第四十一話:退化と、戦場に響く「本音」
第四十一話:退化した女神と、戦場に響く「本音」
「……よし。コン、アーシェ、バフ(強化)の重ねがけを維持しろ。リリィは後方から牽制、キキョウは逃走経路を塞げ。一気に片付けるぞ」
千本鳥居を「卒なく」駆け下りるショータ一行は、まさに完璧な布陣だった。正一位の加護を全身に纏い、霊圧は最高潮。対する広場の三姉妹は、目を疑うような惨状を呈していた。
「……えっ? お、お姉様!? なんですか、そのちんちくりんな姿はぁ!」
「魔力が底を突いて……若返るどころか、幼女まで退化しちゃってるじゃない!」
そこには、真っ赤なマントに埋もれるようにして座り込む、五歳児ほどの姿になったモリガンがいた。矛を構える力もなく、ただショータたちを涙目で睨みつけている。
傍らのヴァハとネヴァンは美しい双子の姿を保ってはいるものの、千本鳥居のデバフで魔力は枯渇寸前。戦える状態ではないのは明白だった。
「ひ、ひぃぃ! 来ないでくださいですぅ! もうこんな露出狂みたいな格好で戦うのは嫌ですぅ!」
「そうよ! 私たちは、本当はただ、三人で楽しく歌を歌いたいだけなのよぉ!」
ネヴァンの叫びに、ショータは足を止めた。
その時、広場に待機していた戦車から、一人の女性が静かに降りてきた。
水色の髪をなびかせた、モリガンの最側近ローレライである。彼女は鳥居を登っていないため、デバフの影響を一切受けていない。その圧倒的な魔力の奔流に、ショータの【器用の極致】が警報を鳴らした。
(……チッ。計算外の『高スペック』だな。ここでやり合えば、参拝客はおろか麓の村まで消し飛ぶぞ)
「……モリガン様。今日のところは、このローレライに免じてお引き取りを。……これ以上は、貴女の『誇り』が保てません」
ローレライの冷徹な、しかし慈悲深い言葉に、幼子となったモリガンは「うぅ……」と唸りながら俯いた。
ショータは一歩前に出ると、視線を落として幼体モリガンに問いかけた。
「……おい、モリガン。お前、その矛を振り回して、本当にやりたいことが『破壊』なのか? 妹たちの言う通り、本当は別の事がしたいんじゃないのか?」
「……う、うた……。みんなで、うたを、うたいたかった……」
幼い声が、消え入りそうに響く。
「……だったら、その矛を捨ててマイクを持て。破壊の女神じゃなくて、平和の歌姫として、俺が『卒なく』プロデュースしてやるよ。……次に来る時は、軍隊じゃなくて『デモテープ』を持ってこい」
ショータの「新人アーティストへのスカウト(営業)」。
ローレライは、その言葉を興味深げに聞き届けると、幼いモリガンを抱きかかえ、戦車へと乗り込んだ。
「……プロデューサー、ショータ。面白い方だ。……さらばです」
卒なく、しかし今や「魔王軍の武闘派」を更生させる予感に満ちて。
嵐の去った社の麓に、次は「戦火」ではなく「歌声」が響く日が来ることを、ショータは確信していた。




