第十七話 異世界ハローワークと、ブラック魔王軍の残業代
第十七話:異世界ハローワークと、ブラック魔王軍の残業代
「……おい、そこ。植え込みの影でメモ取ってるやつ。不審者の追跡は営業の基本だぞ」
軍事訓練の視察を終えた帰り道、ショータは社の石段脇に潜んでいた影に声をかけた。
びくっと飛び出してきたのは、頭に小さな角、背中にパタパタと頼りない羽を生やした悪魔の少女・リリィだった。手には「悪魔のフォーク」というよりは「大きな食器のフォーク」にしか見えない槍を持ち、細い尻尾を不安げに揺らしている。
「ひ、ひぃぃ! 見つかったぁ! 偵察任務失敗ですぅ! 戻ったら魔王様に魂抜かれるか、連勤400日の刑ですぅ!」
「……連勤400日? お前、魔王軍ってどんな勤務体系なんだよ」
ショータが呆れて問いかけると、リリィはポロポロと涙をこぼしながら、現世のブラック企業顔負けの労働実態をぶちまけ始めた。
「休憩なし、有給なし、ボーナスは魔界の呪い一発! 今回の偵察も『死ぬまで帰ってくるな』って言われてて……。あ、あうぅ、もう限界ですぅ……」
ショータは現世での営業時代、競合他社の過酷なノルマに潰れていく新人たちを何度も見てきた。彼はリリィの「フォーク」を解析し――【鉄分不足・メンテナンス不良】。そして彼女の表情を、営業マンの「メンタルケア」の視点で読み解いた。
「……リリィと言ったか。お前、その魔王軍、辞めたくないか?」
「えっ……? でも、悪魔が軍を抜けるなんて、そんなの不義理で……」
「不義理じゃなくて『損切り』だよ。いいか、コン。こいつ、ちょうどいいだろ」
ショータは、隣で油揚げを齧っていたコンを指差した。
「えっ、我か!? 確かにこの娘、悪魔のくせに気弱で放っておけぬ(ほっておけにゅ)が……」
「お前のその『天つ狐の輝き』、街灯だけじゃなくて『撮影スタジオ』としての需要も出てきた。照明係、欲しかっただろ」
ショータは営業マン特有の、相手を逃がさない「クロージング」のトーンでリリィに詰め寄った。
「リリィ、うちの社で働かないか?
1. 残業代完全支給(お供え物の肉付き)。
2. 週休二日(コンの噛み癖矯正日は休み)。
3. 充実の福利厚生(現世のスイーツ支給あり)。
……どうだ、魔王軍を裏切るんじゃなくて、うちへ『ヘッドハンティング』されるんだ」
「……ホント、ですか? 毎日寝ていいんですか? お肉、食べられるんですか……?」
リリィの目が、現世の深夜残業終わりのサラリーマンのような必死さで輝いた。
「ああ。ついでに、その下手なフォークも俺が研いでやる。……よし、コン。今日からリリィはうちの『照明補助兼、魔王軍情勢コンサルタント』だ」
「おおお! 新しい仲間なのだ! リリィ、よろしく(よろしゅく)な!」
「噛むな。……リリィ、まずはその震えを止めて、社で油揚げでも食ってろ」
「はいぃぃ! 転職万歳ですぅ!」
卒なく、しかし着実に。
ショータは魔王軍の偵察員を、わずか数分の「中途採用面接」で取り込んでしまった。
魔王軍のブラックな内情を握ったショータの「異世界経営」は、いよいよ「国家機密の独占」へとステージを上げていく。




