第二十三話:失われた神話と、黒赤の双狐
第二十三話:失われた神話と、黒赤の双狐
エストレア王国へと続く山道、一行は野営の火を囲んでいた。ショータは白玉の端末に映し出された古文書の断片を、営業マン時代の「競合分析」のごとき速さで解析し、コンに向き直った。
「……コン。お前の家系図、だいぶ血生臭いな。これ、経営再建どころか『存続の危機』の歴史だろ」
ショータの言葉に、コンは珍しく真剣な、どこか寂しげな表情で頷いた。
「そうなのだ……。かつて我ら天狐の一族は、たった一人の九尾によって絶滅の淵まで追い詰められた。奴は同族の霊力を喰らう、呪われた捕食者。我が一族で生き残ったのは、神器『白玉』を抱えて逃げ延びた二匹の小さな狐だけだった……」
「その二匹が、あの社の地で人々に拾われた……。それがお前の先代、じいちゃん天狐ってわけか」
ショータは現世の「創業者の苦労話」をなぞるように、その物語を補完した。わずか二匹から始まった再起の物語。それが今の社のルーツだったのだ。
「その九尾ですが……」
騎士団長アーシェが、焚き火の明かりに照らされた地図を指差す。
「奴は自ら戦うだけでなく、『黒狐』と『赤狐』という二頭の巨大な化身を操ります。その巨体は城門を粉砕し、一頭で騎士団一個連隊に匹敵する戦力……。我ら人間だけでは、手も足も出ませんでした」
ショータはアーシェが共有した戦報を即座に脳内でシミュレーションし始めた。
「……黒狐は影に潜み、赤狐は熱を操る。なるほどな。コン、お前の『天つ狐の輝き』は、この二頭の波長を打ち消すための『逆位相』として使えるはずだ。リリィは空中からの索敵と、熱感知。ガイの連隊は、俺が指示する『型』で包囲網を作れ」
淀みなく戦術を組み立てるショータの姿に、アーシェは目を見開いた。
(……わずかな情報から、奴らの能力を完全に解体してみせた……。王都の戦術家ですら数ヶ月かかる分析を、この男は数分で……!)
「聖者様。貴方のその『見通す力』があれば、あるいは……」
「聖者じゃなくて、ただのプロデューサーだ。……アリア様の勘違いがまだ続いていたのか。いいか、アーシェ。九尾の戦力は一個連隊分かもしれないが、俺の『マニュアル』に従えば、その損失は最小限に抑えられる。無駄な犠牲は、俺の美学に反するからな」
ショータの冷静な、しかし確信に満ちた言葉に、アーシェの心に宿っていた不安が、信頼という名の熱に変わっていく。
「ふふん! さすがは我がプロデューサーなのだ(にょだ)! 我も先代のあっ(舌噛んだ)あだだだだ!...を討つべく...!」
「『あだだだ』って……台無しだ。さっさと寝ろ、明日は決戦の地だぞ」
卒なく、しかし一族の宿命を背負って。
ショータたちの進軍は、ついに九尾の影が差すエストレア王都へと到達しようとしていた。




