第六話:クレーマー対応と、聖木の伐採許可
第六話:クレーマー対応と、聖木の伐採許可
「……断る。どこの馬の骨とも知れん若造に、神域の木を渡せるか。とっとと失せろ」
村の北端、聖木の森の入り口に立つ丸太小屋。そこに住む偏屈な老キコリ、バッシュは、ショータが差し出した「聖なる狼肉」を一瞥もせず、斧を研ぎ直した。
「ほ、ほうら見ろショータ! 営業スマイルが通用しない相手もおるのだ! 帰ろう、怖いし斧が鋭すぎる!」
コンが情けなくショータの背後に隠れて震える。
「落ち着けコン。これは『拒絶』じゃない。ただの『スクリーニング(選別)』だ。相手が何を大事にしているか、そこを突けばいい」
ショータは現世でのクレーム対応と「後の先」の呼吸を合わせた。
彼はバッシュの研いでいる斧の「音」を解析する。
(……キィィ、と高い音が混じってる。刃こぼれを無理に研いで、重心が狂ってるな。美術部で彫刻刀を研いだ感触を知る俺には丸見えだ)
「……いい斧ですね。ただ、その研ぎ方だと、あと三本も倒せば柄にヒビが入りますよ。右に重心が寄りすぎている」
「……あ? 何を抜かしやがる」
バッシュが顔を上げた。その目は険しいが、ショータは一歩も引かずに営業マンの沈黙を保つ。
「あんた、腰を痛めてるだろ。斧が弾かれるのを力でねじ伏せてるからだ。……ちょっと貸して。三分で直してやるよ」
「ふん、できるもんならやってみろ」
鼻で笑って投げ渡された斧。ショータは即座に【器用の極致】を起動した。
鍛えた手首の返し、美術部で覚えた金属の光沢の読み取り、そして営業で培った「相手の期待を上回る成果物」の提供。
――シャッ、シャッ、シャッ……。
無駄のない動きで石を走らせ、数分後。ショータが差し出した斧は、鏡のように磨き上げられ、吸い付くようなバランスに仕上がっていた。
「……なっ!? 切れ味どころか、重さを感じねぇ……。貴様、何者だ?」
「ただの神社の管理人ですよ。……バッシュさん、あんたはこの森を愛してる。だから、質の低い仕事で木を傷つけたくないはずだ」
ショータは、相手のプライドを肯定する営業テクニックを繰り出した。
「俺たちが再建する社には、あんたの最高の仕事が必要なんです。木材を分けてくれ。その代わり、あんたの道具は俺が全部、完璧にメンテナンスする。……悪くない契約でしょ?」
「……ハッ。口の減らねぇガキだ。だが、この斧の礼だ。それに神域の木材も神様の社に使われるとなると喜んでくれるだろうよ。好きなだけ持っていけ」
バッシュが不器用な笑みを浮かべた。
コンは呆然と、ショータの横顔を見上げていた。
「ショータ……貴様、本当に何者なのだ? 斧まで研げるとは……」
「ギターの弦高調整も、武器の手入れも、本質は一緒だよ。……さあコン、次は運搬だ。村の人足たちを呼んでくる。さっきの営業の続きだな」
卒なく、しかし着実に。
ショータの「異世界リフォーム」は、ついに建築のフェーズへと突入した。




