第七話:異世界接待術と、不遜な役人の「落としどころ」
第七話:異世界接待術と、不遜な役人の「落としどころ」
神社の修繕が始まり、活気づく村に水を差す影が現れた。
豪華な馬車から降りてきたのは、帝都の宗教省から派遣されたという役人のバド。脂ぎった顔を歪め、ボロい社を指差して鼻で笑う。
「ふん、無許可の宗教活動とは嘆かわしい。この地の信仰は王都が管理する。再建を止めたくなければ、相応の『誠意』を見せてもらおうか」
あからさまな賄賂の要求。コンが
「ひいいっ、帝都の役人! 逆らえば社が潰される!」
とショータの背後に隠れて震える。
「……ショータ、どうするのだ? 殴り倒すか? それとも肉を差し出すか?」
「よせコン。暴力は最低のコストだ。それに、肉で釣れるほど安い相手じゃないな、あれは」
ショータは現世での「接待営業」のスイッチを入れた。
相手の靴の汚れ、指先のタバコのヤニ、そして時折気にする懐中時計。解析完了。
(……成金趣味だが、実力者に媚びて今の地位に就いたタイプだ。承認欲求が強く、自分を『目利き』だと思わせたい……。よし、『イエスセット』と『権威への同調』で行こう)
「これはこれは、帝都の審美眼をお持ちの方にお越しいただけるとは。……バド様、この社の柱、何かお気づきになりませんか?」
ショータは極上の営業スマイルでバドを拝殿へと促した。
バドは怪訝な顔をしながらも、ショータの丁寧な所作に毒気を抜かれ、柱に目を向ける。
「……ほう。この継ぎ目、ただの木材ではないな? 妙に……収まりが良い」
「さすがです。美術部……失礼、古の建築法に則り、釘を一本も使わぬ『木組み』で再現しております。これほどの技法を解る方は、帝都でも片手で数えるほどでしょう」
ショータは、バドの知識を「最初からあったもの」として称賛する。営業の基本、相手を「その道の通」に仕立て上げるテクニックだ。
「さあ、こちらへ。帝都の激務でお疲れでしょう。この地の名産……『天狐の雫』をお試しください」
ショータは、ただの湧き水を「美術部」の色彩感覚で抽出したハーブと、「残心」のような静かな所作で提供した。
「……む。この香り、そしてこの持て成し。貴様、ただの管理人ではないな?」
「滅相もございません。私はただ、バド様のような高潔な方に、この社の『価値』を正しく評価していただきたいだけです」
ショータは、バドが「自分がこの社を認めた」という事実が、彼自身の格を上げると錯覚させるよう話を誘導する。
一時間後。バドは満足げに鼻を鳴らし、当初の「取り潰し」など忘れた様子で書類に判を押した。
「よかろう。この社は帝都直轄の『特別保護指定』として登録してやる。今後、不当な妨害があれば私を通せ」
「ありがたき幸せ。バド様の広き御心、末代まで語り継ぎましょう」
馬車が去っていくのを見送り、コンが呆然と呟く。
「……ショータ。貴様、今度は詐欺師になったのか? あの嫌味な役人が、最後は親友のような顔をしておったぞ」
「ただの『落としどころ』を作ってやっただけだよ。相手に花を持たせて、こっちは実利を取る。営業の基本だ」
ショータは十手を腰に差し直し、再び修繕の指示を出し始めた。
卒なく、しかし着実に。帝都の「お墨付き」まで手に入れたショータの勢いは、もう誰にも止められなかった。




