第七十九話:千本鳥居の再会と、お茶飲みの「辞職願」
第七十九話:千本鳥居の再会と、お茶飲みの「辞職願」
「……本当に、、健在ではないか。ベルゼの奴、よくもあんな大嘘を……」
アポ無しで天狐の社へと足を踏み入れたルシファーは、眼前に広がる黄金の輝きと活気に、深く肩を落とした。
千本鳥居をくぐるたびに、正一位の浄化バフが彼の淀んだ魔力を「卒なく」洗い流していく。それが今の彼には、自分の不明さを突きつけられているようで、余計に堪えた。
悩み事に没頭し、うつむき加減で参道を歩いていた、その時。
「おっと……。失礼、怪我はないか?」
「あ、いや、こちらこそ申し訳な……――ッ!?」
肩がぶつかった相手と顔を見合わせた瞬間、二人の時間が止まった。
そこにいたのは、作務衣に身を包み、竹箒を手にした清掃員Lv.1のベリさん。
「「あぁーーッ!!」」
境内の隅、木漏れ日が差し込むベンチ。
ベリさんは手慣れた手つきで、大介から届いた現世の『高級緑茶』をコップに注ぎ、ルシファーに差し出した。
「……飲め。ここの水と茶葉は、魔界の泥水とは格が違うぞ」
「……。かたじけない」
ルシファーは震える手でお茶を受け取り、一気に飲み干した。喉を潤す清涼感が、張り詰めていた彼の心を少しずつ解きほぐしていく。
それからルシファーは、堰を切ったように語り出した。エストレアでの敗北、円卓での告白、ベルゼと九尾の隠蔽、そして魔王のあの「面白い」という一言……。
ベリさんは「うん、うん」と、かつての四天王とは思えないほど穏やかな相槌で、同期の愚痴をすべて受け止めた。
「……なぁ、ベリアル。私は、もう疲れたのだ。理想だの誇りだのと言っていた自分が馬鹿らしくなった。……魔王軍、辞めたい……」
ついに口から零れ落ちた、ルシファーの本音。
ベリさんは空になったコップを回収し、ニヤリと不敵に笑った。
「なら、ここで働いてみるか? ちょうど『警備部門のマネジメント』に空きがあるんだ。……俺がプロデューサーに口を利いてやるよ」
「……貴様に、そんな権限があるのか?」
「権限はない。だが、あの男――ショータ殿は、お前のような『使い勝手のいいエリート』が大好物だからな。……卒なく(そつなく)決まるはずだぞ」
「自らの足」でホワイトな職場に辿り着いたルシファー。
魔王軍最強の機動力(翼)が、今、天狐の社の「物流・警備・空輸」の柱として、新たな雇用契約を結ぼうとしていた。




