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『飽き性な俺の器用貧乏、異世界で「神の模倣者」へと至る 〜3ヶ月で極めて捨てる生活を卒業し、天狐様と終わらないクエストへ〜』  作者: A古町
第1章Celestial Fox

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第二十話 炎上対策と、魔界人事部長の「孤独な食レポ」

第二十話:炎上対策と、魔界人事部長の「孤独な食レポ」


「……よし。風評被害対策リスクマネジメントの基本は『情報の書き換え』だ。リリィ、泣いてる暇はないぞ。『地域密着型アピール』を開始する」


 先日の「悪魔騒動」で客足が遠のいたやしろ。ショータは現世での「広報・PR活動」のノウハウをフル回転させた。

 境内に掲示されたのは、ショータが美術部の腕で描いた巨大なポスター。そこには、リリィがこれまで「卒なく」こなしてきた、お年寄りの荷物運びや、迷子の案内、小狐たちと掃除をする姿が感動的なタッチで描かれていた。


「リリィさん、あんなに一生懸命だったのに……」「そういえば、うちの屋根を直してくれたのも彼女だったわ」


 村人たちの間で、少しずつ記憶が補完されていく。リリィは目を腫らしながらも、再び巫女服の袖を捲り上げた。


「リリィ、やっぱりみんなの『信頼』が欲しいですぅ……。お給料きゅうりょうも大事だけど、笑って『ありがとう』って言ってもらえるのが、一番パタパタ頑張れるんですぅ!」


「気づいたか。それがビジネスにおける最大の無形資産、『ブランド・ロイヤリティ』だよ」


「ショータ! 良いこと言ったな(いったにゃ)! 我も感動して尻尾が震える(ふるえるぅ)のだ!」


 ショータのデコピンが飛ぶ中、リリィは境内の掃除を再開した。そのひたむきな姿に、一人、また一人と参拝客が戻り始める。


 そんな喧騒を離れ、社の隅にある「食堂・天狐亭」のカウンター。

 端の席に、私服(といっても高級な黒のタートルネック)を纏ったベルゼ部長が座っていた。


(……ふん。信頼、ブランド、ロイヤリティ。人間ごときが小癪な。……だが...偵察も空腹では捗らん。まずはこの『天狐そば』とやらを検分させてもらおう)


 運ばれてきたのは、黄金色のつゆに、ショータが「現世の配合」で打たせた二八そば。その上には、コンが霊力を込めてふっくら炊き上げた巨大な油揚げが鎮座している。


(ほう……。まずはつゆだ。……ズズッ。……! なんだ、この奥行きのある出汁は。鰹の香りに、この世界特有の魔力ハーブが隠し味か。暴力的なまでの旨味が脳髄を直撃する。

 次に麺を……。ズズズッ! 強い。コシが、魔界の鋼鉄よりも強い。噛むほどに蕎麦の香りが鼻を抜け、つゆの塩気と完璧に調和ハーモニーを奏でている。

 そして、この油揚げだ。……ハフッ、ジュワッ。……おぉ、これだ。噛んだ瞬間、中に閉じ込められた甘辛い蜜が溢れ出す。これはもはや、揚げではない。至高の『枕』だ。この上に寝たい。……いかん、私は何を考えているのだ)


 ベルゼは無言で、しかし凄まじい勢いで蕎麦を完食した。モノクルの奥で、彼の瞳が潤んでいる。


(……ふぅ。これが『ホワイト』の味か。魔界の配給食とは、根源的な『喜び』が違う。……リリィよ。貴様が戻りたがらない理由、人事部長として……わずかに理解してしまったかもしれん)


 ベルゼは満足げに、そして少し寂しげにため息をついた。

 ふと横を見ると、境内で村人たちに囲まれ、照れくさそうに笑うリリィの姿があった。


「ショータさん! リリィ、もっともっと、この社のために頑張りたいですぅ!」


「いい顔になったな、リリィ。……おい、コン。お前も感動してる暇があったら、お冷やのお代わり(おかわりぃ)を運べ。客が待ってるぞ」


「わわ、分かった(わにゃった)! 今すぐ行くのだ(いくにょだ)!」


 ベルゼは、代金を(少し多めに)置いて立ち去った。

 卒なく、しかし今や「心」まで動かし始めたショータの経営。

 魔王軍最強の刺客は、胃袋を掴まれたまま、夕闇へと消えていった。

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