第九話:地元の既視感と、天狐様の「勘違い」加護
第九話:地元の既視感と、天狐様の「勘違い」加護
神社の再建が順調に進むにつれ、面白くないのは古くからこの地を牛耳ってきた宗教団体『地母神の慈愛』だった。
彼らは「邪教が村をたぶらかしている」と難癖をつけ、ガタイのいい修道士たちを引き連れて境内に乗り込んできた。
「おい、そこの不届き者! 許可なくこんなケバケバしい社を建ておって。直ちに解体し、地母神様に懺悔の寄付を捧げよ!」
リーダー格の男が、ショータが丹精込めて塗り直した鳥居を蹴りつける。
コンが「ひいいっ! 乱暴なのは嫌いだ! ショータ、隠れるぞ!」
といつものように背後にしがみつく。だが、ふと彼女はショータの横顔を見て、ニヤリと不敵に笑った。
「……ふふん、よいぞショータ。怯えることはない。最近の貴様の驚異的な働き、そして今の迷いのない目……。それは間違いなく、我が授けた『天狐の加護』が馴染んできた証拠! 貴様、ついにやる気になったのだな! 我に感謝して、この者たちを卒なく追い払うがよい!」
コンはふんぞり返り、ふさふさの尻尾を自慢げに揺らした。ショータは手に持っていた刷毛を置き、冷めた目で彼女を振り返る。
「……お前、いい気になりすぎだろ。加護のおかげじゃなくて、俺が『飽きる前』に形にしたいだけだよ。それと、その『やる気』って言葉、ブラック企業の朝礼みたいで反吐が出るから二度と使うな。ツッコミどころしかねーよ、そのドヤ顔」
「な、なんだと!? 我はこれでも必死に(ひっしゅに)貴様を応援しておるのに!」
「また噛んだな」
ショータはため息をつき、修道士たちの前へ歩み出た。
相手は五人。全員が棍棒やメイスを手にしている。ショータは現世での営業で培った「クレーマーの心理分析」を起動した。
(……先頭の男は、後ろの仲間に良いところを見せようと肩に力が入ってる。右足の踏み込みが甘い。美術部で学んだ『重心のバランス』からすれば、突けば一瞬で崩れるな)
「……地母神の教えには『他者の家を蹴る』という型もあるんですか? それとも、ただの個人的なマナー違反ですか?」
「黙れ! 異端者が!」
先頭の男が棍棒を振り下ろす。ショータは最小限の動きでそれをかわすと、空手で鍛えた手刀を、男の肘の関節……「テニスの肘の痛み」を知る彼にしかわからない急所へ、卒なく叩き込んだ。
「あがっ!?」
男の手から棒が落ちる。ショータはそのまま相手の懐に潜り込み、営業で鍛えた「相手を逃がさない距離感」を維持しながら、顎を軽く掌底で突き上げた。
「――お引き取りを。これ以上は『営業妨害』として、帝都のバド様に報告させていただきますよ?」
ショータの冷徹な眼光と、一瞬でリーダーを無力化した技。修道士たちは「ひ、ひぃぃ!」と腰を抜かし、逃げるように去っていった。
「……ふぅ。これで今日のノルマは終了か」
「さすがは我が勇者! まさに天狐の加護の賜物……あ、いてっ! なぜデコピンをするのだ!」
「お前のその『いい気になりがちな性格』を矯正する加護だよ。……さあ、仕事に戻るぞ。屋根の瓦、あと五十枚だ」
ショータは再び刷毛を手に取った。
卒なく、しかし着実に。
彼の「異世界リフォーム」を邪魔する者は、神も人も、もう存在しなかった。




