第三十三話:皇帝の謁見と、くのいち流「傾城けいせい」の策
第三十三話:皇帝の謁見と、くのいち流「傾城」の策
「……よし、キキョウ。リサを城へ呼ぶ『召喚状』が出た。いよいよ最終プレゼン(面接)だぞ」
帝都の広報(噂話)を操作し、エドワード王子と町娘リサの恋を「運命の美談」に仕立て上げたショータ。ついにその噂は、帝国の頂点、皇帝(お父様)の耳に届いた。
ショータは、城へ向かうリサを社の隠し部屋に呼び、影のエージェント・キキョウを対面させた。
「リサさん。皇帝陛下は、ただの『パン屋の娘』を見たいのではありません。……『王家を支える器』があるかを見極めようとしています」
「えぇ……。リサ、ただのパン屋の娘だよぉ……。皇帝陛下なんて、怖くて声も出ないよ……」
震えるリサに、キキョウが音もなく歩み寄り、その肩に手を置いた。
「……案ずるな。私が九尾の元で学んだ、対人操作の極意を教える。……いいか、『視線の外し方』と『香りのまとい方』。そして、相手の呼吸に自分の瞬きを合わせる『調息』。これだけで、老練な皇帝の心も卒なく(そつにゃく)……あ、噛んだ」
「コンの噛み癖が移ってるな。……いいかリサ。これは『騙し』じゃない、『マナーの過剰摂取』だ。皇帝に『この娘なら、息子の隣に置いても帝国の品位を下げない』と思わせれば、勝ちだ」
数日後、帝都・黄金の間。
厳格な空気が漂う中、皇帝の前にリサが跪いた。エドワード王子が横で真っ青になりながら見守る中、リサはキキョウ直伝の「忍びの礼法」を披露した。
「……ほう。パン屋の娘と聞いたが、その立ち振る舞い。……迷いがないな」
皇帝の鋭い眼光を、リサはキキョウに教わった「三分の隙」を保ちながら受け流した。さらに、ショータが美術部で調合した「落ち着く香草」を衣に潜ませ、空間の緊張を「卒なく」和らげる。
リサが差し出したのは、あえて高級食材を使わず、帝都の素材を究極のバランスで焼き上げた「黄金のバゲット」。
「……ハフッ、ムシャッ。……ふむ。……実に、誠実な味だ。王家の贅に慣れた私にとっても、この『芯の通った素朴さ』は新鮮だな。……エドワード、お前の見る目は正しかったようだ」
皇帝の厳格な顔が、ふっと父親のそれに緩んだ。
「よかろう。リサよ、我が息子の……帝国の未来を、共に焼いて(ささえて)くれるか?」
「……はい! 謹んでお受けします!」
こうして、帝都始まって以来の「パン屋の皇太子妃」が誕生した。
社の縁側で白玉の報告を聞きながら、ショータは帳簿に莫大な「縁結びコンサル料」を記入した。
「ショータ! また成婚なのだ! 帝都からも寄付金が山積み(やまじゅみ)なのだぁー!」
「リリィも、新しいウェディング・ケーキの注文がいっぱいで嬉しい悲鳴ですぅ!」
「……ふぅ。これでキキョウの初仕事も『完了』だな」
影から現れたキキョウが、少しだけ照れくさそうに尻尾を揺らした。
卒なく、しかし今や「帝国の継承」まで裏で操り始めたショータ。
天狐の社は、もはや神社の枠を超え、異世界の運命を愛とパンの香りで書き換える最強のフィクサー集団へと登り詰めようとしていた。




