第七十七話:新四天王の「退職願」と、清掃員の予感
第七十七話:新四天王の「退職願」と、清掃員の予感
「……何なのだ、この組織は。……これが、我が憧れた魔王軍の『高み』だというのか?」
不夜城の冷たい廊下を、ルシファーは独り、右翼を引きずりながら歩いていた。
魔王のあの「面白い」という一言。不正を正そうとした熱意も、三ヶ月の軍略も、すべてが「余興」として等しく無に帰された。不正を隠蔽した上司がのうのうと居座り、命懸けで戦った新人が報われない。現世で言うところの、典型的な「ブラック組織の構造的欠陥」が、そこにはあった。
「もっと、こう……あるだろう? 頑張りを認めてくれる上役や、背中を預け合い、勝利を分かち合う熱い絆が……! なんだこれは、ただの『新人いびり』ではないかッ!」
ルシファーの脳裏に、かつて共に研鑽を積んだ同期――ベリアルの顔が浮かぶ。
あいつも、この組織の闇(ガバナンスの欠如)に絶望して、あんな無謀な自爆特攻(という名の退職)を選んだのだろうか。奴の冷めた瞳の奥にあったのは、絶望ではなく、この「虚無」からの解放だったのではないか。
「……ベリアル。貴様は今、どこで何をしている。……まさか、私よりも先に『正解』を見つけていたのか?」
その頃。遠く離れた天狐の社の参道。
一万年に一人の美形清掃員、ベリさんは、卒なく(そつなく)落ち葉を掃き集めていた。
「――クシュンッ!!」
突然のくしゃみに、周囲の女性ファンたちが「風邪ですか!?」「今すぐ私のコートを!」と色めき立つ。
ベリさんは「……いえ、大丈夫です。少し、嫌な予感がしただけですので」と、いつものクールな対応で彼女たちを制した。
彼は千本鳥居の向こう、魔王城の方角を見据え、微かに眉をひそめる。
(……誰かが私の噂をしているな。……それも、かつての私と同じ、救いようのない『真面目すぎる毒』に侵された者の気配だ)
拝殿の影でノートPCを叩いていたショータが、ベリさんの様子を見てニヤリと笑った。
「どうした、ベリさん。……そろそろ、お前の『同期』も、うちの求人広告に引っかかる頃か?」
「……ショータ殿。……貴方のプロデュース力は、悪魔を働かせるだけでは飽き足りないのですか?」
「魔王軍の若手ホープ」の離職率までコントロールし始めたショータ。
ルシファーの抱いた「理想」と「虚無」。それが天狐の社の「ホワイトな洗礼」と出会う時、魔王軍の戦力バランスは、根本から崩壊しようとしていた。




