第二十六話:暗黒の遮断と、勇気の一太刀
第二十六話:暗黒の遮断と、勇気の一太刀
「……しつこいな。九尾、お前の敗北は既に『確定事項』だ。コン、出力を最大に上げろ!」
ショータの鋭い指示が飛ぶ。追い詰められた九尾の執念か、黒狐が再び吠えた。地を這う影が津波のように押し寄せ、戦場を光の届かぬ『暗黒フィールド』へと変貌させる。実体のない暗黒狐が無数に解き放たれ、コンの浄化の光を物理的に遮断しようと群がった。
「させるかぁー! 我が社の社員を甘く見るななのだ(みるにゃのだ)! 行くぞ、ちびっ子たち! 『天つ狐のオーロラエクスキュージョン(あまつぎつねのおーろらえくすきゅーじょん)』ッ!」
コンの呼びかけに応じ、ランクアップで成長した小狐たちが一斉に空を舞った。その一匹一匹が、現世の最新照明をも凌ぐ純白の狐火を灯し、夜を切り裂くオーロラのごとき輝きで暗黒狐を次々と蒸発させていく。
一方、逆転を狙う赤狐が『灼熱の息』を騎士団長ガイへ向けて放った。
「――ぬぅん!」
ガイは一歩も引かず、重厚な大盾を構えて業火を正面から受け止める。鎧が赤く焼ける異臭が漂うが、その巨躯は微動だにしない。
「今だ、アーシェ!」
「任せて、ガイ!」
盾の影から、バネのようにアーシェが飛び出した。炎の余熱を切り裂き、銀光の一閃が赤狐の眉間を深く切り裂く。悲鳴を上げる巨獣。二人の騎士団長の「背中を預け合う信頼」という名の連携は、もはや魔王軍の理解を超えていた。
そして、本陣の九尾は、かつてない窮地に陥っていた。
アリア王女率いる数千の城兵が、文字通り「壁」となって九尾を包囲し、ひっきりなしに槍と剣を突き立てる。流れるような兵の動き。さながら軍神の采配のようだ。
さらに魔術の詠唱を行おうとすれば、ショータの指示による正確な投石と矢の雨がそれを阻む。
「……おのれ、汚らわしい人間どもが……! この我に、泥臭い肉弾戦を強いるか……っ!」
九尾は優雅な扇を捨て、その鋭い爪で兵をなぎ払うが、多勢に無勢。魔力を使う隙を完全に封じられ、その端麗な顔には焦りと屈辱が混じり始めていた。
「――ここまでだ、九尾。お前はもう退勤時間を過ぎている。残業代は払えないんでね!」
ショータがトドメの言葉を放った瞬間。
「……くっ、覚えおれ! 全てを焼き尽くせ!」
九尾は最期の魔力を振り絞り、空中へ高く跳躍した。直後、戦場に巨大な火の海が作り出され、兵たちが怯んだ隙に、彼女は深手を負った黒狐と赤狐を影へと引き込む。
「撤退だ……! この屈辱、必ずや魔王軍の城にて晴らしてくれよう!」
炎のカーテンの向こう側へ、九尾の影が消えていく。
卒なく、しかし王国の運命を懸けた大一番。王都エストレアに、ついに勝利の朝日が昇ろうとしていた。




