに表情を変える。
「……すっかりしおれてしまっていますね。いま交換しますね」
両手を動かして頼む意思を伝える女性。
頷いてみせた少女は花瓶へと歩み寄り、カゴから白い布を取り出す。
花瓶の横へ布を広げたのち、生けられた花を布の上へと置く。
置かれた花へ向かって少女はささやく。
「……いままでありがとう……」
カゴを同じ台の上に置いた包帯の少女は、胸前で両手を組み、花へ頭を下げる。
しばらくそうしたのち、少女は布に置いた花を布で包み、
カゴから新しい花を取り出して花瓶へと生ける。
新しく生けられた花は桃色。
花を見た年配の女性は小さく驚き、少女の横にたって両手を動かす。
手の動きを見た少女は照れた様子。
「いえ、まだお母さんにはかないません」
その言葉に女性は顔を左右にふって両手を動かす。
小さく頷く少女。
「はい。もっと頑張ろうと思います」
眼を細めて笑顔となった女性は、少女の頭をなでる。
なでられていた少女は不意の音に気づく。
女性もなでるのをやめて、天井を見上げる。
「雨……降って来ましたね」
● ● ●
「あ〜あ、降って来たねえ」
「エラールさんたちが来られる前から、風に雨のにおいが混じってましたからね」
「だろうねえ。あたしも来る途中で降られないか心配したさ」
「はっはっは、降られていたら今頃たいへんでしたでしょう」
「まあ、あたしは日頃の行いがいいからねえ」
金髪の女性と老人は、互いに顔を見て笑い合う。
互いの手には再会を祝した杯が握られていた。
● ● ●
雨音が止まない神殿のなか。
「ここで最後……かな?」
新しい花の入ったかごを持った包帯の少女は、神殿住居部分にある部屋の扉を開く。
部屋には何日も人の気配がなく、しかし掃除されていたことで、
ほこりや汚れとは無縁の状態が保たれていた。
包帯の少女は気づく。
「あ、そっかここ……アルトさんがいた部屋だ」
見覚えのある家具の配置。
壁には吊るされた白い服と黒いズボン。
寝台横にある花瓶には、三ヶ月ぐらい前に少女が生け直した四色の花。
カゴを両手で下げた少女は、扉そばに立って室内を見回す。
こもった雨音が聞こえる、閉じられた窓。
少女は手に持っていたカゴを寝台へとのせて、窓へと近づく。
外側へと両開きとなっている窓。
包帯の少女が鍵を外して軽く押せば、窓はゆっくりと開いていく。
開いた窓からは湿気混じりの空気。
乾いた室内の空気と混ざり合い、少女の身体を通りすぎていく。
身体で空気を味わった少女は、まどの外を見る。
雨はすでに小雨へと変わり、遠くの空では雲間から日差しがあった。
雲の動きとともに日差しは場所を変えては照らしていく。
日差しが照らす先には煉瓦道。
少女の目の前では小雨が止みつつあった。
小雨ではなく神殿に通じる煉瓦道を見つめる少女。
日差しが照り、途切れ、照っていく道には人影。
少女は見つめている。
小雨が止む。
日差しが少女の顔へとかかる。
道の上では誰かに手を振る人影。
少女は手を振り、部屋の扉へ歩む。
少女は神殿の通路を歩く。
歩きは、小走りとなり、やがて走り出す。
出入口にたどりつき、階段を走り降りる。
煉瓦道を歩く足音へと少女は近づく。
道を歩いていた人影は足を止めて少女を見る。
息を整える包帯の少女。
息を落ち着かせた少女は顔を上げる。
目の前には黒髪の青年。
青年はひとつの言葉を少女へと掛けた。
少女は満面の笑みと声を持って言葉に応えた。
「おかえりなさいアルトさん!」