第二話:天狐様は、期待に応えてくれない
前代未聞の「落下による異世界転移」を果たしたショータ。しかし、彼を待っていたのは伝説に語られるような厳かな神の導き……ではありませんでした。
第ニ話では、自称・神の使いである天狐との、締まらないファーストコンタクトが描かれます。絶世の美女でありながら、肝心なところで舌が回らないポンコツ守護神と、現世のあらゆる経験を武器に冷徹なツッコミを入れ続けるショータ。
第二話:天狐様は、期待に応えてくれない
「……おい、起きろ。死んでるのか? 死んでるなら今のうちに魂だけ回収するが」
頬をぺちぺちと、遠慮なく叩かれる感触で目が覚めた。
ショータが顔をしかめて目を開けると、そこは冷たい石畳の上だった。背中に伝わる硬い感触は、先ほどまでいた神社の境内に似ているが、漂う空気の密度が明らかに違う。
視界に飛び込んできたのは、絶世の美女だった。透き通るような白肌に、長い睫毛。そして頭頂部から生えた、ピンと尖った淡い茶色の狐耳。
彼女はショータの顔を覗き込み、さらに「ぺちっ」と一発、頬を張った。
「痛って。……生きてるよ。勝手に魂抜こうとするな」
「おお、生きておったか! よかった。せっかく召喚したのに一歩目で死なれては、我の面目丸潰れだからな!」
「確か...稲荷神社に居たはずなのに、ここ、どこだよ」
「ここは現世と異世界を繋ぐ『狭間の境界』。そして我こそは、貴様を導く稲荷神の使い、天狐様だ!」
ショータはむくりと起き上がり、目の前の「自称・神の使い」をじろじろと眺めた。
「にしては、詰めが甘くないか。コン」
「コン!? 我の名は……いや、それより詰めとは何だ!」
「さっきの落下中のナレーション、あんただろ。最後『いらっしゃいまふぇ』って言ったよな。神の使いなら噛むなよ。一気に安っぽくなったわ」
「うぅぅ、うるさい! あれは緊張して……いや、神聖なる古語の響きであって!」
顔を真っ赤にして抗議する彼女。ショータの冷ややかな視線に耐えかねたのか、彼女は「本物アピール」を開始した。
「ほら見ろ! この耳、被り物ではないぞ!」
彼女はショータの目の前まで顔を近づけ、頭を下げて狐耳をピコピコと動かしてみせた。
「見て、ほら! 毛並みも最高級なのだ! 触ってもよいぞ? ……あ、やっぱりダメだ! 畏れ多いからな!」
さらに、彼女はぐるりと身体をひねり、ふさふさとした尻尾をショータの鼻先に突きつけた。
「この尻尾の弾力を見よ! 嗅いでみろ、獣臭さなど一切ない、神聖な香りがするであろう! これこそ本物の天狐の証、異世界の神秘そのものなのだ!」
スタイル抜群の美女が、必死に「自分は狐だ」とアピールする姿は、神々しさよりも滑稽さが勝っていた。ショータは呆れ半分にその尻尾を軽く指で弾いた。
「……はいはい。質感はわかった。で、その天狐様が、俺みたいな飽き性に何の用だ?」
「ふん。貴様のその『器用の極致』……あらゆる物事を即座に習得する力が必要なのだ。今から貴様を、我が守護する『社』のある世界へ送る。あのアナウンスが噛んだお詫びに、最初は『卒なく』済ませられる場所に落としてやる!」
コンが印を結ぶと、石畳の上に黄金の魔法陣が浮かび上がる。
「おい、噛んだこと認めたな。それより、場所って具体的に――」
「いってらっしゃいまふぇー!」
「また噛んだろお前!ぇぇええー!」
コンが指先から放った魔法の光が爆発した。
石畳が崩れ、ショータの身体は激しい閃光と共に、未知の重力へと吸い込まれていった。
第二話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに異世界の案内役(?)である天狐のコンが登場しました。絶世の美女なのに、ここ一番で噛んでしまう「残念な女神」っぷりは、冷徹で合理的なショータにとって、現世にはいなかった「計算不能な不確定要素」です。




