第三十話:運命の閲兵式と、前代未聞の「捕縛プロポーズ」
第三十話:運命の閲兵式と、前代未聞の「捕縛プロポーズ」
雲一つない蒼天の下、天狐の社の境内はかつてない熱気に包まれていた。
今日は帝都騎士団による公式閲兵式当日。ショータが「現世のイベント運営」の粋を集めてプロデュースしたこの日は、参拝客だけでなく、エストレア王国から国賓としてアリア王女も招かれ、接待役のバドが忙しなく采配を振るっていた。
「おおお! 見ろ、帝都の精鋭だ! 鎧の輝きが違ぇ!」
地響きのような歓声と共に、ガイ率いる騎士団が入場する。その規律正しき行軍は、まさに帝国の威光そのものだった。バドは満足げに頷き、アリア王女へ帝国の軍事力をアピールする絶好の機会だと、その鋭い目を細めた。
そんな喧騒の真っ只中、サイン会の列に紛れていたくノ一・キキョウは、冷や汗を流していた。
(……な、何事だ!? 偵察ではただの神社だったはず。なぜこれほどまでの軍勢が……!)
周囲を帝都の精鋭に囲まれ、絶体絶命の包囲網。もはや隠密行動どころではない。自暴自棄になったキキョウは、編み笠を投げ捨て、デスクでサインを書いていたアーシェの背後へ向かって跳躍した。
「せめて、貴様の首だけでもぉッ!」
「――甘いな」
鋭い金属音が響く。アーシェに届く直前、キキョウの腕をガシリと掴んだのは、閲兵式の行軍から電光石火の速さで離脱したガイだった。
ガイの反応速度。彼はキキョウを組み伏せ、地面に叩きつけた。
「……えっ、ガ、ガイ殿!?」
ペンを握ったまま硬直するアーシェ。参拝客からは「おおお! 暴漢を一瞬で!」「流石は帝都の騎士団長!」と、これも演出の一環だと言わんばかりの凄まじい大歓声が上がる。
鳴り止まない拍手の中、ガイは賊を片手で押さえつけたまま、真っ直ぐにアーシェを見つめた。
「アーシェ。……修行に出ると聞いてから、夜も眠れなかった。あの日、共に戦ったあの日から、俺は...」
「えっ……あの、ガイ殿、何をおっしゃって……」
「……エストレアとの同盟、そして俺個人の願いとして。……この戦いが終わったら、俺の妻になってくれないか」
静まり返る境内。そして、刹那の沈黙の後に爆発的な歓声が沸き起こった。アリア王女は扇を広げて「あらあら、素敵ですわ!」と感激し、バドも「これも台本通り……ではないな、むぅ」と驚きつつも、国家間の絆が深まる好機に目を輝かせた。
「……ははっ。参ったな、一本取られたよ、これは俺の予定にはなかったな」
拝殿の影で一部始終を見ていたショータは、苦笑しながら溜息をついた。
(……賊を捕まえながらプロポーズかよ。営業のクロージングにしちゃあ、これ以上ないドラマチックなタイミングだな)
「ショータ! 大変なのだ! アーシェが真っ赤になって気絶しそうなのだ(しそうにゃのだ)!」
コンがはしゃぎ、リリィが「ひゃああ、尊いですぅ!」と羽をパタパタさせる。
卒なく、しかし予想外の「愛の告白」によって、天狐の社は今、世界で最も熱い「縁結びの聖地」へと昇華しようとしていた。




