第四十二話:魔界の静かなる憤怒と、ローレライの誓い
第四十二話:魔界の静かなる憤怒と、ローレライの誓い
天狐の社での無残な敗北。ローレライは、幼女の姿まで退化し泣きじゃくるモリガンと、羞恥と疲弊に打ちひしがれたヴァハ、ネヴァンの三姉妹を戦車に乗せ、沈黙のうちに魔王城へと帰還した。
この三姉妹は、側近であるローレライが彼女たちの幼少期から手塩にかけて育て上げ、その成長を見守ってきた、愛弟子も同然の存在だった。
主君たちが自室で肩を寄せ合い、半ば幽閉に近い形で魔力の回復を待つ中、ローレライはモリガンの代理として四天王会議の円卓に座った。
「……ククク、アハハハハッ! おかしくて喉が鳴るわ! あれほど啖呵を切って出陣したモリガンが、よもや幼女に成り果てて逃げ戻るとはな!」
九尾が扇で口元を隠しながら、勝ち誇ったように笑い声を上げる。その横ではベルゼが、手元の報告書に目を落としたまま冷淡に言葉を添えた。
「人事部長としては、戦力の大幅な下方修正を認めざるを得ません。……側近の貴女が、戦場を歌のステージか何かと勘違いさせていたせいではありませんか?」
痛烈な皮肉。だが、ローレライは表情一つ変えず、長い髪をその高い魔力で揺らめかせながら、静かに二人を見据えた。
彼女の内に秘められた魔力は、実力だけで言えば四天王にも劣らない。その双眸に宿る冷徹なプレッシャーに、九尾の笑いが止まり、ベルゼのペンが止まった。
「……九尾様、ベルゼ様。モリガン様があの姿にまで追い詰められたのは、かつて魔王様から直接お叱りを受けて以来のこと。……あそこの『プロデューサー』と名乗る男、そして正一位となった天狐。あれは、貴方たちが考えている以上に、底の知れない強敵です」
ローレライの重みのある言葉に、二人は思わず顔を見合わせた。自分たちも煮え湯を飲まされた相手だ。その「底知れなさ」を一番知っているのは、自分たちであるはずだった。
「……ふん。ならば、その『強敵』とやら、次はどう料理するつもりだ?」
九尾がバツが悪そうに問いかける。
「……主人の雪辱は、このローレライが必ず。……次は、遊び(プロデュース)など通用せぬ絶望を、あの社に刻んで差し上げましょう」
魔王城の奥深く。泣きじゃくる三姉妹の声を背に、ローレライの胸中で青白い魔力の炎が静かに、しかし激しく燃え上がっていた。




