第八話:勘違いの姫君と、天狐様の「神降ろし」演出
第八話:勘違いの姫君と、天狐様の「神降ろし」演出
王都のお墨付きを得た社に、今度はとんでもない「上客」が舞い込んだ。
豪奢な騎士団を従え、白馬に乗って現れたのは、隣国の第一王女アリア・フォン・エストレア。彼女は馬を降りるなり、修繕中の拝殿の前で跪いた。
「お会いしとうございました、『蒼天の聖者』様! あなた様が一本の枝で凶悪な魔物を屠り、言葉一つで強欲な役人を改心させたという噂、我が国まで届いております!」
キラキラと目を輝かせる姫君。ショータは片手に金槌を持ったまま、頬を掻いた。
(……聖者? 尾ひれがつきすぎて、もはや別人のパブリシティだな。これは『ブランディング』の暴走か)
「ショータ、大変だ! 本物の王族だぞ! どうする、とりあえず肉を焼くか!?」
コンがパニックになりながら耳を倒して震える。
「落ち着けコン。こういう『高属性』の相手には、安っぽいもてなしは逆効果だ。……美術部で学んだ『空間演出』と、軽音部での『舞台度胸』を合わせるぞ。おいコン、お前の出番だ」
「えっ、我か!?」
「いいか、俺はただの管理人だ。聖者は『お前』なんだよ。今から言う通りに動け。これは『イベント・マーケティング』だ」
ショータは即座に指示を出した。
まず、拝殿の奥に、美術部で調合した「光を反射する鉱石の粉」を撒く。次に、村から集めた香草を焚き、幻想的な煙を漂わせる。
そしてショータは、かつて軽音部で学んだ「スポットライトの当て方」を応用し、夕陽がちょうどコンの背後に落ちる位置へ彼女を立たせた。
「さあ、アリア様。我が社の御神体……天狐様のお目通りです」
ショータが重々しく扉を開く。
そこには、逆光を背負い、ふさふさの尻尾を優雅に揺らしたコンがいた。ショータの指示通り、彼女は一言も発さず、ただ慈愛に満ちた(ように見える)微笑を浮かべている。
「……ああ、なんと神々しい。これこそ真の神の使い……!」
アリア姫は感極まり、涙を流して伏した。
そこへショータが、営業マン時代の「クロージング」のトーンで囁く。
「姫君。天狐様は、貴国の安寧を願っておられます。ですが、そのためにはこの社が『両国の友好の楔』として完成せねばなりません。……わかりますね?」
「もちろんです! 我がエストレア王国の名において、最高の石材と、宮廷絵師を派遣することを約束いたしましょう!」
交渉成立。ショータは心の中でガッツポーズを作った。
姫一行が満足げに去った後、コンはへなへなと座り込んだ。
「ひ、酷い目にあったぞ……。一歩も動くな、瞬きも最小限にしろだなんて。足が痺れて死ぬかと思ったわ!」
「でも、これで隣国からの資材提供も『契約完了』だ。お前のその残念な中身さえバレなきゃ、完璧なブランディングだよ」
「残念とはなんだ! 我はこれでも必死に……あ! また噛んだ! 今の『必死に』を『ひっしゅに』と言ってしまった!」
ショータは溜息をつきながら、再び金槌を握る。
卒なく、しかし着実に。
「飽き性」の天才がプロデュースする神社は、今や一地方の社を越え、国際的な「パワースポット」へと変貌を遂げようとしていた。




