第三十七話:千本鳥居の祝福と、四天王の「不戦勝」
第三十七話:千本鳥居の祝福と、四天王の「不戦勝」
「……よし。計算通り、導線は完璧だ。これより、異世界初の『ハイブリッド・ロイヤル・ウェディング』を開始する」
天狐の社へと続く山道。そこには、ショータが美術部と帝都の職人を総動員して建立した、鮮やかな朱塗りの鳥居が延々と連なっていた。一つ一つに寄進者の名が刻まれたその幻想的な光景を、いつしか参拝客たちは畏敬を込めて『千本鳥居』と呼び始めていた。
その鳥居のトンネルを、エドワード王子とパン屋の娘リサが、しっかりと手を取り合って歩んでいく。
「リサ、見てくれ。この光景を……。君を迎え入れるために、世界が祝福しているようだ」
「エドワード様……。夢みたいです。私、一生この景色を忘れません」
背後では、リリィとキキョウが「現世のイベントスタッフ」さながらに分刻みのスケジュールを捌いていた。
「キキョウさん、あちらの参拝客が感動で足止めされてますぅ! 誘導お願いしますぅ!」
「了解。……縁結びエージェントとして、一人の落脱者も出さない」
二人の完璧な連携により、数万の群衆が整然と二人の門出を見守る。
一方、そんな熱狂の渦から遠く離れた、遥か高空。
暗雲の隙間から、九尾とベルゼが社の様子を冷徹に見下ろしていた。
「……九尾。貴女が放った隠密、キキョウが戻りませんね。これは重大な職務放棄。……貴女のボーナス査定に大きく響きますよ」
ベルゼがモノクルを光らせ、淡々と手元の報告書にペンを走らせる。
「フン、やかましいわ。……それよりもベルゼ、あの敵陣の中におった、パタパタと落ち着きのない伝令……。あれは何じゃ? そなたの部下の偵察悪魔リリィによく似ておったが」
九尾の鋭い指摘に、ベルゼは一瞬ペンを止めた。
「……奇遇ですね。私も人事部長として、酷似した個体を確認しています。……九尾、これはもはや一部署の問題ではありません。我々は一度、魔王様に揃って謝罪……いや、現状報告に行くべきでしょうね。このままでは我々の立場が危うい」
「……なんですって!? この我に、あの傲慢な魔王の前で頭を下げろというの!?」
「いえ、戦略的撤退です。悪魔としては、今ここで闇を放ち式を台無しにする絶好の機会ですが……。流石の我らも、この日くらいは引いてやりますか、本当に今はそれどころではありませんし」
「……フン、勝手にしなさい。今回は、その言い分を飲んでやるわ。……あんな眩しいもの、見ていられないわ」
九尾は不貞腐れたように顔を背けると、ベルゼと共に闇の彼方へと消えていった。
式を終え、夕闇に輝く千本鳥居を眺めながら、ショータはふと空を仰いだ。
「……ったく。あいつら、偵察するならもっと『卒なく』隠れりゃいいのに、まぁ何にせよ引いてくれて良かったよ」
ショータの目は、既に「次なる事業計画」を捉えていた。
卒なく、しかし今や「神も悪魔も魅了する」巨大な奇跡を完成させたショータ。
千本の鳥居に灯された狐火は、二つの世界を結ぶ、終わらない物語の道標となっていた。




