第十九話 魔界の人事部長と、収拾不能の「天狐パレード」
第十九話:魔界の人事部長と、収拾不能の「天狐パレード」
「……リリィ、そのおみくじの補充が終わったら次は——」
「はーい、分かりましたぁ! でもショータさん、もう羽が棒だよぉ。パタパタしすぎて、リリィの背中が筋肉痛で爆発しそうなんですぅ……」
リリィが可愛らしく(しかし本気で)泣き言を漏らしたその時、空がにわかに掻き曇り、天を貫く雷鳴が社を震わせた。
紫の雷光と共に境内に降り立ったのは、仕立ての良い漆黒のスーツを纏い、モノクルを光らせた上位悪魔。魔王軍四天王の一人、人事管理部長ベルゼ・ロジスティクスである。
「見つけましたよ、リリィ。無断欠勤および、競合他社への機密漏洩……。これは重大なコンプライアンス違反です」
「ひっ、ベ、ベルゼ部長……! なんでここにぃ!?」
ベルゼの目が怪しく赤く発光する。その魔力に当てられたリリィは、瞳から光を失い、地面に降り立つとフラフラと歩き出した。
「デビ……デビ……デビ……」
「うわああ! 悪魔だ! 巫女さんが化け物になったぞ!」
平和に参拝していた客たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。阿鼻叫喚の騒ぎを聞きつけ、ショータとコンが奥から飛び出した。
「おい、営業妨害だぞ。アポなしの訪問はマナー違反だ、黒スーツ」
「ショータ! あいつ、めちゃくちゃ強そうなのだ(つよそうにゃのだ)! 霊圧ハンパないって!」
「ふん、人間。この娘は我が社の所有物だ。返してもらおうか」
ベルゼが指を鳴らすと、周囲にどろりとした闇の結界が広がる。ショータは現世での「労働法(異世界版)」を盾に、鋭い舌戦を仕掛けた。
「所有物? 笑わせるな。リリィは自らの意志で退職届を出している。有給消化もさせず、不当な拘束を続けるなら、王都の労基署……いや、バド様に報告して国際問題にするぞ」
「……口の減らぬ男だ。ならば、力ずくで『再雇用』するまで!」
ベルゼが闇の奔流を放とうとしたその時、コンが前に躍り出た。
「させるか! 我が社の....いや、我が社の、社員?...社員は、我が守護する(しゅごしゅる)! 行くぞショータ、我の真の力を見せてやる(みせてやるぅ)! 秘技・『天つ狐のオーロラエクスキューーッジョン』ッ!」
凄まじい光と共に、虚空から無数の輝く狐たちが召喚され、闇を噛み砕く……はずだった。
「わーい! お外だー!」「あっちに油揚げがあるぞー!」「リリィお姉ちゃんだぁ! 遊んで遊んでぇ!」
召喚された小狐たちは、ベルゼを攻撃するどころか、嬉しそうに境内を飛び回り、リリィにじゃれつき、逃げ遅れた参拝客の荷物を漁り始めた。まさに収拾不能のパレード状態。
「……な、なんなのだこの統率のなさは。我が魔界の規律では考えられんカオス……。正気が削られる……。今日のところは引き上げますが、リリィ、次はありませんよ」
ベルゼは頭を押さえ、あまりの「非効率」な光景に胃を痛めたのか、闇の中に消えていった。
「ふふん! 見たかショータ! 我の奥義で敵を追い払ったぞ(おいはらったじょ)! 感謝しろ!」
得意げに胸を張るコン。だが、ショータは飛び回る小狐たちにデコピンをしながら、冷めた声で言い放った。
「追い払ったんじゃなくて、あっちが呆れて帰っただけだろ。これ、またしても宴会芸にもならないぞ。……それより見ろ。戻ってきた参拝客が、リリィやお前の狐たちを見てなんて言ってるか」
「……ひそひそ(やっぱりここ、悪魔を囲ってる邪教の社なんじゃ……)」「ひそひそ(あの狐たち、リリィちゃんを襲ってるように見えるわ……可哀想に……)」
「……あっ」
正気を取り戻したリリィが、小狐たちに揉みくちゃにされながら困惑しているが、社のブランドイメージは文字通り崩壊していた。
「あうぅ……リリィ、みんなに怖がられちゃったんですぅ……。ショータさん、どうにかしてぇ!」
「……よし、コン。次のクエストは『風評被害の払拭(リピート率回復)』だ。……あと、その飛び回ってる狐たちを全部リース契約に回せ。タダで遊ばせるな」
「女神らしい感動の余韻が台無しなのだぁー!」




