第三十一話:縁結びの影(エージェント)と、神前の誓い
第三十一話:縁結びの影と、神前の誓い
嵐のような閲兵式とプロポーズが終わり、境内には穏やかな夕刻の光が差し込んでいた。捕縛されたくノ一・キキョウは、社の地下にある「特別応接室(という名の取調室)」で、ショータと対峙していた。
「……殺せ。失敗した忍びに、明日の陽光は不要だ」
「物騒なこと言うなよ。うちはホワイト経営がモットーなんだ」
ショータは現世での「ヘッドハンティング」の手法を使い、キキョウの前に一本の契約書を置いた。
「お前、九尾の元に帰っても『減給』か『魂の抽出』だろ? うちなら福利厚生で油揚げ食べ放題、有給完備だ。お前のその隠密スキルを、今度は『縁結びの工作』に使ってみないか?」
「縁結びの……工作……?」
「コン、仕上げだ。お前の新技で、こいつにこびりついた『九尾の毒気』をデトックスしてやれ」
「任せろなのだ! 霊力がさらに高まった我の、進化した一撃……! 秘技・『天つ狐の閃き(あまつぎつねのひらめき)』ッ!」
ピッカァァァッ!!
境内に、前回を凌ぐ「物理的に目に悪い」ほどの超絶閃光が炸裂した。
「……あ、あれ? 胸のざわつきが消えて、九尾様のパワハラ(呪い)が思い出せなくなったですぅ……」
毒気を抜かれ、ポカンとするキキョウ。彼女の耳はコンと同じ狐耳がひょこりと立ち上がっていた。
「よし、採用。今日からお前は、社の『影の縁結びエージェント』だ。……さて、次は本番だぞ」
数日後。天狐の社では、世界中が見守る中でガイとアーシェの婚約の儀が執り行われた。
新調された白銀の正装を纏うガイと、淡い巫女風のドレスに身を包んだアーシェ。二人が神前に並ぶ姿に、参拝客からは惜しみない拍手が送られる。
「……ガイ殿。私、修行に来たはずなのに、いつの間にか一生の誓いを立てておりますわ」
「俺もだ、アーシェ。……だが、この『卒のない聖者』の社でなら、どんな未来も悪くないと思える」
儀式のクライマックス。舞台の上で、コンがかつてないほど優雅に、そして真剣に舞い始めた。
「――天つ狐の舞、いざ奉納なのだ!」
黄金の桜吹雪のような霊力が舞い散り、二人の頭上に柔らかな光の輪を作る。
リリィが「お幸せにですぅー!」と花吹雪をパタパタさせ、キキョウが影から「……末永く(ちっ、眩しいな)」と呟きながら守護する。
ショータはその光景を、拝殿の柱にもたれながら眺めていた。
(……プロデュース料、祝儀、縁結び守りの売上……。うん、過去最高の利益だな)
卒なく、しかし今や「人の幸せ」さえも事業計画の一部に取り込んだショータ。
「飽き性」の天才が築いた社は、ついに二つの国を結ぶ、世界唯一の「幸福のハブ(中継地点)」としてその名を歴史に刻み始めた。




