第二十七話:凱旋の美酒と、魔界のシビアな査定
第二十七話:凱旋の美酒と、魔界のシビアな査定
「……ふぅ。一案件、コンプリート(完遂)だな」
九尾の炎が消え去った王都エストレア。ショータは戦場の後片付けを「卒なく」差配しながら、勝利の余韻に浸っていた。
その夜、王都の広場では、アリア王女の号令により未曾有の大宴会が催された。
「乾杯! 聖者様と天狐様に、永遠の栄光を!」
兵士たちの咆哮が夜空を震わせる。ショータはちゃっかり『天狐亭・出張所』を設営し、現世の「ケータリング・ノウハウ」を駆使して、秘伝のタレで焼いた魔物肉の串焼きを飛ぶように売っていた。
「ショータ! 油揚げも完売なのだ! 信仰心が、溢れて止まらんのだ(にょだ)!」
「リリィも、ドリンクのデリバリーでチップをたくさん貰っちゃいましたぁ! 転職して良かったぁ!」
喧騒の隅、焚き火のそばでは、二人の騎士団長が肩を並べていた。
「……ガイ。貴殿の盾がなければ、私はあの一撃を喰らっていた。感謝する」
「よせ、アーシェ。お前の剣速があったからこそ、俺は守りに専念できたんだ。……お前は、強いな」
見つめ合う二人。だが、そこへ両国の騎士たちが「待ってました」とばかりに割って入る。
「おやおや、団長! 距離が近くありませんか!?」
「帝都とエストレア、これは『騎士団合併』の予感ですな!」
「う、うるさい! 貴様ら、明日の朝は素振り万回だぞ!」
顔を真っ赤にするアーシェを、ガイが珍しく照れくさそうに視線を逸らして見守る。
宴の最中、アーシェはアリア王女の前に進み出た。
「アリア様。……お願いがございます。来たるべき魔王軍の本攻に備え、私は『天狐の社』へ出向し、修行に励みたく存じます」
(……本音:社の隣にはガイのいる帝都がある。そこなら合同訓練という名目で、いつでも……!)
アリア王女は、愛弟子の微かな「本音」を察したのか、優しく微笑んだ。
「よろしい。貴女の剣を、聖者様の下でさらに磨きなさい。エストレアの誇りとしてね」
一方、暗雲垂れ込める魔界の城。
敗走した九尾の前に、モノクルを光らせた人事部長ベルゼが、山のような書類を抱えて立っていた。
「……九尾。今回の王都エストレア侵攻の失敗、および黒狐・赤狐の重傷。これらは甚大な損失です。まずはこの『敗戦報告書』および『備品損壊届』を三日以内に提出してください」
「おのれ、ベルゼ……! この我に、事務仕事を強いるか……!」
「それだけではありません。今回の不祥事、次回のボーナス査定(魔界の呪い支給)に大きく響きますよ。マイナス200%といったところでしょうか」
「んな...なんですってぇ!? 呪いが足りなければ、私の美貌が維持できないではないの!」
悔しさに震える九尾。魔王軍のブラックな規律は、敗者に一時の休息さえ与えなかった。
卒なく、しかし今や「国」をも動かし始めたショータ。
アーシェという新たな「出向社員」を迎え、天狐の社は、最強の軍事・信仰複合施設へと更なる進化を遂げようとしていた。




