第三十六話:皇帝の憂鬱と、ショータの「宗教ハイブリッド」提案
第三十六話:皇帝の憂鬱と、ショータの「宗教ハイブリッド」提案
エドワード王子の「天狐の社で結婚式を挙げたい」という直訴は、帝都の城内に大きな波紋を呼んでいた。
「……困った。エドワードよ、お前の気持ちはわかるが、歴代皇帝は代々『地母神の教会』で式を挙げるのが不文律。今さら他所で挙げるとなれば、教会側の反発は免れん。帝国の宗教的均衡が崩れてしまうのだ」
皇帝(お父様)は玉座で深く溜息をついた。かつては町娘リサを認めた寛大な父も、国家の根幹を支える「信仰のしがらみ」には慎重にならざるを得ない。
数日後。事態を重く見たショータは、コンを伴い、公式な招待を受けて帝都の城へと足を踏み入れた。
「……お初にお目にかかります、陛下。社のプロデューサー、ショータです」
「おお、貴殿が……。そして、そちらが噂の天狐様か」
コンはショータの指示通り、美術部仕込みの「幻想的な霧」を纏い、最高級の油揚げで磨き上げた尻尾を神々しく揺らして微笑んだ。
「ふふん! 皇帝よ、案ずるな。我は器の大きな女神なのだ(にょだ)! 地母神ごときと喧嘩するつもりは毛頭ないぞ(にょだ)!」
「……噛まなければ完璧だったんだがな。陛下、彼女の言う通りです。私たちは教会の市場を奪いたいわけじゃありません。提案したいのは、『共同開催』です」
ショータは現世での「神仏習合」の歴史と、営業での「競業他社とのJV(共同企業体)」のノウハウを提示した。
「いいですか、陛下。挙式のメイン(儀式)は教会の伝統に則り、城の礼拝堂で行いましょう。しかし、その後の『披露宴』と『縁結びの祝福』を、我が社の特設会場で行う。……つまり、伝統は守りつつ、最新のトレンド(天狐の加護)も取り入れる。教会のメンツも立ち、民衆の期待にも応えられる『宗教ハイブリッド・ウェディング』です」
「……ほう。両方の顔を立てつつ、利権を分かち合うというのか」
皇帝の目が、老練な政治家のそれに変わった。
「さらに、挙式の模様を白玉(次元通信)で各地のサテライト会場に中継し、教会と社の『共同名義』でお守りを限定販売する。……これなら、教会側も文句を言うどころか、新たな『寄付金』に飛びつくはずです」
「……卒がないな、聖者殿。いや、プロデューサー殿。……よかろう。その条件で、教会側と最終調整に入らせよう」
皇帝は満足げに頷いた。
コンは「ショータ、貴様は神様まで抱き合わせ販売にするのか……!」と戦慄していたが、社の帳簿には既に「帝都公認・共同事業」という巨大なタイトルが刻まれていた。




