第三十九話:赤きマントの狂騒曲(ラプソディ)
第三十九話:赤きマントの狂騒曲
夕暮れ時の天狐の社。朱に染まる千本鳥居の麓に、猛々しい蹄の音が響き渡った。
現れたのは、禍々しい装飾が施された馬の戦車。御者台から飛び降りたのは、燃えるような真っ赤なマントを翻す絶世の美女(実は老女)、四天王次席のモリガンである。
「ここか……。我が軍の威信を汚し続ける、不届きな狐の巣窟は!」
モリガンの両手には、鈍い光を放つ二本の矛。怒りに血走った目で参道を見据える彼女の横で、妹のヴァハとネヴァンが深々とため息をついた。
二人が纏わされているのは、姉の趣味全開の「露出度の高すぎる戦闘装束」。山を登る夕風に晒される肌の寒さよりも、行き交う参拝客の視線の痛さに、二人は顔を真っ赤にしてうつむいている。
「ね、姉様……。この格好、やはり公開処刑に近い気がします。恥ずかしすぎて死んでしまいそうです……」
「黙れ! これは魔王軍の『威圧』だと言っているだろう! 登るぞ!」
憤怒の形相で千本鳥居を駆け上がるモリガンと、赤面しながらそれに従う妹たち。その異様な殺気に、まだ境内に残っていたまばらな参拝客たちは、悲鳴を上げて一斉に逃げ出した。
「おのれ天狐! 正一位を名乗る不遜な古狐よ! 直ちに出てきて、我が矛の錆となれッ!」
静まり返った境内に、モリガンの怒声が木霊する。
何事かと社殿から飛び出してきたのは、ショータを筆頭にした天狐の社のフルメンバーだった。
「……またアポなしの強行軍か。コン、お前の『正一位』の初仕事、物騒なのが来たぞ」
「ショータ! あいつ、九尾より数倍怖そうなのだ! 霊力が怒りで沸騰しているぞ!」
正一位の霊力により、一言も噛まずに凛とした声を響かせるコン。しかし、中身は相変わらずショータの背後に隠れるおとぼけモードだ。
ショータたちの前に立ちふさがったモリガンは、ニヤリと残酷な笑みを浮かべると、矛を交差させて叫んだ。
「行くぞ、妹たち! 『モリグナー』、推参ッ!」
モリガンを中心に、ヴァハとネヴァンが左右でポーズを決める。
――それは、かつて現世の昭和を席巻した三人組アイドルユニットを彷彿とさせる、絶妙に古臭いポージングだった。
センターのモリガンが片手を腰に当て、サイドの二人が膝を折って外側に手を広げる。ヴァハとネヴァンの顔は、もはやゆでダコのように真っ赤。羞恥心で指先が震え、その「伝説のアイドルポーズ」はどこか力なくガタガタと揺れていた。
「……。おい、リリィ。あっちの二人に、防寒着か何か持ってきてやれ。……見てるこっちが『共感性羞恥』で胃が痛くなる」
ショータの冷徹なツッコミ。
卒なく、しかし今や「魔王軍の時代錯誤」を目の当たりにしたショータのプロデュース眼は、この恥ずかしすぎる三姉妹をどう料理するか、既に計算を始めていた。




