第五話:異世界飛び込み営業 〜信仰心、契約いただけますか?〜
第五話:異世界飛び込み営業 〜信仰心、契約いただけますか?〜
「よし、コン。資材調達の前に、まずは『顧客』の確保だ」
「こ、こきゃく? 信仰に客もクソもあるか! 畏れ多くも神への祈りなのだぞ!」
ボロ社の境内に積み上がった「串刺し狼肉」を、手際よく野草の葉で包みながら、ショータは現世のトップ営業マンの顔になっていた。
神社再建には金も人手も要る。それには「稲荷神社」というブランドの再構築が必要だ。
「いいか、祈りってのは『サービスへの対価』だ。まずは無料サンプルを配って、信頼を勝ち取る。これが鉄則だぞ」
ショータは肉の包みを背負い、山を降りて麓の「カナリア村」へと向かった。村の中へ入れば、ショータの独壇場だ。一軒一軒、自宅訪問のテクニックを駆使して回る。相手を威圧しない角度で立ち、住民の喋り方に合わせる「ミラーリング」で懐に入り込む。
「奥さん、その腰の痛み……もしかして、家の南側に不吉な気が溜まっていませんか?」
ショータが、美術部で培った観察眼で老婆の歩き方の癖を見抜き、営業スマイルで語りかける。すると、背後からコンが小声で服の裾を引っ張ってきた。
「おい、ショータ。……変な宗教勧誘みたいにするな! 傍から見てるとめちゃくちゃ怪しいぞ! 呪霊がどうとか、壺を売るとか言い出さないだろうな!?」
「しっ、黙ってろ。これは『コールド・リーディング』だ。相手の悩みを感じ取って、信頼の土台を作るんだよ。壺じゃなくて、信仰(契約)を売るんだ」
ショータはコンのツッコミを軽く流し、老婆の手を優しく取った。
「ちょうど今、山の上の『天狐の社』の再建記念で、無料のお清めをやってましてね。この『聖なる狼肉』を食べて、少しお祈りするだけで、気が循環しますよ」
「まあ、親切な若者だねぇ……」
老婆が感激して肉を受け取る。返報性の原理――タダで何かを貰うと、お返しをせずにはいられない心理だ。
数時間後、村の広場には「山の上に凄い霊能者が現れた」という噂が広まり、行列ができていた。
「な、なんなのだ貴様は……! 我が数百年かけても集められなかった信仰を、わずか半日で……!」
コンが震えながらショータの背後で呟く。
「コン、これが『営業』だよ。……さて、そろそろ『本契約』の話に移るか。村長、神社の修繕に使う木材と人手、融通してもらえますよね?」
ショータの目は、すでに村の背後にそびえる「聖木の森」を見据えていた。
卒なくこなす彼にとって、神様を売るのも、浄水器を売るのも、本質は変わらなかった。




