第四十四話:災厄の胎動と、緊急事態宣言(オーバーライド)
第四十四話:災厄の胎動と、緊急事態宣言
魔王城の上空を、異形の闇が覆い尽くした。
解き放たれた四天王最後の将、アザトース。その巨躯は城郭を凌駕し、ただ存在するだけで世界を無へと削り取る。その肩の上、冷徹な青い瞳を輝かせたローレライが、眼下の円卓(会議室)を見下ろしていた。
「……な、なんてことを! ベルゼ、あんたが煽るからローレライがキレちゃったじゃないの! 責任取りなさいよ!」
九尾が腰を抜かして叫ぶ。
「……煽ったのは貴女もでしょう。人事部長として、これほどのオーバースペックな人材……もとい、災厄の制御は不可能です」
ベルゼもまた、モノクルを落としそうなほどに震えていた。
自室の窓からは、幼体化したモリガンとヴァハ、ネヴァンが、半べそをかきながら空を見上げていた。
「……ローレライ、あんなに怒っちゃって……。もう、あのお兄さんのところで歌を歌うどころじゃないじゃない……」
モリガンが震える声で漏らす。ローレライは主君たちへ向けて一度だけ慈愛に満ちた笑みを見せると、即座に表情を凍りつかせ、天狐の社がある方角を鋭く睨みつけた。
「――すべてを、無へ」
異世界がかつてない闇に飲み込まれ、大地が悲鳴を上げて揺らぎ始める。
天狐の社では、ショータがランクアップした【異世界プロデューサー】の演算能力をフル稼働させていた。
「……チッ、最悪の『納期遅延』だな。コン、出力を最大に上げろ! 結界を維持だ!」
「分かっている! 我が社の正一位の意地を見せてやるのだ!」
コンの黄金の輝きが、押し寄せる闇の浸食を辛うじて食い止めていた。その光を頼りに、近隣の村や街から避難民が押し寄せる。ショータは現世での「災害危機管理(BCP)」のノウハウを即座に実行に移した。
「リリィ、帝都に飛べ! 手続き(事務)は後回しだ、帝国騎士団に緊急出動を要請しろ! ガイに『プロポーズの続きをしたければ今すぐ来い』と言えば伝わる!」
「了解ですぅ! 光速で行ってきますぅ!」
「アーシェはエストレアへ、キキョウはアーメリアへ! 全同盟国に『軍事相互援助条約(集団的自衛権)』を発動させる! 避難民の誘導と、社を拠点とした最終防衛ラインを構築するぞ!」
闇に覆われた世界で、たった一つ輝き続ける天狐の社。
卒なく、しかし今や「世界の命運」という最大のプロジェクトを背負ったショータ。
未曾有の絶望を前に、彼のプロデュース力は、人類全ての力を束ねる総力戦へと突入した。




